運動神経とは
運動神経とは、脳や脊髄で作られた運動の指令を筋肉へ伝え、身体を動かすために働く神経のことです。日常会話では「運動神経がいい」のように、運動の得意・不得意を表す言葉として使われることがありますが、医療やリハビリでいう運動神経は、実際に筋を収縮させる神経の仕組みを指します。
運動は、脳から脊髄や脳幹へ向かう上位運動ニューロンと、そこから筋肉へ直接つながる下位運動ニューロンの流れで成り立っています。実際に筋へ命令を届ける最終経路としての意味合いでは、運動神経は下位運動ニューロンやその末梢神経の働きと深く関係します。
このため、運動神経に障害が起こると、力が入りにくい、筋肉がやせる、反射が弱くなる、動きが続けにくいといった問題が出てきます。見た目には単なる筋力低下に見えても、背景に神経の障害が隠れていることがあります。
どこでみるのか
運動神経の問題は、神経内科、整形外科、脳神経外科、リハビリテーション科などでみることが多く、外来診療でも病棟でも比較的よく出会います。
- 末梢神経障害
- 神経根障害
- 脊髄前角細胞の障害
- 運動ニューロン病
- 外傷や圧迫による神経損傷
- 糖尿病などに伴うニューロパチー
また、リハビリの場面では、歩きにくさ、つまずき、握りにくさ、立ち上がりにくさといった生活上の困りごとから、運動神経の障害が疑われることもあります。本人は「筋力が落ちた」と感じていても、実際には筋そのものではなく、筋に命令を伝える神経の問題であることがあります。
何をみているのか
運動神経をみるときは、単に筋力だけをみるのではなく、「神経から筋へうまく指令が届いているか」を多面的にみています。
- 筋力低下があるか
- 筋肉のやせ(筋萎縮)があるか
- 筋のぴくつき(筋束性収縮)がないか
- 筋トーヌスが低下していないか
- 腱反射が弱くなっていないか、消失していないか
- 歩き方や立ち上がり動作に異常がないか
運動神経の障害では、力が入りにくいだけでなく、反射の低下、筋の張りの低下、筋萎縮が組み合わさって出ることがあります。これらは中枢性の運動障害とは見え方が異なるため、局在を考えるうえでも重要な手がかりになります。
臨床でどうみるか
臨床では、運動神経の障害を「どの筋が、どの程度、どの分布で弱いか」という視点でみます。たとえば、ある末梢神経に一致した筋だけが弱いのか、四肢の遠位部が目立って弱いのか、左右差があるのかによって、病変の場所を考えていきます。
また、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンのどちらが主に障害されているかを見分けることも重要です。上位運動ニューロンの障害では、筋緊張亢進や腱反射亢進が目立ちやすい一方、運動神経そのものに近い下位運動ニューロンや末梢神経の障害では、弛緩性の筋力低下、筋萎縮、腱反射低下がみられやすくなります。
さらに、筋肉だけの病気なのか、神経筋接合部の問題なのか、末梢神経の問題なのかも区別が必要です。そのため、問診、視診、触診、徒手筋力検査、反射、必要に応じた神経伝導検査や筋電図などを組み合わせて考えます。
評価で何をみるか
評価では、診察室での所見だけでなく、生活の中でどの動作が難しくなっているかを確認します。
- 握る、つまむ、持ち上げる動作が保てるか
- 椅子から立ち上がれるか
- 階段昇降ができるか
- 歩行中につまずきやすくないか
- 足先が下がる、いわゆる下垂足がないか
- 疲労で翌日まで悪化しないか
診察では、筋力、筋トーヌス、筋萎縮、筋束性収縮、反射を基本にみます。末梢神経障害が背景にある場合には、感覚障害や異常感覚、歩容異常、関節可動域制限が加わることもあり、運動神経だけでなく周囲の機能もあわせてみる必要があります。
また、リハビリでは「できるかどうか」だけでなく、「どのくらいの負荷で悪化するか」も大切です。末梢神経障害では過大な運動負荷がかえって筋力低下を目立たせることがあるため、訓練後の疲労の残り方も評価の一部になります。
臨床でよく出る問題
運動神経の障害では、次のような問題がよくみられます。
- 手や足に力が入らない
- 物をつかみにくい、よく落とす
- 立ち上がりにくい
- 階段を上りにくい
- 歩行やかけ足がうまくできない
- 足先が垂れてつまずきやすい
- 筋萎縮により見た目の左右差が出る
こうした問題は、単に「筋力がない」というより、運動指令の伝達がうまくいかないことで起きている場合があります。結果として、歩行能力、日常生活動作、生活関連動作に影響し、場合によっては仕事や家事、趣味の継続にも支障が出ます。
起こりやすい要因
運動神経の障害は、さまざまな原因で起こります。ひとつの病気だけで説明できるものではなく、障害部位と原因を分けて考えることが大切です。
- 圧迫や牽引などによる末梢神経損傷
- 代謝性・中毒性・炎症性のニューロパチー
- 脊髄前角細胞の障害
- 神経根障害
- 手術や外傷後の神経障害
- 長期の不使用による二次的な筋力低下や拘縮
また、神経そのものの障害に加えて、痛み、不活動、装具未使用、動作回避などが重なると、もともとの神経障害に廃用が上乗せされて、さらに動きにくくなることがあります。
注意したい症状
運動神経の障害が疑われるときは、進行の速さと生活への影響をよくみる必要があります。次のような症状がある場合は、早めの評価が大切です。
- 急に力が入らなくなった
- 短期間で筋肉がやせてきた
- つまずきが増えた
- 足先や手先がうまく使えない
- 反対側と比べて明らかな筋力差がある
- 筋のぴくつきが続く
- 歩行、立ち上がり、階段動作が急に難しくなった
特に、進行性に悪化する筋力低下や、筋萎縮を伴う場合は注意が必要です。さらに感覚障害、自律神経症状、強い痛みが加わるときは、運動神経単独ではなく末梢神経全体の障害としてみる必要があります。
対応の基本
対応の基本は、まず障害部位と原因を見極めることです。筋力低下が見えていても、脳・脊髄・神経根・末梢神経・神経筋接合部・筋のどこに問題があるかで、対応は大きく変わります。
- 筋力、反射、筋トーヌス、筋萎縮の確認
- 必要に応じた神経伝導検査や筋電図の検討
- 転倒やつまずきへの予防
- 関節可動域制限や廃用の予防
- 装具や環境調整の活用
- 過負荷を避けた段階的な運動療法
リハビリでは、一次障害そのものを直接治すことが難しい場合でも、二次障害を防ぐことが大きな役割になります。関節拘縮、廃用、歩行能力低下、日常生活動作の低下を防ぎながら、その人にとって必要な動作を残していく視点が大切です。
一方で、末梢神経障害では過剰な運動がかえって状態を悪化させることもあるため、頑張らせすぎないことも重要です。訓練後の疲労が翌日まで強く残る場合は、負荷設定を見直した方がよいことがあります。
ひとことで言うと
運動神経は、脳や脊髄の指令を筋肉へ届けて身体を動かすための神経であり、障害されると筋力低下、筋萎縮、反射低下、つまずきやすさなどが出やすくなります。
関連用語
参考文献・出典
- MSD Manual Professional Edition: How To Assess the Motor System
- NCBI Bookshelf: Neuroanatomy, Motor Neuron
- J-STAGE:末梢神経障害のリハビリテーション
- J-STAGE:どのような時にニューロパシーを疑うか
- 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 末梢神経障害
- PMC:Differentiating lower motor neuron syndromes