上腕三頭筋
triceps brachii muscle
(トライセプス・ブレイキー・マッスル)

上腕三頭筋の概要

上腕筋群の中で最も体積の大きい肘関節伸展の主力筋です。

そのため、たくましい太い腕を形成するためには『力こぶ』を作る上腕二頭筋以上に上腕で最も大きい筋である上腕三頭筋を肥大させる必要があります。

三頭のうち長頭だけが肩甲骨から起始し肘関節と肩関節を跨ぐ二関節筋となっていますので、上腕三頭筋長頭の肘関節伸展機能は肩関節の影響をうけます。

筋はその収縮機能を発揮する際に自然長から若干伸張位が適当であり、肩関節屈曲位では伸長されるので強く働きますが肩伸展位では起始停止が近づき緩むため肘伸展作用が弱くなります。

また、形態に関しては上腕三頭筋の外側頭と長頭が発達すると、下に凹の形となるため『馬の蹄型の上腕三頭筋』などと形容される場合があります。

三つの筋は内側頭を深層に置いてこれを覆うように長頭と外側頭が走行しており、橈骨神経溝を境に外側頭と内側頭の起始部が区別されています。

表層の長頭と外側頭は遠位1/3あたりで合流し共同腱を形成して尺骨肘頭に停止します。

また内側頭の最深層にある筋線維は肘関節後方関節包に進入しており、深層にある内側頭も関節包に停止しない線維は深層から共同腱に合流します。

この接続により関節筋としての機能を持っており肘伸展時に内側頭は肘関節後方関節包の挟み込みを防止する働きがあります。

神経支配においては上腕三頭筋は長頭は腋窩神経支配であり、内側等及び外側頭は橈骨神経支配ですが、内側頭には尺骨神経支配の例もあります。

 

筋肉データ

項目 内容
神経 神経支配:長頭は腋窩神経、内側頭及び外側頭は橈骨神経(C6~8)
起始 長頭:肩甲骨の下結節(橈骨神経溝の外側)外側頭:上腕骨後面、内側頭:(橈骨神経溝より内側)
停止 尺骨の肘頭
作用 ①肘伸展(全体)②肩屈曲位からの内旋(長頭)③肩関節の伸展・内転(長頭)
筋体積 620㎤
筋線維長 8.1cm
速筋:遅筋(%) 67.5:32.5
PCSA 76.3㎠
栄養血管 上腕深動脈

臨床での観点

杖の長さを決定する時に、大転子の長さや、側方15cm前方15cmにセッティングするときに肘関節軽度屈曲位と学校で習うと思いますが、それは上腕三頭筋の伸展筋力が最も働きやすいのは肘関節屈曲30°程度だと言われているからです。

そのため肘関節軽度屈曲位での杖を突く動作では上腕三頭筋が働きやすく肩関節の固定性や突き伸ばす動作を行いやすいメリットがあります。

投球障害肩などではBennet骨棘をみることがあります。その際には上腕三頭筋の短縮が見られるためチェックする必要があります。

肘関節の屈曲制限などでは内側頭の圧痛や痙縮が存在している事が多く反復収縮治療では可動域の獲得に大きな影響を与えます。

治療の際に上腕三頭筋の伸張反射が阻害因子となって十分にストレッチをかけらないない場合は、長頭の影響で肩関節からの影響をうけますので治療の動き出しは肩関節の伸展位で行うことで長頭の影響を減らすことが出来ます。

そうすることで単関節である内側頭や外側頭の伸長を得た後で肩の屈曲位での治療が出来ますので筋の伸張反射の影響を減らしストレッチがかけやすくなります。

肘関節の他動伸展で肘の後方に疼痛を訴える場合は後方関節包や後方脂肪体の挟み込みによる場合が多いです。

この様な場合には内側頭の収縮を肘関節伸展に同期させることでインピンジメントを解決し症状の緩和が期待できます。

肘関節の伸展に伴い後方脂肪体は肘頭の侵入により機能的な変形をします。

この時に脂肪体の柔軟性がないと脂肪体のインピンジメントが生じます。

上腕筋が肘関節包の前方関節包の関節筋であったように上腕三頭筋は肘関節包の後方関節包の関節筋となります。

関節筋(関節包筋)とは

ヒトの関節内圧は陰圧ですが、関節運動によりその内圧は変化します。関節包はその関節の内圧に影響を受けます。運動によって通常よりもさらに陰圧になったとき、関節包は関節のなかに吸い込まれ、あるいは巻き込まれてしまう可能性があります。それを防ぐために、主な関節には最深層の筋線維を関節包に停止する「関節筋,あるいは関節包筋」が存在しています。

一般的に骨格筋の主な機能は ① 姿勢の維持,② 関節を介した運動,③ 熱の産生などのように説明されますが関節包を保護するという重要な機能も持ちます。

 

関連する疾患

・投球肩障害

・外傷後肘関節拘縮

・肘関節後方インピンジメント

・異所性骨化

・Bennet骨棘

・橈骨神経麻痺

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