うつ病とは
うつ病とは、気分の落ち込みや興味・関心の低下が続き、日常生活に支障が出てくる状態を指します。誰でも落ち込むことはありますが、うつ病では「しばらく休めば戻る一時的な気分の波」とは違い、つらさが長く続き、考え方、行動、睡眠、食欲、仕事や家事の進み方にまで影響が広がっていきます。
気の持ちようや性格の弱さで起こるものとして扱われがちですが、そのように単純に整理できるものではありません。現在は、遺伝的な背景、生物学的な要因、環境要因、心理社会的要因などが重なって生じる病気として考えられています。
また、うつ病は「こころの症状」だけでなく、眠れない、食べられない、疲れやすい、頭痛、めまい、吐き気、肩こりなど、身体の不調として前面に出ることもあります。そのため、最初は内科的な不調としてみられることも少なくありません。
どこでみるのか
うつ病は、精神科や心療内科だけでみるものではありません。実際には、学校、職場、家庭、かかりつけ医の外来、内科、整形外科、リハビリの場面など、さまざまな場所でそのサインがみられます。
- 仕事や家事の能率が落ちる
- 遅刻や欠勤が増える
- 口数が減る、表情が乏しくなる
- これまで楽しめていたことへの関心が薄れる
- 睡眠や食欲の乱れが続く
- 身体症状ばかりが目立って受診を繰り返す
特に高齢者では、典型的な「抑うつ気分」よりも、身体愁訴、不安、焦燥、物忘れの訴えなどが前面に出ることがあります。若年者では、ひきこもり、イライラ、攻撃的な行動、自傷などとして表れることもあり、年齢によって見え方が少し変わります。
何をみているのか
うつ病をみるときは、単に「落ち込んでいるか」だけではなく、その人の気分、思考、行動、身体症状、生活機能の変化を総合してみていきます。
- 気分の落ち込みが続いているか
- 興味や楽しみが失われていないか
- 眠れない、または寝すぎる状態がないか
- 食欲低下や過食、体重変化がないか
- 疲れやすさ、無気力、動作の鈍さがないか
- 集中しにくい、決められない状態がないか
- 自分を責める気持ちが強くなっていないか
- 死にたい、消えてしまいたいという思いがないか
厚生労働省の資料では、悲しく憂うつな気分、または興味・喜びの低下を含めた症状が5つ以上、2週間以上続く場合には、専門家への相談が勧められています。実際の臨床では、症状の数だけではなく、学校・仕事・家庭生活にどの程度支障が出ているかも重視されます。
臨床でどうみるか
臨床では、うつ病を「気分の病気」としてだけでなく、生活機能の病気としてみる視点が重要です。気分が落ち込んでいるだけでなく、起きる、食べる、身支度を整える、外出する、人と話す、仕事をこなす、といった日常の活動がどこから難しくなっているかを丁寧にみていきます。
また、うつ病では朝に調子が悪く、午後から少し動けるようになる日内変動がみられることがあります。そのため、一日の中でどの時間帯が最もつらいのか、何がきっかけで悪化しやすいのかを把握することが、支援や治療調整の手がかりになります。
さらに、本人の性格傾向や置かれている環境も重要です。完璧にやろうとしすぎる、休むことに罪悪感が強い、対人ストレスや職場環境の負担が大きい、といった要素が回復を妨げることがあります。症状だけでなく、その人を取り巻く状況全体をみることが必要です。
評価で何をみるか
評価では、症状の有無だけでなく、生活機能の落ち方と回復のしやすさをみていきます。
- 睡眠、食欲、活動量、生活リズム
- 仕事・学業・家事の遂行状況
- 対人交流の減少や孤立の程度
- 不安、焦燥、イライラの強さ
- 身体症状の出方
- 自傷や自殺念慮の有無
- 休養をとれているか、無理を続けていないか
回復過程では、「症状が少し軽くなった」ことと「元の生活に無理なく戻れる」ことは必ずしも同じではありません。リハビリテーションの視点では、活動や参加、環境因子、個人因子を含めて考えるICFの枠組みが役立つとされています。つまり、気分の改善だけでなく、生活を再び組み立てられるかどうかまで含めて評価することが大切です。
臨床でよく出る問題
うつ病では、次のような問題が臨床でよくみられます。
- 「怠け」や「甘え」と誤解され、支援につながりにくい
- 身体症状が目立ち、うつ状態に気づかれにくい
- 休むべき時期に無理を続けて悪化する
- よくなりかけに無理な復職・復学をして再燃する
- 周囲の叱咤激励がかえって負担になる
- 自分を責める考えが強く、助けを求めにくい
また、症状が改善してきても、考え方のくせや生活環境の負担がそのままだと、再発しやすくなります。症状を下げることだけでなく、再燃・再発を防ぐ視点が必要です。
起こりやすい要因
うつ病は一つの原因だけで起こるわけではなく、複数の要因が重なって生じると考えられています。
- 遺伝的な影響
- 脳内の神経伝達や生物学的要因
- 強いストレスや喪失体験
- 職場・学校・家庭での負担
- 睡眠不足や生活リズムの乱れ
- 慢性疾患や痛みなど身体的問題
- 完璧主義や自責的な認知傾向
病気、失業、退職、別居、離婚、引っ越しなど、生活や環境の大きな変化をきっかけに発症することもあります。ただし、明らかなきっかけが見当たらない場合もあり、「何が原因だったのか」と本人が強く自分を責めてしまうことも少なくありません。
注意したい症状
うつ病で特に注意したいのは、希死念慮や自傷につながるサインです。本人が「消えてしまいたい」「自分はいないほうがよい」「生きていても仕方がない」といった表現をするときは、軽く流さずに受け止める必要があります。
- 死にたい、消えたいという発言
- 急に別れのような言動が増える
- 自分を極端に責める
- 不眠、食欲低下、強い焦燥が続く
- 急激に活動性が落ちる
- 反対に、強い抑うつの後に不自然に落ち着いたように見える
また、頭痛、肩こり、胃痛、吐き気、便秘、めまい、しびれなどの身体症状が前景に立つ場合もあります。内科的な異常が目立たなくても、こころの不調が背景にある可能性を考えることが大切です。
対応の基本
対応の基本は、まず無理を続けさせないことです。うつ病では、頑張り続けることが回復につながるとは限らず、むしろ悪化させることがあります。休養を確保し、症状の程度に応じて専門的な治療につなげることが重要です。
- 早めに専門家へ相談する
- 休養と生活リズムの立て直しを優先する
- 薬物療法を自己判断で中断しない
- 認知療法・認知行動療法などの精神療法を活用する
- 家族や職場が叱咤激励ではなく、安定した支え方を意識する
- 回復段階に応じて生活再建や復職支援を行う
治療は、薬物療法、精神療法、必要に応じた脳刺激療法などが組み合わされます。認知療法・認知行動療法では、自動的に浮かぶ考え方のくせに気づき、より現実的で柔軟な見方へ修正していく練習を行います。
リハビリテーションの視点では、回復の段階に応じて、まずは受容的・支持的な関わりを行い、次に生活リズムや軽い活動を整え、さらに復職・復学・再発予防へつなげていきます。症状が少し改善したからといって急に元の負荷へ戻すのではなく、段階的に活動を再開していくことが大切です。
ひとことで言うと
うつ病は、気分の落ち込みだけでなく、身体・思考・生活機能まで広く影響する病気であり、休養・治療・生活再建を段階的に支えることが重要です。
関連用語
参考文献・出典
- 厚生労働省:うつ病|こころの病気について知る
- National Institute of Mental Health: Depression
- 済生会:うつ病(うつびょう)とは
- J-STAGE:うつとリハビリテーション
- 厚生労働省:うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)
- 厚生労働省:高齢者のうつについて
- 厚生労働省:自殺の予防と対応