リハビリ総論

スポーツ外傷後の疼痛閾値とアイシングによる鎮痛効果

スポーツ外傷の直後にアイシングを行うと、痛みがやわらぐ感覚が得られます。このとき体の中で何が起きているのかを測る指標のひとつが、疼痛閾値です。この記事では、疼痛閾値の意味と測定方法を確認したうえで、アイシングの鎮痛効果がどの程度の大きさで、どのくらい持続するのかを、研究結果をもとに整理します。

疼痛閾値とは何か

疼痛閾値(pressure pain threshold:PTH)は、圧刺激を加えたときに、痛みとして感じ始める最小の強さを指します。痛みを「どれくらい強く感じるか」ではなく、「どの強さから痛みになるか」という境目の値です。

これと混同されやすいのが疼痛耐性(pain tolerance:PTO)です。耐性は、痛みに耐えられなくなり、逃避したくなる強さを指します。閾値は「痛みの始まり」、耐性は「限界」であり、両者は別の指標です。

疼痛閾値と疼痛耐性の違い

臨床では、圧痛計(アルゴメーター)という装置で測定します。患部に直径1cm程度の圧子を当て、毎秒約30〜50kPaの速さで加圧し、被験者が「痛い」と感じた時点の値を読み取ります。同じ部位で3回測定して平均をとる方法が一般的です。

疼痛閾値は、損傷の重症度だけでなく、不安、注意力、疲労、睡眠不足といった心理的要因でも変動します。そのため「閾値が高い=損傷が軽い」と単純に解釈することはできません。

アイシングが鎮痛を生む仕組み

冷却による鎮痛は、単一の経路で説明できるものではありません。現在は、複数の機序が重なって生じると考えられています。

機序 内容
侵害受容器の閾値上昇 冷やすことで感覚受容器の興奮しにくさが上がり、同じ刺激でも痛みの信号が出にくくなる
神経伝導速度の低下 末梢神経を流れる信号の速さが落ち、痛みの伝達が遅れる。太い線維より細い線維のほうが影響を受けやすい
発痛物質の供給抑制 血管収縮により血流が減り、炎症性の化学物質が損傷部に届きにくくなる
中枢性の調整 冷却していない部位でも閾値が上がる現象が報告されており、脊髄・上位中枢の関与も示唆される

冷却が鎮痛を生む4つの機序

このうち臨床で実感しやすいのが、1つ目と2つ目です。皮膚の温度が下がるほど神経伝導速度は低下し、痛みの信号が届きにくくなります。ただし、これは信号を遅らせているだけで、損傷そのものが修復されているわけではありません。

研究が示している数値

冷却が疼痛閾値と耐性に与える影響を調べた代表的な研究に、Algafly と George(2007)の報告があります。成人男性のスポーツ選手23名を対象に、片側の足関節を冷却し、もう片側を対照として、同じ被験者内で比較した研究です。

指標 結果
皮膚温 10℃まで冷却
神経伝導速度 32.8% 低下
疼痛閾値 冷却部 89% 上昇/非冷却部 71% 上昇
疼痛耐性 冷却部 76% 上昇/非冷却部 56% 上昇

冷却中の神経伝導速度・疼痛閾値・疼痛耐性の変化

注目すべきは、冷却していない側でも閾値と耐性が上がった点です。冷却部ほどの変化ではないものの、71%と56%の上昇が生じています。これは、冷却の効果が局所の温度低下だけで説明できないことを示しています。脊髄や上位中枢を介した調整が働いている可能性があり、この研究の著者らも、神経伝導速度の低下が臨床的な鎮痛の一因になりうると述べています。

一方で、この研究は健常な成人男性を対象としたもので、損傷を受けた組織での効果を直接示したものではありません。数値をそのまま臨床に当てはめるのではなく、「冷却は閾値を大きく上げうる」という方向性として読むのが適切です。

鎮痛効果はいつまで続くのか

冷却による鎮痛は、冷却中から直後にかけて最も強く現れ、組織の温度が戻るにつれて消退します。冷却をやめて皮膚温が戻れば、神経伝導速度も回復し、閾値も元の水準に近づきます。

2025年に報告された全身冷却の研究では、機械的疼痛閾値の上昇が冷却後30分程度まで持続したとされています。局所冷却でも、おおむね冷却終了後数十分で効果は弱まると考えておくのが実務的です。

つまりアイシングは、「痛みを下げた状態を一定時間つくる」処置であり、1回行えば半日痛みが消えるといったものではありません。痛みが戻れば再度行う、という使い方になります。

疼痛閾値が上がることの功罪

閾値の上昇は、リハビリを進めるうえで利点になります。痛みで動けない状態でも、冷却後に可動域練習や荷重練習を行いやすくなるためです。急性期に「動かせる状態を短時間つくる」用途は、アイシングの現実的な使い方といえます。

一方で、閾値が上がるということは危険な刺激に気づきにくくなるということでもあります。痛みは組織を守る警告信号です。感覚が鈍っている間に強いストレッチや荷重を行えば、損傷を広げる可能性があります。

  • 冷却直後に激しいストレッチや高負荷のトレーニングを行わない
  • 感覚が戻る前に次の冷却を重ねない
  • 痛みが消えたことを「治った」と解釈しない

評価と処置を結びつける

疼痛閾値は、処置の前後で測ることで効果判定に使えます。ただし、測定値のばらつきを抑えるには条件をそろえる必要があります。

  • 測定部位と圧子の位置を毎回同じにする
  • 加圧速度を一定に保つ(毎秒約30〜50kPa)
  • 測定順序を固定し、3回の平均をとる
  • 測定時刻と、直前の冷却・運動・服薬の有無を記録する

疼痛閾値が上がったからといって、損傷の回復が進んだとは限りません。閾値は痛みの出やすさの指標であり、組織の修復度を示すものではない点を、評価の前提として押さえておく必要があります。

まとめ

  • 疼痛閾値は「痛みが始まる強さ」、疼痛耐性は「耐えられなくなる強さ」で別物
  • 冷却は侵害受容器の閾値上昇と神経伝導速度の低下により、鎮痛をもたらす
  • 研究では皮膚温10℃の冷却で神経伝導速度が32.8%低下し、疼痛閾値は89%上昇した
  • 冷却していない部位でも閾値が上がるため、中枢性の調整も関与している
  • 効果は冷却後数十分で消退する。持続する鎮痛を期待しない
  • 閾値の上昇は、感覚鈍麻による過負荷のリスクと表裏一体

アイシングの手順そのものについては、RICE処置におけるアイシングの基本手順とエビデンスで整理しています。

参考文献

  • Algafly AA, George KP. The effect of cryotherapy on nerve conduction velocity, pain threshold and pain tolerance. Br J Sports Med. 2007;41(6):365-369. PubMed
  • Bleakley C, McDonough S, MacAuley D. The use of ice in the treatment of acute soft-tissue injury: a systematic review. Am J Sports Med. 2004. PubMed
  • Mac Auley DC. Ice therapy: how good is the evidence? Int J Sports Med. 2001. PubMed
  • Dubois B, Esculier JF. Soft-tissue injuries simply need PEACE and LOVE. Br J Sports Med. 2020;54(2):72-73. BJSM
  • Tomschi F, et al. Cryo-Induced Hypoalgesia: The Effects of an Acute Whole-Body Cryotherapy. Eur J Pain. 2025. PMC

-リハビリ総論

Copyright© Rehabili days(リハビリデイズ) , 2026 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.