咀嚼障害とは
咀嚼障害とは、食べ物を十分にかみ砕き、唾液と混ぜて飲み込みやすい食塊をつくることがうまくできない状態を指します。食べる機能のうち「かむ」段階に問題がある状態で、歯、顎、舌、口唇、頬、咀嚼筋などのどこかに障害があると起こります。
咀嚼は単に歯で砕くだけではありません。食べ物を口に取り込み、口の中で保持し、かみ砕き、舌でまとめて食塊を形成し、次の嚥下へつなげる一連の過程です。そのため、咀嚼障害は口の中の局所的な問題だけでなく、神経・筋疾患、脳血管障害、加齢、認知機能低下、手術後の機能障害などとも深く関係します。
また、咀嚼障害があると、食べにくさだけでなく、食事時間の延長、食べこぼし、口腔内残留、偏食、低栄養、脱水、嚥下障害へのつながりなどの問題が起こりやすくなります。したがって咀嚼障害は「口の問題」だけではなく、全身状態や生活機能にも影響する口腔機能障害としてみることが重要です。
どこでみるのか
咀嚼障害は、歯科口腔外科、一般歯科、摂食嚥下外来、リハビリテーション科、耳鼻咽喉科、脳神経内科、回復期・療養期病棟、在宅医療の場面などでみることがあります。特に脳卒中後、神経筋疾患、頭頸部がん術後、高齢者の口腔機能低下、認知症などで問題になりやすいです。
患者さんの訴えとしては、「うまくかめない」「硬いものが食べられない」「食事に時間がかかる」「口の中に食べ物が残る」「頬や唇をかんでしまう」「義歯が合わず食べにくい」といった形で気づかれることがあります。小児では、離乳食が進みにくい、口に入れても押し出してしまう、食べ方がぎこちないといった形で見つかることもあります。
したがって咀嚼障害は、単独の病名というより、口腔機能全体の障害の一部として評価されることが多く、食べる機能や栄養状態を含めてみる必要があります。
何をみているのか
咀嚼障害でみているのは、単に「歯があるかどうか」ではありません。実際には、食べ物を取り込めるか、口の中で保持できるか、かみ砕けるか、食塊を形成できるか、安全に嚥下へつなげられるかをみています。
そのため評価では、歯や義歯の状態、咬合力、顎の動き、舌や口唇の運動、頬の緊張、唾液量、口腔乾燥、感覚、食べこぼし、口腔内残留、食事姿勢などを確認します。必要に応じて、咀嚼機能検査、舌圧検査、VF(嚥下造影検査)などが行われます。
つまり咀嚼障害では、「かめない」という訴えの背景にある口腔運動機能・咬合・感覚・食塊形成能力・嚥下とのつながりをみることが重要です。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、何が食べにくいのかを具体的に整理します。硬いものだけが難しいのか、口に入れてから奥に送れないのか、口の中に食べ物が残るのか、義歯の不適合があるのか、疲れると悪くなるのかによって、問題となる段階が変わります。
次に、口の開けにくさ、顎の痛み、歯の欠損、義歯の適合、舌運動、口唇閉鎖、頬の張り、食事中の動き、食べ方、姿勢などをみます。小児では実際に使っているスプーンや食形態を確認しながら観察することが重要で、成人では咀嚼機能検査、舌圧検査、必要に応じてVFなどを組み合わせて評価します。
また、咀嚼障害は局所治療だけで完結しないことも多く、原疾患の治療、義歯調整、姿勢調整、食形態調整、口腔リハビリテーション、多職種連携が重要になります。つまり「かめるようにする」だけでなく、「安全に、必要な栄養を、現実的に摂れるようにする」ことが臨床の目標になります。
評価で何をみるか
- 硬いもの、繊維質のものが食べにくくないか
- 食事時間が長くなっていないか
- 歯の欠損や痛みの有無
- 義歯の適合状態
- 咬合力の低下
- 顎の開閉口や側方運動の障害
- 舌の可動性と舌圧
- 口唇閉鎖不全や食べこぼしの有無
- 頬や唇をかんでしまわないか
- 口腔乾燥や唾液分泌低下の有無
- 口腔内残留の有無
- 食塊形成ができているか
- 食事姿勢や食具の適合
- 咀嚼後に嚥下へ安全につなげられるか
咀嚼障害の評価では、歯科的な所見だけでなく、実際の食べる場面をみることが大切です。検査で数値をみるだけではなく、何が食べられ、どこで止まり、どんな危険があるのかを生活場面に即して評価する必要があります。
臨床でよく出る問題
- 硬いものがかめない
- 食事に時間がかかる
- 口の中に食べ物が残る
- 食べこぼしが多い
- 頬や唇をかんでしまう
- 義歯が痛くて使えない
- 口が開きにくい、顎が痛い
- 疲れると食べにくくなる
- 食事量が減って栄養状態が悪くなる
咀嚼障害は、痛みや食べにくさだけでなく、食事量の低下や食べられる食品の偏りにつながりやすいのが問題です。結果として体重減少、低栄養、全身機能低下へつながることがあるため、症状が軽く見えても生活への影響を丁寧にみることが重要です。
起こりやすい要因
咀嚼障害が起こりやすい背景には、次のような要因があります。
- 歯の欠損
- 義歯不適合
- 顎関節や咀嚼筋の障害
- 舌や口唇の運動障害
- 脳血管障害
- パーキンソン病などの神経疾患
- 重症筋無力症や筋萎縮性側索硬化症などの筋疾患
- 認知症
- 加齢による筋力低下
- 頭頸部腫瘍や術後の機能障害
このように咀嚼障害は、口の中の問題だけでなく、神経・筋・認知・全身状態の影響を受けます。そのため原因を一つに決めつけず、局所と全身の両方から考える必要があります。
注意したい症状
- 急に食べにくくなった
- むせや咳を伴うようになった
- 食後に痰が増える
- 微熱を繰り返す
- 飲み物や食べ物が鼻へ抜ける
- 口が開きにくい、開けると痛い
- 体重減少がある
- 脱水や低栄養が疑われる
- 誤嚥性肺炎が疑われる症状がある
これらがある場合は、単なる食べにくさではなく、嚥下障害や誤嚥、神経疾患、頭頸部の器質的な問題が関与している可能性があります。特に、急な変化、むせ、咳、発熱、体重減少がある場合は、早めに専門医へ相談することが大切です。
対応の基本
対応の基本は、まず咀嚼障害の原因を見極めることです。歯や義歯の問題であれば歯科治療や義歯調整、顎の運動障害であれば顎機能への対応、神経・筋疾患や腫瘍が背景にあれば原疾患の治療が必要になります。
そのうえで、食べやすい姿勢の調整、食形態の調整、スプーンや食具の工夫、口腔ケア、舌や口唇の運動訓練、咀嚼練習などを組み合わせます。成人では義歯作成や咬合再建が重要になることがあり、小児では口腔機能の発達段階に合わせた食事指導が重要になります。
また、咀嚼障害は嚥下障害と連続していることが多いため、「かめるかどうか」だけで終わらせず、その後に安全に飲み込めるかまで含めて評価し、必要に応じて多職種で対応することが重要です。
リハビリの視点
リハビリの視点では、咀嚼障害は口腔機能障害のひとつとしてとらえ、できるだけ安全に、効率よく、本人が食事を継続できるように支援することが大切です。単に筋力を上げるだけでなく、実際の食事場面に合わせて調整していく必要があります。
- 舌、口唇、頬の運動機能をみる
- 咀嚼能力と舌圧を評価する
- 食事姿勢を調整する
- 食形態を発達や機能に合わせる
- 義歯や補助装置を活用する
- 口腔ケアで口腔環境を整える
- 実際の食事動作で練習する
- 多職種で栄養と安全性を支える
重要なのは、「正常な食べ方に戻すこと」だけを目標にするのではなく、その人の残された機能を生かしながら、安全性、栄養、本人の食べる楽しみをどう守るかという視点で支援することです。
ひとことで言うと
咀嚼障害とは、食べ物をうまくかみ砕き、口の中でまとめて飲み込みにつなげることが難しくなった状態で、歯・顎・舌・神経・筋機能などを含めて評価と対応を行う口腔機能障害です。
関連用語
- 口腔機能障害
- 咀嚼機能低下
- 口腔機能低下症
- 嚥下障害
- 摂食嚥下障害
- 舌圧
- 咬合力
- 義歯調整
- 食塊形成
- 口腔リハビリテーション
参考文献
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