他動関節可動域

他動関節可動域とは

他動関節可動域(passive range of motion:PROM、他動的関節可動域)とは、関節を検査者や機器などの外力で他動的に動かした場合の関節可動域のことです。患者自身の筋収縮によらず測定されるため、関節・関節包・靭帯・筋といった構成組織の伸展性を純粋に反映します。自動関節可動域(AROM)よりわずかに大きいのが正常で、両者を併せて測定することで可動域制限の原因を判別できます。測定は日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会など3医学会が定めた「関節可動域表示ならびに測定法」が標準であり、理学療法・作業療法の基礎的評価として日常的に用いられています。

どこでみるのか

病棟・リハビリテーション室・訪問リハビリ・介護施設などで日常的に遭遇します。対象となるのは、脳卒中後の片麻痺、意識障害や安静臥床による長期不動、骨折・手術後の安静期、痙縮のある患者など、自分で関節を動かせない・動かさない状態です。患者訴えは「肩が上がらない」「膝が伸びない」「手足が固くなった」といった可動域制限や、介助者側の「着替えがしにくい」「手足が重い」という訴えとして現れます。他動関節可動域は評価であると同時に、他動運動として拘縮予防の訓練にも用いられ、多くの患者に接する場面で必要となる基本技です。

何をみているのか

着眼点は、①可動域の角度(参考可動域との差)、②制限因子の性状(関節包性か筋性か骨性か)、③終末感(軟・硬・筋性などの手応え)、④疼痛の有無と出現角度、⑤痙縮・筋緊張の影響、⑥左右差と経時的変化、⑦皮膚・腫脹・創部の状態、⑧自動可動域との差です。PROMとAROMを両方測定する理由は、制限の原因を分けるためです。他動でも制限があれば関節や筋そのものの問題、他動では十分でも自動でのみ制限されれば筋力・疼痛・運動制御の問題と判断します。測定値だけでなく、どんな組織がどこで止まっているかを捉える視点が最重要です。

臨床でどうみるか

具体的には、ゴニオメーターを用いて基本軸・移動軸に沿って角度を測定し、結果は原則として5°刻みで表記します。測定は参考可動域を目安に愛護的に動かしながら、痛みや制限の出現する箇所と終末感を把握します。手関節・足趾などでは角度計の当てやすさを考慮して背側に当てるなど、3医学会の改訂版(2022年)に基づく標準的手順に従います。他動運動として実施する際は、痛みを伴わない範囲で繰り返し・持続的に行い、入浴後など組織が温まっている時間帯が効果的とされます。測定値は経時的に記録し、拘縮の進行・改善を評価して訓練計画に反映させます。

評価で何をみるか

他動関節可動域の評価では、角度と質の両面を確認します。

  • 角度の測定 - ゴニオメーター・基本軸・移動軸の設定
  • 参考可動域との差 - 制限の程度・左右差
  • 終末感 - 軟・硬・弾性・筋性の性状
  • 疼痛 - 出現角度・部位・性質
  • 痙縮 - 速度依存性の抵抗感
  • PROMとAROMの差 - 制限原因の判別
  • 皮膚・創部の状態 - 実施可否の判断

これらは相互に影響します。同じ角度でも痙縮による硬さなのか筋そのものの短さなのかで介入方法が変わり、疼痛の出現角度は訓練強度の上限を決めます。角度・終末感・疼痛を組み合わせて制限因子を特定することが、評価を正確にする核心です。

臨床でよく出る問題

他動関節可動域で生じやすい問題は以下の通りです。

  • 拘縮の進行 - 実施頻度・方法の不備
  • 疼痛の増悪 - 過度の伸展・速度
  • 痙縮パターンの助長 - 急速な伸展による誘発
  • 測定値のばらつき - 肢位・角度計の不一致
  • 軟部組織の損傷 - 骨粗鬆症・ステロイド使用例での骨折
  • 深部静脈血栓症のリスク - 急性期での実施

これらは相互に影響します。痛みを無視した強い他動運動は防御性収縮を招き、測定値を不正確にしてさらに拘縮を進行させます。実施前の禁忌確認と愛護的な操作を徹底し、測定方法を統一して記録することが、問題を防ぐ実践の核心です。

起こりやすい要因

他動関節可動域の制限をきたしやすい背景には以下があります。

  • 長期の不動・安静 - 臥床・ギプス固定
  • 麻痺・意識障害 - 自動運動の不能
  • 痙縮・筋緊張亢進 - 脳卒中後など
  • 炎症・疼痛による制限 - 関節炎・外傷後
  • 加齢による組織の変性 - 関節包・筋の柔軟性低下
  • 姿勢・ポジショニングの偏り - 同一肢位の持続

これらは重複して制限を形成します。麻痺や意識障害では自動運動による予防が働かないため、他動運動が唯一の拘縮予防手段となります。不動の期間が長いほど関節包の肥厚と筋の短縮が進むため、安静期から早めに取り組むことが病態判断の鍵です。

注意したい症状

他動関節可動域の場面で見逃せないサインがあります。

  • 実施中の激痛・防御性収縮 - 強度の見直し
  • 急な抵抗感の変化・クリック音 - 組織損傷の徴候
  • 腫脹・熱感・発赤の増悪 - 炎症の活動性
  • ふくらはぎの痛み・腫れ - 深部静脈血栓症の疑い
  • 痙攣の誘発 - 急速な伸展への反応
  • 実施後の関節痛の遷延 - 過負荷の確認

これらは実施の即時中止・医師への報告に直結します。特に術後・骨折後・急性期の炎症のある関節では、無理な他動運動が治療経過を損なうため、固定の状況を確認して実施可否を判断します。実施前後に疼痛・腫脹を確認し、変化を記録することが安全確保の基本です。

対応の基本

他動関節可動域への対応は、測定・訓練・調整の三層で組みます。

  • 標準的手順での測定 - 3医学会基準・5°刻みの記録
  • 愛護的な他動運動 - 痛みのない範囲・ゆっくり反復
  • 禁忌の確認 - 炎症・不安定骨折・血栓症の除外
  • ポジショニングとの併用 - 肢位の工夫・姿勢の変更
  • 自動運動への移行 - 可動域が得られたらAROM訓練へ
  • 経時的な記録 - 角度・終末感・疼痛の推移

他動関節可動域は制限の程度と原因を示す評価であり、他動運動としては拘縮予防・改善の訓練です。標準的な測定方法を守って経過を記録し、愛護的な操作を徹底し、可動域の回復に合わせて自動運動へ移行することが、最も重要な実践です。

ひとことで言うと

他動関節可動域とは、外力で関節を動かして測定する可動域で、構成組織の伸展性を反映します。標準的な測定法での評価と、痛みのない範囲での愛護的な他動運動が対応の基本です。

関連用語

  • 他動運動
  • 自動関節可動域
  • 関節拘縮
  • 終末感
  • ゴニオメーター
  • ポジショニング
  • 痙縮

参考文献・出典

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  • 関節可動域とは
  • ROM訓練とは
  • 関節拘縮とは
  • 痙縮とは
  • ポジショニングとは
  • 筋緊張とは

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