変形性頸椎症

変形性頸椎症とは

変形性頸椎症(Cervical Spondylosis)は、加齢に伴う頸椎の椎間板や椎骨の変性により、骨棘形成、椎間板腔の狭小化、椎間関節の変形などが生じ、頸部痛、上肢のしびれ・疼痛、筋力低下、手指の巧緻性障害などを引き起こす退行性疾患です。40歳以上の中高年に多く見られ、男性にやや多い傾向があります。無症状の画像的変化から、神経根症状(神経根型)、脊髄症状(脊髄症型)、これらの混合型まで幅広い病態を呈します。重症例では歩行障害や膀胱直腸障害を伴う頸椎症性脊髄症(Cervical Spondylotic Myelopathy: CSM)へと進展し、QOLを著しく低下させます。

どこでみるのか

変形性頸椎症は頸椎、特にC5/6、C6/7椎間レベルに好発します。これらの部位は頸椎の可動性が大きく、機械的ストレスが集中しやすいためです。病変は椎間板の変性と膨隆、椎体後縁や鉤状突起(ルシュカ関節)の骨棘形成、椎間関節(ファセット関節)の変性、黄色靭帯の肥厚として現れます。これらの変化により椎間孔の狭窄(神経根圧迫)や脊柱管の狭窄(脊髄圧迫)が生じます。診断には単純X線(正面、側面、斜位、機能撮影)、MRI(脊髄・神経根の圧迫状況、脊髄内信号変化)、CT(骨変化の詳細評価)が用いられます。電気生理学的検査(筋電図、神経伝導速度、体性感覚誘発電位)は神経障害の程度評価に有用です。

何をみているのか

変形性頸椎症では椎間板の変性(線維輪の亀裂、髄核の脱水と弾力性低下)、椎体の骨棘形成、椎間関節の変性、靭帯の肥厚・石灰化といった構造的変化を観察します。これらの変化により神経根や脊髄が機械的に圧迫され、神経症状が出現します。神経根型では圧迫された神経根の支配領域に一致した放散痛、しびれ、筋力低下、腱反射減弱が生じます。脊髄症型では上肢の巧緻運動障害(箸の使用困難、ボタンかけ困難)、下肢の痙性歩行、バランス障害、膀胱直腸障害、上下肢の深部腱反射亢進、病的反射(Hoffmann徴候、Babinski徴候)が出現します。MRIでの脊髄内T2高信号は脊髄の不可逆的損傷を示唆します。

臨床でどうみるか

臨床では問診により頸部痛の有無と性質(鈍痛、刺すような痛み)、上肢への放散痛・しびれの部位と範囲、手指の巧緻性低下(ボタンかけ、箸使用、書字困難)、歩行障害の有無、転倒歴、膀胱直腸障害の有無を聴取します。視診では頸椎の前弯減少または後弯変形、頸部の可動域制限を確認します。触診では傍脊柱筋の緊張、圧痛点を評価します。神経学的診察では上肢の筋力(デルマトームごとのMMT)、感覚(デルマトームに沿った表在感覚・深部感覚)、腱反射(上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、腕橈骨筋反射)、病的反射(Hoffmann徴候、Tromner徴候、Babinski徴候)、協調運動(指鼻試験、回内回外試験)を評価します。Spurling test(頸部伸展・患側側屈・圧迫で上肢痛誘発)は神経根症の評価に有用です。10秒テスト(両手のグーパー運動)、ボタンテストで巧緻性を評価します。

評価で何をみるか

変形性頸椎症の評価では以下の項目を包括的に評価します。

  • 頸部痛:VAS(Visual Analogue Scale)、NRS(Numerical Rating Scale)、疼痛部位と性質
  • 頸椎可動域:屈曲、伸展、側屈(左右)、回旋(左右)のROM測定
  • 上肢症状:放散痛・しびれの部位、Spurling test、Jackson test
  • 筋力評価:デルマトームごとのMMT(C5:三角筋、C6:上腕二頭筋、C7:上腕三頭筋、C8:手指屈筋、Th1:小指外転筋)
  • 感覚評価:デルマトームに沿った表在感覚(触覚、痛覚)、深部感覚(位置覚、振動覚)
  • 腱反射:上腕二頭筋反射(C5-6)、上腕三頭筋反射(C7-8)、腕橈骨筋反射(C5-6)
  • 病的反射:Hoffmann徴候、Tromner徴候、Babinski徴候、Chaddock徴候
  • 巧緻運動:10秒テスト(グーパー回数)、ボタンテスト、箸操作、書字能力
  • 歩行評価:歩容、歩行速度、10m歩行テスト、Timed Up and Go Test、痙性歩行の有無
  • バランス評価:Romberg test、Mann test、片脚立位時間
  • 日本整形外科学会頸部脊髄症治療成績判定基準(JOA score):上肢運動機能、下肢運動機能、感覚、膀胱機能の総合評価
  • Neck Disability Index(NDI):頸部由来の機能障害評価
  • 画像所見:椎間板高の減少、骨棘形成、脊柱管狭窄の程度、脊髄圧迫の有無、MRIでのT2高信号
  • 電気生理学的検査:筋電図、神経伝導速度、体性感覚誘発電位

臨床でよく出る問題

変形性頸椎症の臨床現場では以下のような問題が頻繁に見られます。

  • 慢性頸部痛と肩こりによる日常生活の質の低下
  • 上肢への放散痛・しびれによる睡眠障害と活動制限
  • 手指の巧緻性低下による日常生活動作(書字、ボタンかけ、箸使用)の困難
  • 握力低下による物の落下や把持困難
  • 下肢の痙性と筋力低下による歩行障害と転倒リスク
  • バランス障害による転倒と二次的外傷のリスク
  • 頸椎の可動域制限による運転時の後方確認困難
  • 膀胱直腸障害(頻尿、残尿感、便秘)による生活の質低下
  • 脊髄症の進行による不可逆的な神経障害
  • 保存的治療の効果不十分と手術適応の判断の難しさ
  • 術後の症状残存や再発

起こりやすい要因

変形性頸椎症を発症・進行させる要因には以下が挙げられます。

加齢は最も重要な要因であり、椎間板の変性(水分減少、弾力性低下)、軟骨終板の石灰化、骨棘形成を引き起こします。頸椎への機械的ストレス(長時間のデスクワーク、パソコン作業、スマートフォン使用による前傾姿勢)、重量物の頭上への持ち上げ作業、コンタクトスポーツ(ラグビー、柔道)、頸椎外傷の既往(鞭打ち損傷)、先天的な脊柱管狭窄、後縦靭帯骨化症(OPLL)や黄色靭帯骨化症の合併、喫煙(椎間板への栄養供給低下)、遺伝的素因、肥満、姿勢不良(頸椎前弯減少、ストレートネック)なども発症リスクを高めます。

注意したい症状

変形性頸椎症において特に注意すべき症状は以下の通りです。

急速に進行する四肢の筋力低下や感覚障害は脊髄症の悪化を示唆し、緊急の神経学的評価と手術適応の検討が必要です。転倒の頻発、歩行の著しい困難は脊髄症の進行を示します。膀胱直腸障害(尿閉、失禁、便失禁)の出現は重度の脊髄障害を示唆し、緊急対応が必要です。手指の巧緻性が急速に低下し、箸やボタンの操作が困難になる場合も脊髄症の進行を疑います。軽微な外傷(転倒、追突事故)後の急激な四肢麻痺は脊柱管狭窄がある患者での脊髄損傷を示唆します。MRIでのT2高信号の出現は脊髄の不可逆的損傷を示し、早期手術介入が推奨されます。

対応の基本

変形性頸椎症の対応は病型と重症度に応じた治療選択が基本です。

神経根型で症状が軽度から中等度の場合は保存的治療を優先します。安静(急性期の頸部負荷軽減)、頸椎カラーの短期使用(長期使用は筋萎縮を招くため注意)、薬物療法(NSAIDs、筋弛緩薬、神経障害性疼痛治療薬:プレガバリン、ミロガバリン)、理学療法(頸椎牽引、温熱療法、運動療法)、神経ブロック(神経根ブロック、硬膜外ブロック)を行います。脊髄症型では進行性の場合、保存的治療の効果は限定的であり、手術療法(前方除圧固定術、椎弓形成術)が推奨されます。手術適応は日常生活動作の著しい制限、進行性の筋力低下、膀胱直腸障害、MRIでの脊髄T2高信号などを総合的に判断します。術後は早期離床と段階的なリハビリテーションが重要です。

リハビリの視点

リハビリテーションでは病型と病期に応じた段階的アプローチが重要です。

神経根型では急性期は安静と疼痛管理を優先し、亜急性期から慢性期には頸部周囲筋(深頸屈筋、僧帽筋、肩甲挙筋)のストレッチ、等尺性筋力強化、姿勢矯正(頸椎前弯の保持、ストレートネック改善)を行います。デスクワークやパソコン作業の環境調整(モニター高さ、椅子の調整)、適切な枕の選択、長時間の同一姿勢を避ける生活指導が重要です。脊髄症型では巧緻運動訓練(手指の細かい動作練習、作業療法)、歩行訓練(バランス改善、転倒予防)、ADL訓練(書字、ボタンかけ、箸使用)を行います。術後リハビリテーションでは、術式に応じた頸部可動域制限期間を経て、段階的に可動域訓練と筋力強化を進めます。過度の頸部伸展・回旋運動は避け、安全な範囲での機能訓練を行います。患者教育、自己管理指導、多職種連携により、症状の進行予防と生活の質の維持を図ります。

ひとことで言うと

変形性頸椎症は加齢に伴う頸椎の変性により神経根や脊髄が圧迫される疾患であり、早期発見と適切な保存的治療・手術療法の選択が重要です。

関連用語

  • 頸椎症性脊髄症(Cervical Spondylotic Myelopathy: CSM)
  • 頸椎症性神経根症(Cervical Spondylotic Radiculopathy)
  • 後縦靭帯骨化症(Ossification of Posterior Longitudinal Ligament: OPLL)
  • 脊柱管狭窄症(Spinal Stenosis)
  • Spurling test(スパーリングテスト)
  • Hoffmann徴候(ホフマン徴候)
  • デルマトーム(Dermatome)
  • 日本整形外科学会頸部脊髄症治療成績判定基準(JOA score)
  • 椎弓形成術(Laminoplasty)

参考文献

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