運動失調とは
運動失調とは、筋力低下や明らかな運動麻痺がない、あるいは軽いにもかかわらず、筋がうまく協調して働かないために、円滑な運動や姿勢保持が難しくなる状態です。協調運動の破綻によって、ふらつき、手足のぎこちなさ、呂律の回りにくさなどがみられます。
運動失調はひとつの病名ではなく、小脳を中心とした神経系の障害によって起こる症状の総称として扱われます。原因や障害部位によって、症状の出方や評価の視点が変わります。
どこでみるのか
運動失調は、歩行、立位、方向転換、起き上がり、上肢の到達動作、書字、食事動作など、日常生活のさまざまな場面でみられます。特に、ふらつく、狙ったところに手が届きにくい、動きが大きくなりすぎる、ことばが不明瞭になるといった形で気づかれやすい症状です。
小脳性、感覚性、前庭性などで現れ方が異なり、歩行やバランスの崩れ方、視覚への依存の程度、上肢のぎこちなさなどを総合してみていきます。
何をみているのか
評価では、単に「動けるかどうか」だけではなく、協調して正確に動けるかをみます。主な観察ポイントは次のとおりです。
- 立位や座位で姿勢を安定して保てるか
- 歩行時にふらつきや軌道の乱れがあるか
- 手を伸ばしたときに狙った位置に正確に届くか
- 動きが大きすぎたり、小刻みになりすぎたりしないか
- 視覚が使えないときに動きが大きく崩れないか
- 発話が不明瞭になっていないか
運動失調では、筋力そのものよりも、タイミング、距離感、速度調整、姿勢制御の乱れが問題になります。
臨床でどうみるか
臨床では、運動失調がどの型に近いかを考えながら評価します。一般に、運動失調は小脳性・感覚性・前庭性などに分けて考えられます。感覚性運動失調では、感覚入力の欠落によって協調運動が崩れ、視覚で代償しようとする特徴がみられます。
また、立位や歩行だけでなく、上肢の細かい動作や発話も含めてみることで、日常生活上の困りごとにつながっているポイントを整理しやすくなります。
評価で何をみるか
評価では、症状に応じて項目を選択することが重要です。運動失調に対する資料では、Ataxia Rating Scaleのような評価尺度の活用や、姿勢・歩行・上肢動作などの具体的観察が重視されています。
感覚性運動失調では、ロンベルグ徴候が小脳性との鑑別の手がかりとして用いられます。視覚を遮ることで姿勢調節が大きく崩れるかどうかを確認し、視覚代償への依存の程度をみます。
そのほか、視線で手足を確認しながらでないと動作がしにくい、視覚を遮ると行動エラーが増える、歩行が不安定になるといった特徴も重要です。
臨床でよく出る問題
- 歩行時のふらつき
- 立位での不安定さ
- 手足の狙いが定まりにくい
- 動作がぎこちなく、時間がかかる
- 書字や食事など細かな動作が難しい
- 呂律が回りにくい
- 視覚に頼らないと動作が崩れやすい
起こりやすい原因
運動失調は、小脳を中心とした神経系の障害で起こります。運動失調症の説明では、ふらつきや呂律障害を呈する疾患群として示されており、背景には血管障害、腫瘍、感染、炎症、中毒など、さまざまな原因がありえます。
また、慢性進行性のものとしては脊髄小脳変性症などが含まれます。感覚性運動失調では、脊髄後索病変やニューロパチーなどにより、位置覚や振動覚などの感覚入力が低下することが関わります。
注意したい症状
急にふらつきが強くなった、まっすぐ歩けない、手足が急に狙いどおりに動かせない、呂律が急に回らない、といった変化は注意が必要です。これらは脳や神経の急性の障害を含めて評価が必要になることがあります。
また、視覚を使えばある程度動けても、目を閉じると著しく不安定になる場合は、感覚入力の障害が関与している可能性があります。
対応の基本
運動失調に対するリハビリテーションでは、まずどのような失調かを整理することが重要です。小脳機能の問題なのか、感覚入力の欠落が主なのかによって、アプローチの考え方が変わります。
感覚性運動失調では、残っている感覚入力を活かして感覚の識別を高める課題が重要とされます。また、過度な運動出力を抑えること、視覚への過度な依存を減らすこともポイントになります。
全体としては、姿勢制御、歩行、上肢動作など、生活に直結する課題の中で、安定性と正確性を高めていくことが基本になります。
ひとことで言うと
運動失調とは、筋力が保たれていても協調運動が乱れるために、ふらつきやぎこちなさが生じる状態です。原因や型を見分けながら、姿勢・歩行・上肢動作・感覚入力の使い方を含めて評価することが大切です。
関連用語
参考文献・出典
- 運動失調に対するアプローチ - J-STAGE
- 感覚性運動失調に対するリハビリテーションアプローチ - J-STAGE
- 運動失調症とは - UMIN SQUAREサービス
- 脊髄小脳失調症患者の上肢運動失調の定量的評価法の開発 - 名古屋大学