医原性サルコペニア
医原性サルコペニアとは、医療の過程で生じる不適切な安静、禁食、不十分な栄養管理、医原性の疾患や薬剤有害事象などによって、筋肉量や筋力、身体機能が低下していく状態です。とくに入院中は、原疾患そのものだけでなく、過度な安静や食事開始の遅れ、活動量の低下が重なることで進行しやすくなります。
臨床では、「入院や療養の経過のなかでどう起こるか」、「何を評価すべきか」、「どう予防・対応するか」の3つの視点でみることが大切です。
医原性サルコペニアとは
医原性サルコペニアは、医療者の判断や医療環境に関連して生じるサルコペニアです。代表的には、①不適切な安静や禁食による活動の低下、②不適切な栄養管理による栄養の不足、③医原性疾患や薬剤有害事象などの疾患関連要因によって起こります。
入院関連でみられるサルコペニアのなかには、病気そのものではなく、医療の進め方によって防ぎうるものが含まれます。そのため、医原性サルコペニアは「仕方がない筋力低下」ではなく、早く気づいて予防・是正すべき状態として捉えることが重要です。
どこでみるのか
急性期病院、回復期、療養の場、施設、在宅移行前後など、活動量や食事内容が変化しやすい場面でみます。とくに、誤嚥性肺炎などで入院したあとに、安静や禁食が長引き、離床や経口摂取の開始が遅れるケースでは注意が必要です。
また、原疾患の治療に目が向きやすい場面ほど、筋力低下やADL低下、食事量低下が見過ごされやすくなります。入院の原因疾患だけでなく、その経過のなかで生じる二次的な機能低下まで含めて観察することが大切です。
何をみているのか
医原性サルコペニアをみるときは、単に「筋肉が落ちたかどうか」だけではなく、なぜ落ちたのかを整理します。具体的には、安静指示が本当に必要か、禁食が続いていないか、栄養管理が十分か、薬剤や合併症が活動や摂食を妨げていないかを確認します。
加えて、筋肉量、筋力、身体機能、ADL、食事摂取状況、嚥下機能、離床状況などを総合的にみます。栄養状態だけを切り離してみるのではなく、生活機能全体の変化として捉える視点が重要です。
臨床でどう見るか
臨床では、「入院してから急に動けなくなった」「食べられない状態が長引いた」「治療後に筋力や移動能力が落ちた」といった経過に注目します。医原性サルコペニアは、病気の自然経過だけでなく、医療上の判断が重なって生じることがあるため、入院前との変化を追うことが大切です。
- 不要に長い安静が続いていないか
- 禁食や食事制限が必要以上に長引いていないか
- 離床、歩行、食事開始のタイミングが遅れていないか
- 入院後にADLや移動能力が落ちていないか
- 寝たきりや摂食嚥下障害につながっていないか
評価で何をみるか
評価では、活動・栄養・疾患の3側面を整理しながら、サルコペニアの進行リスクと現時点の機能低下を確認します。筋肉量、筋力、身体機能の評価に加えて、食事量、栄養投与経路、離床状況、原疾患の炎症や侵襲、薬剤有害事象の有無をあわせてみます。
- 筋肉量の低下が疑われるか
- 握力や起立・歩行などの筋力、身体機能が低下していないか
- 食事摂取量や栄養投与内容が不足していないか
- 禁食、末梢輸液のみ、食事開始の遅れが続いていないか
- 安静指示の妥当性と、実際の活動量が見合っているか
- 嚥下機能の低下や摂食嚥下障害を合併していないか
- 薬剤有害事象や医原性疾患が機能低下を助長していないか
入院後早期、できれば2日以内に評価を始め、必要に応じて再評価を重ねることが重要です。
どう対応するか
対応の基本は、不要な安静や禁食を避け、早期離床、早期経口摂取、適切な栄養管理を早い段階から同時に進めることです。医原性サルコペニアは予防可能な側面が大きいため、発症してから対応するだけでなく、起こさないこと自体が重要になります。
- 不要な安静を減らし、早期離床を進める
- 可能であれば早期に経口摂取を再開する
- 必要なエネルギー・たんぱく質を意識した栄養管理を行う
- 運動療法と栄養介入を切り離さずに進める
- 原疾患の治療と並行して、機能低下の予防を行う
- 薬剤内容を見直し、機能低下を助長する要因を減らす
実際には、リハビリテーション、栄養管理、薬剤レビューを入院初日から組み合わせることが、入院中のサルコペニア予防につながります。
臨床でよく出る問題
- 「とりあえず安静」が長引いて活動量が極端に落ちる
- 「とりあえず禁食」が続いて必要な栄養が入らない
- 水電解質輸液のみで、たんぱく質や十分なエネルギーが不足する
- 原疾患の管理に意識が集中し、筋力低下やADL低下への対応が遅れる
- 結果として、寝たきりや摂食嚥下障害につながる
起こりやすい要因
- 不適切または過度な安静指示
- 必要以上に長い禁食
- 不十分な栄養評価・栄養管理
- 急性炎症や侵襲の強い病態
- 薬剤有害事象や医原性疾患
- 離床・歩行・食事再開の遅れ
注意したい症状
入院中や療養中に、立ち上がりにくくなった、歩けなくなった、食事量が落ちた、離床が進まない、嚥下が悪くなったといった変化がみられる場合は注意が必要です。原疾患の悪化だけでなく、医原性サルコペニアが進んでいる可能性があります。
特に、安静や禁食の期間が長いにもかかわらず再評価が行われていない場合は、治療計画そのものを見直す視点が重要です。
対応の基本
医原性サルコペニアの対応では、活動、栄養、疾患の3方向から介入します。活動面では早期離床と日中活動量の確保、栄養面では必要量を満たす栄養管理、疾患面では原疾患治療と医原性要因の是正を進めます。
また、リハビリテーション栄養の考え方を用いて、筋肉量や体重だけでなく、機能、活動、参加、QOLの改善まで見据えて介入することが大切です。
ひとことで言うと
医原性サルコペニアとは、医療の過程で生じうる防ぎうる筋力・筋肉量の低下であり、早期評価、早期離床、早期経口摂取、適切な栄養管理を組み合わせて予防・対応していくことが重要です。
関連用語
参考文献・出典
- Hospital-associated sarcopenia, acute sarcopenia, and iatrogenic sarcopenia(PMC)
- 医原性サルコペニア[iatrogenic sarcopenia](ニュートリー)
- リハビリテーション栄養とサルコペニア(J-Stage)
- 低栄養とリハビリテーション:医師の立場から