Timed Up and Go test

Timed Up and Go testとは

Timed Up and Go test(TUG test、タイムド・アップ・アンド・ゴー・テスト) とは、高齢者や神経疾患患者の基本的な移動能力とバランス機能を簡便に評価する機能的評価法です。1991年にPodsiadloとRichardsonによって開発され、椅子から立ち上がり、3メートル歩行し、方向転換して戻り、再び着座するまでの所要時間を測定します。

特別な機器や広いスペースを必要とせず、評価時間は1~2分程度で完了するため、臨床現場で最も頻繁に使用される機能評価の一つです。測定される所要時間は、下肢筋力、バランス能力、歩行速度、姿勢変換能力を統合的に反映し、転倒リスク評価、ADL自立度判定、介入効果判定に広く活用されています。国際的にも標準化された評価法として認知され、多様な疾患・年齢層に適用可能です。

どこでみるのか

TUG testは、急性期病院、回復期リハビリテーション病棟、外来リハビリテーション、通所リハビリテーション、訪問リハビリテーション、介護施設、健診センターなど、あらゆる医療・福祉現場で実施されます。脳卒中患者、パーキンソン病患者、整形外科疾患術後患者、フレイル高齢者など、移動能力に問題を抱える可能性のある対象者に広く適用されます。

患者や家族からは「歩くのが遅くなった」「立ち上がるのに時間がかかる」「転びやすくなった」「外出が不安」といった訴えが聞かれ、これらの移動能力や転倒リスクを客観的に評価する目的でTUG testが実施されます。また、入退院時評価、治療効果判定、介護認定調査、地域検診などでも標準的に用いられています。

何をみているのか

TUG testでは、立ち上がり動作、歩行能力、方向転換、着座動作という一連の複合的な機能を統合的に評価しています。単一の機能ではなく、日常生活で頻繁に行われる基本的移動動作の遂行能力を捉えることができます。

測定される所要時間には、下肢筋力(特に大腿四頭筋、殿筋群)、動的バランス能力、歩行速度、姿勢制御能力、協調性、反応時間、認知機能(課題理解と遂行)などの多様な要素が反映されます。また、評価中の動作観察から、代償動作、ふらつき、不安定性、疼痛の有無などの質的情報も得られます。

臨床でどうみるか

TUG testの実施には、肘掛けのある安定した椅子(座面高さ約40~45cm)、ストップウォッチ、床に3メートルの距離を示すマーカー(テープなど)が必要です。評価環境は平坦で障害物のない安全な場所を選択します。

実施手順は以下の通りです。患者を椅子に深く座らせ、背もたれに背中をつけた状態からスタートします。「用意、スタート」の合図で、立ち上がり、普段の速度で3メートル先のマーカーまで歩き、マーカーで方向転換し、椅子まで戻って着座するまでの時間を測定します。ストップウォッチは「スタート」の合図と同時に開始し、臀部が椅子に完全に接した時点で停止します。

患者には事前に課題内容を十分に説明し、必要に応じて1回の練習試行を行います。測定は通常2~3回実施し、最良値または平均値を記録します。安全確保のため、評価者は常に患者の近くに位置し、転倒を防げる体制を整えます。患者が普段使用している歩行補助具(杖、歩行器など)の使用は可とします。

評価で何をみるか

TUG testの評価では、以下の項目を詳細に観察します。

  • 所要時間 - 健常高齢者の基準値は10秒以下、10~20秒は軽度機能低下、20~30秒は中等度低下、30秒以上は高度低下・高転倒リスク
  • 立ち上がり動作 - 上肢支持の必要性と程度、複数回の試行の有無、立位到達までの安定性、所要時間の比率
  • 歩行パターン - 歩幅の大きさ、歩行速度、左右対称性、体幹の安定性、足の挙上高さ
  • 方向転換動作 - 方向転換に要するステップ数(通常2~3歩)、動作の流暢性、バランスの安定性、一時停止の有無
  • 着座動作 - 制御された着座か急激な落下か、視覚確認の必要性、上肢支持の使用、安全性
  • 歩行補助具の使用 - 杖・歩行器の使用有無と種類、使用方法の適切性、依存度
  • 全体的な動作の質 - 動作の流暢性、途中での一時停止や躊躇、不安や恐怖の表出、姿勢の前傾や側傾
  • 認知的側面 - 課題理解の程度、二重課題への影響(会話しながらの実施で所要時間が延長するか)

これらの観察項目から得られる質的情報は、所要時間という量的データと同等に重要です。例えば、同じ15秒でも、スムーズに動作を遂行する場合と、何度も一時停止しながら慎重に進む場合では、臨床的意味が大きく異なります。上肢支持への依存度が高い場合は下肢筋力不足が示唆され、方向転換時の不安定性はバランス障害を反映します。また、認知機能低下がある患者では、課題理解や動作の計画・遂行に困難を示すことがあり、これも所要時間の延長要因となります。

臨床でよく出る問題

TUG test実施時に頻繁に観察される問題には以下があります。

  • 立ち上がりの困難 - 上肢を強く押して立ち上がる、複数回の試行が必要、ロッキング動作(前後に揺れる)の出現
  • 歩行速度の著しい低下 - 小刻み歩行、すり足歩行、極端に慎重な歩行、1歩ごとの躊躇
  • 方向転換時の不安定性 - 方向転換に5歩以上必要、バランスを崩しかける、一時停止して体勢を整える
  • 着座時の急激な落下 - 制御された着座ができず臀部が勢いよく椅子に接触、視覚確認の頻回な実施
  • 測定中の一時停止 - 動作途中で立ち止まる、バランスを立て直す時間が必要、評価者への支持を求める
  • 著しい所要時間延長 - 30秒以上かかる、疲労の出現、動作完遂への不安や恐怖の表出
  • 補助具への過度な依存 - 杖や歩行器に体重を大きく預ける、補助具なしでは実施不可能
  • 非対称な動作パターン - 一側下肢への過度な荷重、体幹の側方傾斜、麻痺側下肢の引きずり

これらの問題は、しばしば複合的に出現し、患者の機能障害の性質を反映します。例えば、パーキンソン病患者では小刻み歩行と方向転換困難が特徴的であり、脳卒中片麻痺患者では非対称な動作パターンと麻痺側下肢の機能不全が顕著です。高齢者では下肢筋力低下による立ち上がり困難と歩行速度低下が主な問題となります。問題の背景にある機能障害を理解することが、適切な介入計画の立案につながります。

起こりやすい要因

TUG test所要時間延長を引き起こす要因は以下の通りです。

  • 下肢筋力低下 - 大腿四頭筋、殿筋群、下腿三頭筋の筋力不足、立ち上がりや歩行の困難、加齢や廃用による筋力減少
  • バランス障害 - 前庭機能障害、小脳障害、感覚障害による姿勢制御不良、動的バランス能力の低下
  • 神経疾患 - パーキンソン病による運動緩慢・固縮・姿勢反射障害、脳卒中による片麻痺、多発性硬化症による協調運動障害
  • 整形外科的問題 - 変形性膝関節症・股関節症による疼痛と可動域制限、脊柱管狭窄症、骨折術後の機能低下
  • 視覚障害 - 視力低下、視野障害による空間認知の困難、バランス維持への視覚依存増大
  • 認知機能低下 - 課題理解の困難、注意機能低下、遂行機能障害、二重課題遂行能力の低下
  • 心理的要因 - 転倒恐怖感による過度に慎重な動作、不安による動作速度の低下、自信喪失
  • 心肺機能低下 - 呼吸器疾患、心疾患による運動耐容能低下、動作中の息切れや疲労

これらの要因は単独で作用することは少なく、通常は複数が組み合わさって影響します。例えば、高齢者では加齢による筋力低下、バランス能力低下、視覚機能低下が同時に存在し、さらに転倒恐怖感が加わることで、実際の身体機能以上に所要時間が延長することがあります。神経疾患患者では、運動機能障害に認知機能障害が併存することで、動作の計画・遂行がさらに困難になります。また、疼痛がある場合は動作速度が低下し、保護的な動作パターンが出現します。

注意したい症状

TUG test結果から注意すべき症状には以下があります。

  • 高転倒リスク - 所要時間13.5秒以上(転倒リスク増大の目安)、30秒以上(非常に高いリスク)、バランス喪失の瞬間
  • 評価完遂不能 - 課題を完了できない、途中で評価者の支持が必要、著しい疲労や呼吸困難の出現
  • 急激な機能低下 - 前回測定時より5秒以上延長、急性疾患や廃用の進行の可能性、医学的評価の必要性
  • 動作中の疼痛 - 膝・股関節・腰部の疼痛表出、疼痛による動作制限、整形外科的評価の必要
  • 著しい不安・恐怖 - 課題への拒否、過度な緊張、評価者への頻繁な支持要求、心理的介入の必要性
  • 認知機能の問題 - 課題理解の困難、指示の反復が必要、動作の途中で課題を忘れる、見当識障害の併存
  • 呼吸循環系の問題 - 動作中の著しい息切れ、顔色不良、血圧・脈拍の異常変動、心肺機能評価の必要
  • 補助具なしでの実施不可 - 杖や歩行器なしでは転倒リスクが極めて高い、環境調整や福祉用具の導入検討

これらの症状や所見は、単なる評価結果以上の臨床的意味を持ちます。所要時間が転倒リスクのカットオフ値を超える場合は、環境調整、見守り強化、転倒予防プログラムの導入が必要です。評価完遂不能な場合は、より基本的な機能評価(座位バランス、立位保持など)から開始し、段階的な機能改善を目指します。急激な機能低下は、新たな疾患の発症や既存疾患の増悪を示唆する可能性があり、医学的精査が必要です。認知機能の問題が顕著な場合は、別途認知機能評価を実施し、総合的な支援計画を立案します。

対応の基本

TUG test結果に基づく介入では、以下の基本原則に従います。

  • 転倒予防策の実施 - 13.5秒以上では転倒リスクが高いと判断し、環境調整(手すり設置、段差解消、照明改善)、見守り強化
  • 下肢筋力強化 - スクワット、立ち上がり練習、段差昇降練習など機能的筋力トレーニング、週2~3回の実施
  • バランス練習 - 立位保持練習、重心移動練習、方向転換練習、外乱刺激への応答練習の段階的実施
  • 歩行練習 - 屋内外での実際的歩行練習、歩行速度向上を目指した課題設定、歩行補助具の適切な選択と使用練習
  • 複合的課題練習 - TUG test動作そのものを練習課題として活用、反復練習による動作効率の改善
  • 二重課題練習 - 歩行しながら会話や計算を行う練習、認知機能と運動機能の統合的向上
  • 心理的支援 - 転倒恐怖感への対処、成功体験の積み重ね、自信の回復、段階的な活動拡大
  • 定期的モニタリング - 月1回程度のTUG test再評価、変化のトラッキング、介入効果の検証、目標の修正

これらの対応は、患者の機能レベル、基礎疾患、生活環境、目標に応じて個別化します。所要時間が30秒以上の重度機能低下例では、まず基本的な立位・歩行能力の向上を目指し、安全確保を最優先とします。13.5~30秒の中等度群では、機能的自立度の向上と転倒予防の両立を図ります。13.5秒未満でも特定の問題(方向転換時の不安定性など)がある場合は、その弱点を補強することで、より高い活動レベルを支援します。また、TUG testは介入効果を敏感に反映するため、定期的な再評価により治療効果を客観的に示すことができます。

ひとことで言うと

Timed Up and Go testは、椅子からの立ち上がり・3メートル歩行・方向転換・着座という一連の動作の所要時間を測定する簡便な機能評価法であり、転倒リスク判定と基本的移動能力の評価に広く活用されています。13.5秒以上で転倒リスクが増大するとされ、臨床現場で最も頻用される評価の一つです。

関連用語

  • 転倒リスク評価
  • 歩行能力評価
  • バランス機能評価
  • 移動能力
  • 立ち上がり動作
  • 機能的評価
  • ADL評価

参考文献・出典

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