高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、事故や病気によって脳に器質的な損傷が生じたあとに、記憶、注意、段取り、対人行動などの認知機能に障害が残り、日常生活や社会生活に支障をきたす状態のことです。
ポイントは、手足の麻痺や感覚障害のように外から見てすぐわかる障害とは限らないことです。歩ける、話せる、食べられるといった身体機能がある程度回復していても、新しいことを覚えられない、注意が続かない、予定どおりに行動できない、感情や行動のコントロールが難しいといった問題が残ることがあります。つまり「見た目には回復しているのに生活がうまく回らない」状態として理解すると臨床で整理しやすい用語です。
どこでみるのか
回復期リハビリテーション病棟、脳神経外科、脳神経内科、リハビリテーション科、精神科、就労支援、地域生活支援などでよくみます。患者さんや家族の訴えとしては、「何度も同じことを聞く」「約束を忘れる」「以前のように段取りよくできない」「怒りっぽくなった」「ぼんやりしてミスが増えた」「仕事や学校に戻れない」といった形で出会うことが多いです。
また、本人は「できているつもり」でも、家族や職場では困りごとが目立つことがあります。身体障害が軽いほど、周囲からは「怠けている」「性格が変わった」と誤解されやすく、医療だけでなく生活場面・社会参加場面まで含めてみる必要があります。
何をみているのか
高次脳機能障害でみているのは、単なる知能の高低ではなく、生活を組み立てるための認知機能がどのように崩れているかです。代表的には、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害が中心になります。
一方で、学術的には失語、失行、失認なども広い意味で高次脳機能障害に含まれます。臨床では、どの症状が中心なのかを整理し、その障害が実際の生活上の困難とどうつながっているかをみることが重要です。つまり、机上の検査結果だけでなく、生活の中で何ができなくなっているのかまで含めて考える必要があります。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、脳外傷、脳卒中、低酸素脳症、脳炎など、脳の器質的病変を起こした事実があるかを確認します。そのうえで、受傷・発症前にはなかった問題として、記憶、注意、計画性、感情コントロール、対人面の変化が出ていないかを整理します。
高次脳機能障害は、問診だけでは見えにくいことがあります。本人が症状を自覚していないこともあれば、短い診察室のやり取りでは問題が表面化しないこともあるからです。そのため、家族、職場、学校、病棟スタッフなど、実際の生活場面を知る人からの情報がとても重要になります。
また、神経心理学的検査は有用ですが、検査だけで完結するわけではありません。静かな環境ではできても、複数課題が重なると崩れる、慣れた場面では問題ないが新しい状況で困る、といったことがあるため、行動観察と実生活評価をあわせて考えることが大切です。
評価で何をみるか
- 脳外傷、脳卒中、低酸素脳症、脳炎など器質的脳病変の有無
- 受傷・発症前と比べた変化があるか
- 新しいことを覚えられるか、同じ質問を繰り返さないか
- 注意の持続、選択、配分、転換が保てるか
- 計画を立てて順序よく行動できるか
- 感情コントロール、対人距離、衝動性に問題がないか
- 生活のどの場面で失敗や困難が起きるか
- 家族、職場、学校、病棟での行動観察情報
- 神経心理学的検査の結果
- MRI、CTなどで脳の器質的病変が確認できるか
臨床でよく出る問題
- 約束や予定を忘れて生活が回らない
- 注意が散りやすく、作業ミスが多い
- 複数のことを同時に行うと混乱する
- 段取りが立てられず、家事や仕事が進まない
- 衝動的な言動や怒りやすさで人間関係が悪化する
- 本人に病識が乏しく支援につながりにくい
- 身体機能は回復しても復職・復学が難しい
- 家族の負担が大きくなりやすい
高次脳機能障害そのものが「目に見えにくい障害」なので、問題が性格や努力不足として扱われやすいのが大きな特徴です。だからこそ、症状の背景に脳損傷後の認知障害があることを整理し、周囲と共有することが支援の出発点になります。
起こりやすい要因
高次脳機能障害は、脳の器質的損傷のあとに起こります。代表的な原因は次の通りです。
- 外傷性脳損傷
- 脳卒中
- 低酸素脳症
- 脳炎や脳症
- 脳腫瘍やその治療後
- くも膜下出血や脳挫傷後
特に外傷性脳損傷では、身体機能の回復に比べて認知・行動面の問題が長く残ることがあります。脳卒中でも麻痺だけでなく注意障害や遂行機能障害が前面に出ることがあり、運動機能だけをみていると見逃されやすくなります。
注意したい症状
- 見た目は回復しているのに会話がかみ合わない
- 同じ質問を何度も繰り返す
- 予定管理や金銭管理が急にできなくなった
- 仕事や家事の段取りが著しく悪くなった
- 怒りっぽさ、衝動性、自己中心的な行動が目立つ
- 注意散漫で事故や失敗が増えた
- 本人に自覚が乏しく、困りごとを認めない
- 家族だけが強く困っている
このような場合は、単なる性格変化ややる気の問題として扱わず、高次脳機能障害を考える必要があります。特に、頭部外傷や脳卒中のあとに「人が変わったように見える」場合は、認知・行動面の後遺症が隠れていないか確認することが重要です。
対応の基本
対応の基本は、まず何の認知障害が中心なのかを整理することです。そのうえで、机上課題だけでなく生活場面での困難に結びつけて考えます。
- 行動観察と神経心理学的検査を組み合わせて評価する
- 家族や支援者から生活場面の情報を集める
- 記憶障害には反復学習や外的補助手段を活用する
- 注意障害には刺激調整、短時間課題、段階づけを行う
- 遂行機能障害には手順の分解、ルーチン化、マニュアル化を行う
- 社会的行動障害には環境調整と一貫した対応を行う
- 復職・復学・社会参加まで見据えて支援する
リハビリテーションでは、障害そのものを「治す」だけでなく、残った障害でどう生活を組み立て直すかが重要です。認知リハビリテーション、環境調整、家族教育、就労支援、地域支援を組み合わせ、実際の生活で困らない形に落とし込むことが大切です。
ひとことで言うと
高次脳機能障害とは、脳損傷のあとに記憶、注意、段取り、行動コントロールなどが障害され、生活や社会参加に支障が出る状態です。
関連用語
参考文献・出典
- 国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター:高次脳機能障害を理解する
- 国立障害者リハビリテーションセンター:高次脳機能障害の評価
- 国立障害者リハビリテーションセンター:医学的リハビリテーションプログラム
- 国立障害者リハビリテーションセンター:高次脳機能障害に関するよくあるご質問
- 厚生労働省:高次脳機能障害者支援法関係通知について
- CDC: About Traumatic Brain Injury
- NINDS: Traumatic Brain Injury (TBI)