棘上筋(ローテーターカフ:回旋筋腱板)
supraspinatus muscle
(スープラスパイネィタス・マッスル)

棘上筋の概要

三角筋とともに肩関節の外転に働く。肩甲骨と上腕骨をひきつけて肩関節を安定させる働きを持つ。肩峰と上腕骨頭にはさまれてインピンジメントを起こしやすい筋でもある。

腱板を構成する4つの筋群の一つであり、棘上筋と肩甲下筋の間は腱板疎部と呼ばれます。

棘上筋の上面には肩峰下滑液包があり棘上筋の滑動機能を高めています。

棘上筋腱を前・中・後に3等分しそれぞれの腱に付着する量を調べると前方部に付着する筋量が圧倒的に多く棘上筋の収縮が前方部に強く作用することが分かっている。

 

棘上筋の特徴

棘上筋は肩関節の外転に作用するが骨頭中心からの距離が非常に短く外転筋力としての作用はそれほど強くありません。むしろ下垂位から外転における骨頭を関節窩に引き付ける支点形成力が重要だと言えます。

肩関節の挙上位においては棘上筋の起始と停止が近づき弛緩するため有効な支点形成力を発揮できません。そのため他の腱板筋群と協調しながら作用していきます。

棘上筋は回旋軸を前後にまたぐ筋です。内旋時には棘上筋の前方部分が、外旋時には後方部分が関与しています。

棘上筋は棘上窩と棘上筋膜の内面から起こり上腕骨大結節の上部に停止します。1つの筋内腱を有する羽状筋であり、筋内腱は筋外腱の前方約 1/3 に移行しています。筋線維はその走行から前部線維、後部線維の2つに分けられ、前部線維は後部線維の 2 倍以上の筋体積、生理学的筋断面積を持ちます。

また、筋線維束長は前部が 3.9±0.6cm、後部が 4.1±0.6cm と他の3つの筋と比べて短く、筋線維のタイプにおいても TypeⅠ線維が 59.3%とその比率は他の回旋腱板筋の 3値と大きな差はないことから(Jhonson,1973)、収縮速度は遅く、関節を動かすよりも上腕骨頭に安定性を与える機能に適する筋と考えられています(竹村,1998)。

筋長が短いとサルコメアが少なく筋の収縮速度は遅くなります。また筋実質の収縮速度も赤筋は遅いのでこの様に収縮速度が遅い筋肉と言えます。

モーメントアームに関する研究から前部、後部線維はともに外転作用を持つが、モーメントアームは内旋するほど後部線維、外旋するほど前部線維で大きくなり、その貢献度が変化することが報告されています(DeLuca and Forrest,1973;Otis,1994)。

ローテーターカフ全体に言えることですがどれも羽状筋なので肩関節の安定化機構とよく説明されるのは上記の様な特性と相まって十分に納得できる材料と言えます。

棘上筋を上方から観察した図

 

上部から触察しそれぞれ外転を45°程度行う際に、外旋を伴う外転をすると後方線維が緊張し、内旋を伴う外転を行うと前方の緊張が高まるのを触知できます。

 

ローテーターカフ(回旋筋腱板)とは

ローテーターカフは、肩甲骨に起始し上腕骨に停止する肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋の総称である。肩関節の内旋・外旋をもつことが語源(rotator:回転するもの)。

薄い腱が上腕骨頭を覆うように停止していることから回旋筋腱板とも呼ばれ棘下筋を除く3つの筋は深層に隠れている。これらの筋には上腕の回旋だけでなく肩関節をひきつけて安定させるという重要な役割もある。

肩関節は他の関節と異なり強い靱帯を持たない。従って可動域が大きい代わりに安定性が低いという問題がある。ローテーターカフは上腕骨頭が肩甲骨から外れないように引き付け他の関節における靱帯のように振舞う

肩関節は筋によって保護された関節といえる。

3筋(小円筋・棘下筋・棘上筋)の停止部にあたる上腕骨頭の大結節は三角筋に覆われている。筋腹や起始部も僧帽筋に覆われているが棘下筋の筋腹のみ表層にある。

ローテーターカフの4つの筋のうち肩甲下筋のみ肩甲骨の前面から起始し上腕骨を引き付けている。

 

 

棘上筋と三角筋のフォースカップル作用

 

 

 

筋肉データ

項目 内容
神経 神経支配:肩甲上神経(C5-C6)
起始 肩甲骨の棘上窩
停止 上腕骨の大結節上部、肩関節包
作用 肩関節の外転・外旋・安定化
筋体積 89㎤
筋線維長 4.3cm
速筋:遅筋(%) 40.7:59.3
PCSA 20.8㎠
栄養血管 肩甲上動脈

棘上筋と肩甲下筋の間には間隙があり腱板疎部と呼ばれます。棘上筋の上面には肩峰下滑液包があり棘上筋の滑動機能を円滑化しています。この部位の炎症は肩峰下滑液包炎と呼ばれます。

棘上筋腱は、上腕骨大結節と腱の付着部付近に血流が乏しい部分があるため特に影響を受けやすいと考えられています。摩擦による炎症反応および浮腫がさらに肩峰下腔を狭くするために二次的な摩擦が増大し、腱損傷が悪化していきます。この進行を阻止しなければ、やがて炎症が肩腱板の部分断裂または完全断裂に至ることがあります。変性性の肩腱板腱炎は,同様の理由で,運動選手でない年配(40歳以上)の人によく起こると言われています。肩峰下滑液包炎(炎症,腫脹,肩腱板上方の関節包の線維化)は一般に肩腱板の腱炎から発生します。

臨床的な観点

腱板断裂の多くはほとんどが棘上筋を含んだ形で存在し完全断裂には勿論ですが手術が必要です。もっとも肩の挙上を伴わないわずかな外転には三角筋のみでも可能なので物を手提げかばんで持つ程度なら可能なケースもあります。

腱板炎や肩峰下滑液包炎の重症例では棘上筋の収縮による疼痛が強く一見すると腱板断裂例と似た挙上姿勢を呈します。

挙上姿勢は代償的で肩をすくめる動きで肘を屈曲し、体幹を側屈させます。肩甲帯の挙上と上腕二頭筋の代償と体幹の側屈で上肢を高く持ち上げようとしています。

棘上筋腱が肩峰下滑液包を含めた上方組織と癒着すると棘上筋腱の滑走が制限され結滞動作を著明に制限させます。

関連する疾患

・腱板損傷

・腱板炎

・肩峰下インピンジメント症候群

・肩関節不安定症

・肩甲上神経麻痺

滑液包炎に関して

肩関節周囲炎にはこの肩峰下滑液包炎も含まれます。肩関節を動かす仕事であるトラック運転手などはハンドルを回す動作であまり起きないと言われていますが肩を動かす量が小さい方は発症しやすいです。

滑液包は筋活動中の摩擦を軽減するためにあります。滑液包の内部構造には滑膜があり中には滑液が満たされているので潤滑剤として働いています。関節に近い滑液包は関節滑膜のように関節腔に交通路をもっており関節運動に伴い滑液を交換します。そのため関節をしっかり動かすことは滑膜や滑液包にとって機能的な働きを果たし故障の予防に役立ちます。

高齢になると肩を挙上する運動や外転運動をする機会が減少するためこの部分が萎縮・癒着するケースが多くなります。

また滑液包の内壁は滑膜で覆われているため、血管、神経、リンパ管が豊富に分布しており痛覚受容器である自由神経終末が高密度に分布しています。そのためペインジェネレーター(痛み増幅器)の様に痛みや炎症が起こりやすい部位となります。ちなみに自由神経終末に関しては血管に隣接しており血管が豊富であれば痛みも起こしやすいと言えます。

 

 

 

 

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