ブルンストロームステージとは
ブルンストロームステージ(Brunnstrom Recovery Stage)は、スウェーデンの理学療法士シグネ・ブルンストロームが1966年に提唱した、脳卒中片麻痺患者の運動機能回復過程を6段階(または7段階)で評価する指標である。弛緩性麻痺から始まり、共同運動パターンの出現、痙縮の増強、分離運動の獲得という回復の自然経過を体系化したもので、臨床現場で広く用いられている。上肢・手指・下肢それぞれに独立して評価が行われる。
どこでみるのか
- 上肢全体(肩甲帯、肩関節、肘関節、前腕)
- 手指(手関節、手指の屈曲・伸展、つまみ動作)
- 下肢全体(股関節、膝関節、足関節)
- 体幹(姿勢保持、バランス)
- 歩行パターン(立脚期・遊脚期の運動様式)
評価は主に随意運動の質と量、共同運動パターンの有無、分離運動の可否、痙縮の程度を観察する。
何をみているのか
- 随意運動の有無と質: 筋収縮が全く起こらない弛緩状態から、随意的な運動開始の可否。
- 共同運動パターン: 屈筋共同運動(上肢:肩外転・肘屈曲、下肢:股屈曲・膝屈曲・足背屈)、伸筋共同運動(上肢:肩内転・肘伸展、下肢:股伸展・膝伸展・足底屈)の出現と強さ。
- 痙縮の程度: 筋緊張の亢進、伸張反射の異常。
- 分離運動の可否: 共同運動パターンから脱却し、個別の関節を独立して動かせるか。
- 協調性と巧緻性: 正常に近い円滑で速やかな運動が可能か。
- 連合反応: 健側の努力や緊張が患側に影響を及ぼす現象。
臨床でどうみるか
StageⅠ(弛緩期)
- 完全な弛緩性麻痺、随意運動なし、深部腱反射減弱~消失。
StageⅡ(痙縮開始期)
- わずかな随意運動または共同運動パターンの出現、痙縮の出現、連合反応の利用可能。
StageⅢ(痙縮増強期)
- 共同運動パターンが全可動域で随意的に可能、痙縮が最も強い時期。
StageⅣ(共同運動からの脱却開始)
- 共同運動パターンから一部逸脱した運動が可能(上肢:肘屈曲位での前腕回内外、手を腰背部へ、下肢:座位での膝屈曲90度以上、背臥位での股屈曲と膝伸展)。
StageⅤ(分離運動の獲得)
- より複雑な分離運動が可能(上肢:肩外転90度での肘伸展、前方挙上、回内外、下肢:立位での膝屈曲、足関節の背屈・底屈)、痙縮の軽減。
StageⅥ(協調性の改善・ほぼ正常)
- 個別関節運動がほぼ正常、協調性良好、痙縮ほぼ消失、巧緻動作・速度・円滑さがほぼ正常に近い。
評価で何をみるか
- 上肢のステージ: 肩・肘・前腕の屈筋・伸筋共同運動、分離運動(手を腰へ、前方挙上、側方挙上)
- 手指のステージ: 集団屈曲・伸展、つまみ動作(横つまみ、つまみ上げ、球状握り、円筒握り)
- 下肢のステージ: 股・膝・足関節の屈筋・伸筋共同運動、分離運動(座位での膝伸展、立位での膝屈曲、足関節背屈)
- 痙縮の程度: Modified Ashworth Scale等で併用評価
- 深部腱反射: 亢進の有無
- 連合反応: あくび、努力時の患側への影響
- 歩行パターン: 分回し歩行、内反尖足、膝過伸展などの観察
- ADL動作: リーチ、把持、移乗、歩行等への運動機能の反映
- 痙性パターンの固定化: 長期的な拘縮リスク
臨床でよく出る問題
- StageⅠ~Ⅱの遷延: 回復が進まない、廃用症候群の進行
- StageⅢでの痙縮増強: ADL動作の困難、疼痛、拘縮リスク
- 共同運動パターンの固定化: StageⅢ~Ⅳで停滞、機能的な動作獲得が困難
- 上肢の回復遅延: 下肢に比べ上肢・手指の回復が遅く、StageⅢ~Ⅳで頭打ちになる例が多い
- 痙縮管理の困難: 内服、ボツリヌス療法の適応判断
- 分離運動獲得の困難: StageⅣからⅤへの移行の壁
- 拘縮の進行: 長期的な痙縮や不動による関節可動域制限
- 疼痛: 肩関節周囲炎(肩手症候群)、痙縮に伴う筋痛
- 転倒リスク: 下肢の分離運動不良による歩行不安定
- 患者・家族の心理的負担: 回復の停滞、予後への不安
起こりやすい要因
- 脳損傷の部位と範囲: 内包、基底核、運動野などの広範な損傷は回復不良
- 発症からの期間: 急性期、回復期、慢性期で回復速度が異なる
- 年齢: 高齢者は回復が遅い傾向
- 重症度: 初期の麻痺が重度であるほど回復が限定的
- 合併症: 肺炎、心疾患、糖尿病等が回復を阻害
- 廃用症候群: 不活動による筋力低下、拘縮、心肺機能低下
- リハビリテーションの開始時期と量: 早期開始と十分な訓練量が回復を促進
- 痙縮管理の適切性: 未治療の痙縮は分離運動獲得を妨げる
- 認知機能: 高次脳機能障害、半側空間無視は運動学習を阻害
- モチベーション: 意欲低下、うつ状態は回復に悪影響
注意したい症状
- 急性期の弛緩性麻痺の遷延: 回復の兆しが見えない場合、再発や他の病態を疑う
- 痙縮の急激な増強: 疼痛、不快感、ADL低下、二次的合併症のリスク
- 肩関節の亜脱臼: 弛緩期~痙縮開始期に多い、疼痛・拘縮の原因
- 肩手症候群: 肩の疼痛と手の浮腫、皮膚変化
- 異所性骨化: 関節周囲の骨形成、可動域制限
- 関節拘縮: 長期間の固定や痙縮により不可逆的な制限
- 深部静脈血栓症: 下肢麻痺による血流うっ滞
- 褥瘡: 長期臥床、感覚障害による
- 転倒: 分離運動不良、バランス障害による
- うつ症状: 回復の停滞、社会復帰困難による心理的負担
対応の基本
急性期(StageⅠ~Ⅱ)
- 早期離床、早期リハビリテーション開始
- 関節可動域訓練(他動運動)、良肢位保持
- 深部静脈血栓症予防
- 感覚入力の促進(視覚、聴覚、触覚刺激)
- 連合反応の利用(健側の運動で患側の筋収縮を誘発)
回復期(StageⅡ~Ⅴ)
- 段階に応じた運動療法
- StageⅡ~Ⅲ: 共同運動パターンの促通、随意運動の強化
- StageⅣ~Ⅴ: 分離運動の促通、機能的運動パターンの学習
- 痙縮管理: ストレッチング、抗痙縮薬、ボツリヌス療法、装具療法
- 課題指向型訓練(Task-Oriented Training)
- CI療法(Constraint-Induced Movement Therapy): 上肢StageⅢ以上で適応
- 機能的電気刺激(FES)
- ADL訓練: 実生活場面での動作練習
- 装具療法: AFO(短下肢装具)等
維持期・生活期
- 自主訓練指導
- 痙縮・拘縮予防
- ADL・IADLの維持・向上
- 社会参加支援
- 定期的な評価とプログラム調整
リハビリの視点
ブルンストロームステージは、患者の現在の運動機能レベルを客観的に把握し、適切な治療目標とアプローチを選択するための重要な指標である。
評価の意義: 初期評価で回復の出発点を明確にし、経時的評価で回復の進行度を追跡する。上肢・手指・下肢それぞれ独立して評価することで、部位ごとの回復度合いの差異を把握できる。
治療戦略: StageⅠ~Ⅱでは随意運動の促通と痙縮の出現促進、StageⅢでは共同運動の強化と過度な痙縮のコントロール、StageⅣ~Ⅴでは共同運動からの脱却と分離運動の獲得、StageⅥでは協調性と巧緻性の向上を目指す。
痙縮との向き合い方: 痙縮は回復過程の一部であり、StageⅢでピークを迎える。過度な痙縮は機能を阻害するが、適度な筋緊張は立位や移乗動作に有利に働く場合もある。痙縮管理は、機能的な目標達成とQOL向上のバランスを考慮して行う。
上肢と下肢の回復の違い: 一般に下肢は上肢より早く回復し、StageⅤ~Ⅵに到達しやすい。上肢、特に手指はStageⅢ~Ⅳで停滞しやすく、機能的な回復が限定的な例が多い。このため、上肢では早期から代償手段の獲得や環境調整も視野に入れる。
予後予測: 発症後1~3ヶ月での回復度が長期予後の指標となる。初期にStageⅡ以上の随意運動が見られる例は良好な予後が期待できる。一方、StageⅠが長期間続く例は回復が限定的となる可能性が高い。
限界と補完: ブルンストロームステージは運動機能の「質」を評価するが、「量」(筋力、持久力)や実用性(ADLでの使用頻度)は評価しない。FuglMeyer Assessment、MAL(Motor Activity Log)、ARAT(Action Research Arm Test)等と併用することで、より包括的な評価が可能となる。
ひとことで言うと
脳卒中片麻痺患者の運動機能回復過程を、弛緩→共同運動→分離運動という自然経過に沿って6段階で評価し、リハビリテーションの治療目標設定と効果判定に用いる標準化された指標である。
関連用語
- 脳卒中
- 片麻痺
- 痙縮
- 共同運動パターン
- 分離運動
- 連合反応
- Fugl-Meyer Assessment(FMA)
- Modified Ashworth Scale(MAS)
- CI療法
- 肩手症候群
- 弛緩性麻痺
- 痙性麻痺
参考文献
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