恥骨尾骨筋(肛門挙筋)の概要
肛門挙筋は骨盤底をハンモックの様に塞いでいる大きな筋でであり、内臓を支持するほか排便の際に肛門を引き上げる働きをする。肛門挙筋は3つの筋(恥骨直腸金、恥骨尾骨筋、腸骨尾骨筋)から構成されている。
恥骨から起こり、尾骨・尿道・直腸・会陰体(会陰の中心にある楔形の線維体)、肛門尾骨靱帯(肛門から尾骨に至る細い線維束)で停止する。内臓の位置を支持、固定するほか、強制呼息、咳、排尿、排便の際に弛緩して腹腔内圧の上昇を抑える。収縮すると尾骨と恥骨の間の緊張を引き上げる。
恥骨尾骨筋は分界線直下の恥骨の内面から起こり、その起始腱は内閉鎖筋筋膜に接して移行し、閉鎖筋膜から発する腱束を受ける。これらの線維の起始部では腱性の係留物(肛門挙筋腱弓)により強化されている。左右両側で恥骨尾骨筋の内側線維束は挙筋脚を形成している。
それらの線維束は背方と尾方、また直腸の前では外側を通り、それぞれ会陰の中心腱へ放散する薄い前直腸線維束や前立腺挙筋として前立腺筋膜(あるいは恥骨腟筋として腟壁)へと分かれる。それより鼻側にある肛門挙筋の線維束は恥骨直腸筋として直腸の背側を取り囲み、反対側の線維と共にループを形成する。恥骨尾骨筋の外側束は尾骨と仙骨の背側に広がる。
腸骨尾骨筋の筋線維は尾骨と仙骨に付き、また肛門と尾骨の間では強靱な線維束である肛門尾骨靱帯に付いている。
骨盤底筋とは
骨盤の下部である菱形の会陰は尿生殖三角(会陰前方部の三角)と肛門三角(会陰後方部の三角)に別けられ、肛門三角は肛門挙筋と尾骨筋からなる骨盤隔膜が、尿生殖三角は会陰横筋と尿道括約筋で構成される尿生殖隔膜と骨盤隔膜が二重に蓋をしている構造となっている。またこれらの4つの筋が共同して骨盤内臓を支えており、骨盤底筋と呼ばれる。この骨盤底筋を鍛える骨盤底筋トレーニングは、加齢に伴う軽度の尿失禁の改善、予防に有効である。
「骨盤底筋群」と呼ばれている骨盤底の筋は、英語の"pelvic floor muscles"が直訳されたものであり、解剖学的には会陰の筋と呼ばれる。骨盤底は左右の坐骨結節を結ぶ線によって前と後ろの2つの三角形のエリアに分かれる。泌尿生殖器がある前方半分の三角形を尿生殖三角、後方半分の三角形を直腸三角または肛門三角という。
尿生殖三角は尿生殖隔膜と骨盤隔膜という膜によって閉じられ、肛門三角は骨盤隔膜によって閉じられる。つまり骨盤の底の前半分は2層になっている。
深層部は肛門挙筋に代表されるハンモック状の大きな筋で最表層には8の字状をした括約筋があり尿道、膣、肛門などの出口の開閉をコントロールしている。
骨盤底の筋は、生殖器の形状が違う男性と女性とでは大きく異なる。男性は肛門を締めることで括約筋が連動して尿道も締まるが、女性の場合、肛門を締めても膣があるため尿道までは総められない。こうした構造の違いにも女性に尿漏れが多くみられる原因の一つである。
骨盤隔膜とは
骨盤底の筋は、隔膜と呼ばれる軟部組織の中にある。この隔膜のほかに、括約筋、勃起筋などの筋によって骨盤下口は閉ざされている。骨盤の底にある隔膜の1つが「骨盤隔膜」である。骨盤隔膜は、前方の恥骨から後方の尾骨間に、また左右の骨盤壁間に漏斗状に張っている。
肛門管と尿道の開口部があり、女性ではさらに膣の開口部がある。骨盤隔膜を構成する筋には肛門挙筋と尾骨筋がある。骨盤隔膜はこれらの筋の作用で、骨盤底部を上へ(身体の内側へ)引き上げる働きをする。
筋肉データ
項目 | 内容 | ||||
神経 | 神経支配:S4前枝からの直接の枝および陰部神経(S2~S4) | ||||
起始 | 分界線直下の恥骨の内面 | ||||
停止 | 外側束は尾骨と仙骨の背側に広がり肛門尾骨靱帯に停止 | ||||
作用 | 骨盤内蔵を支持し骨盤底を挙上する |