失語症とは
失語症(aphasia)とは、脳の言語中枢(主に左半球の言語野)の障害によって、話す・聞く・読む・書くといった言語機能が障害された状態です。音声器官の麻痺や知能の低下とは異なる「言語そのもの」の障害で、脳卒中が最多の原因です。運動性(Broca)失語・感覚性(Wernicke)失語・伝導失語・健忘失語・全失語など、障害の組み合わせによって複数の病型に分けられます。コミュニケーションは生活の基盤であるため、リハビリテーションと環境づくりが臨床で重要です。
どこでみるのか
脳卒中病棟・回復期リハビリテーション病棟・言語聴覚士(ST)の介入部門・在宅で遭遇します。臨床現場では、①脳卒中後の言語機能の評価、②回復期での言語訓練、③コミュニケーション手段の工夫(絵カード・筆談)、④家族への説明と会話の工夫、⑤社会参加・復職の支援などの場面で失語症が問題となります。患者訴えは「言葉が出てこない」「言いたいことが言えない」「人の話がわからない」「漢字が読めない」などで、障害の組み合わせ(出力・理解・反復・呼称)を切り分ける視点が求められます。
何をみているのか
着眼点は、①障害の組み合わせ(話す・聞く・読む・書くそれぞれ)、②流暢性(流暢か非流暢か)、③理解の程度(日常会話・複雑な文)、④反復の可否、⑤呼称・復唱・読み書きの障害、⑥病型の推定(Broca・Wernicke・伝導・健忘・全失語など)、⑦随伴する障害(片麻痺・注意障害・うつ)、⑧生活でのコミュニケーション実態です。失語症は「病型ごとに困りごとが異なる」ため、機能の配分を読む視点が最重要です。
臨床でどうみるか
具体的には、標準言語検査(標準失語症検査:SLTAなど)で各言語機能を評価し、病型と重症度を確定します。訓練は言語聴覚士を中心に、呼称練習・文の理解・読み書きなどの課題訓練を行い、生活でのコミュニケーションを支える工夫(絵カード・筆談・ジェスチャーの併用)を設計します。訓練は段階的に、単語→文→会話へと進め、理解の遅さには時間をかけて繰り返す工夫をします。環境面では、安心して話せる場の提供、家族への「静かにゆっくり・YES/NO質問の工夫・訂正を急がない」などのコミュニケーション指導が大切です。うつ・意欲低下の併発も多いため、心理面の支援を並行して行います。
評価で何をみるか
失語症の評価では、言語機能・病型・生活を確認します。
- 流暢性 - 話し方の滑らかさ
- 理解 - 聞く・読むの程度
- 反復 - 復唱の可否
- 呼称 - 命名の障害
- 読み書き - 課題の達成度
- 病型の推定 - Broca・Wernickeなど
- 生活での会話 - 実際の場面
これらは相互に関連します。言語機能の配分から病型を推定し、生活での困難と合わせて訓練と環境の工夫を決めることが、評価を正確にする核心です。
臨床でよく出る問題
失語症に関連して臨床で生じやすい問題は以下の通りです。
- コミュニケーションの断絶 - 生活での誤解
- 感情表現の困難 - 不満・痛みの伝達
- 意欲低下・うつの併発 - 訓練への影響
- 家族の疲労 - 会話の負担
- 社会参加の制限 - 復職・外出
- 訓練の量の確保 - 時間の制約
これらは相互に影響します。コミュニケーションの困難が孤立とうつを生み、意欲低下が訓練量を落とし、回復を遅らせる悪循環が生じます。伝えられる手段を早期に確保し、家族と共通の工夫を作ることが、問題整理の核心です。
起こりやすい要因
失語症をきたしやすい背景には以下があります。
- 脳卒中(左半球) - 最多の原因
- 頭部外傷 - 外傷性の障害
- 脳腫瘍 - 占拠性の障害
- 脳炎 - 炎症性の障害
- 加齢 - 回復力への影響
- 心理的要因 - 回復への意欲
これらは重複して障害を形成します。障害部位と範囲が失語症の型を決め、発症後の時間経過と訓練量が回復度を左右します。原因と経過を組み合わせて捉えることが、病態判断の鍵です。
注意したい症状
失語症を示唆する見逃せないサインがあります。
- 突然の言葉のもつれ - 脳卒中の発症
- 単語が出てこない - 健忘失語の徴候
- 聞き間違い・読み間違いの増加 - 理解の障害
- 意味の通らない発話 - 感覚性失語
- 書字の崩れ・読み飛ばし - 高次言語の障害
- 意欲の低下 - うつの確認
これらはさらに精査と早期対応に直結します。突然の発症・増悪では直ちに脳血管障害の評価を要し、意欲低下では心理面の支援を優先します。言語症状の変化を記録し、見逃さないことが、安全確保の基本です。
対応の基本
失語症への対応は、評価・訓練・環境の三層で組みます。
- 標準言語検査 - 機能の配分
- 言語訓練 - 課題の段階化
- 代償手段 - 絵カード・筆談
- コミュニケーション指導 - 家族への工夫
- 心理面の支援 - 意欲・うつ
- 社会参加 - 復職・外出の設計
失語症は「話せること」だけでなく「伝え合えること」を目標にすべきであり、訓練と環境づくりを一体で進めることが最重要です。本人と家族が安心して対話できる形を作り、回復を長期的に支えることが、最も重要な実践です。
ひとことで言うと
失語症とは、脳の言語中枢の障害で話す・聞く・読む・書くが障害された状態で、脳卒中が最多の原因です。言語機能の配分を評価し、訓練とコミュニケーション工夫を並行して進めることが基本です。
関連用語
参考文献・出典
- 失語症 (しつごしょう)とは|済生会
- 失語症とは?言語聴覚士が関わる失語症について
- 誤解されやすい病気「失語症」とは?|コラム
- 失語症 言語聴覚療法(Speech-Language-HearingTherapy:ST
- 全国の失語症者数の推計を目的とした医療機関調査
- 失語症のリハビリ方法とは?自然な会話を取り戻すポイント
関連記事
- 脳血管障害とは
- 半側空間無視とは
- 片麻痺とは
- 高次脳機能障害とは
- FIMとは
- 認知症とは
用語集へ戻る
『し』用語集へ戻る