肥満とは
肥満(Obesity)とは、体脂肪が過剰に蓄積した状態であり、健康障害を引き起こすリスクが高い病態である。世界保健機関(WHO)および日本肥満学会の基準では、体格指数(BMI:Body Mass Index)が25以上を肥満と定義する。BMIは体重(kg)を身長(m)の二乗で除した値である。肥満は単なる美容上の問題ではなく、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、心血管疾患、変形性関節症、睡眠時無呼吸症候群、一部の癌など多くの疾患のリスク因子であり、WHOは肥満を「21世紀の疫病」と位置づけている。リハビリテーション領域では運動器疾患(変形性膝関節症、腰痛症)、脳卒中、心疾患の背景因子として肥満が関与し、減量と運動療法が治療の重要な柱となる。内臓脂肪型肥満はメタボリックシンドロームの中核をなし、動脈硬化性疾患のリスクを著しく高める。
どこでみるのか
肥満は全身性の病態であるが、特に脂肪組織の蓄積部位により内臓脂肪型肥満(リンゴ型、上半身肥満)と皮下脂肪型肥満(洋ナシ型、下半身肥満)に分類される。内臓脂肪型肥満では腹腔内、特に腸間膜や大網に脂肪が蓄積し、ウエスト周囲径の増大として現れる。日本の基準では男性85cm以上、女性90cm以上が内臓脂肪蓄積と判定される。CTやMRIで臍レベルの内臓脂肪面積が100cm²以上であれば内臓脂肪型肥満と診断される。皮下脂肪型肥満では腹壁、臀部、大腿部の皮下に脂肪が蓄積する。リハビリテーション評価では体重、BMI、ウエスト周囲径の測定に加え、体組成計による体脂肪率、除脂肪体重(筋肉量)の評価が重要である。運動器への影響として膝関節、股関節、腰椎への過負荷による疼痛や可動域制限を観察する。呼吸機能への影響として安静時および労作時の呼吸困難、酸素飽和度低下を評価する。
何をみているのか
肥満の評価では体格指標、体組成、肥満に関連する健康障害、運動機能、生活習慣を包括的に評価する。BMIは体重と身長から算出される簡便な指標であり、18.5未満が低体重、18.5~25未満が普通体重、25以上が肥満である。日本肥満学会はBMI 25~30を肥満1度、30~35を2度、35~40を3度、40以上を4度と分類する。ウエスト周囲径は内臓脂肪蓄積の指標であり、立位で臍レベルを水平に測定する。体脂肪率は男性25%以上、女性30%以上が肥満の目安である。肥満に伴う健康障害として耐糖能異常(空腹時血糖、HbA1c)、脂質異常(LDLコレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール)、高血圧、高尿酸血症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群の有無を評価する。運動機能では歩行能力、階段昇降能力、持久力(6分間歩行距離)、膝・股関節・腰部の疼痛と可動域を評価する。生活習慣として食事内容、摂取カロリー、身体活動量、座位時間を評価する。
臨床でどうみるか
臨床場面での肥満の評価は以下の手順で実施する。まず体重と身長を測定しBMIを算出する。ウエスト周囲径は立位で肋骨下縁と腸骨稜上縁の中点(ほぼ臍レベル)を水平に測定する。体組成計により体脂肪率、骨格筋量、内臓脂肪レベルを測定する。問診により肥満の発症時期(小児期からか成人後か)、体重変動の経過、家族歴、食事内容(摂取カロリー、食事回数、間食、夜食)、身体活動量(職業、運動習慣、座位時間)、睡眠時間、ストレス、既往歴(糖尿病、高血圧、脂質異常症)を聴取する。視診では体型(内臓脂肪型か皮下脂肪型か)、皮膚の状態(黒色表皮腫、皮膚線条)、頸部の太さ(睡眠時無呼吸のリスク)を観察する。運動器の評価として膝関節、股関節、腰椎の可動域、疼痛、アライメント異常(O脚、X脚)を確認する。歩行観察では動揺歩行、膝への過負荷、易疲労性を評価する。血液検査により空腹時血糖、HbA1c、脂質(総コレステロール、LDL、HDL、中性脂肪)、肝機能(AST、ALT、γ-GTP)、尿酸値を評価する。血圧測定により高血圧の有無を確認する。必要に応じて睡眠時無呼吸症候群の簡易検査、心電図、胸部X線、腹部超音波検査を実施する。
評価で何をみるか
肥満の評価項目として以下を挙げる。
- 体重と体重変動の経過
- BMI(体格指数)
- ウエスト周囲径(内臓脂肪の指標)
- 体脂肪率
- 骨格筋量と除脂肪体重
- 内臓脂肪面積(CT測定)
- 肥満の分類(1度~4度)
- 肥満のタイプ(内臓脂肪型、皮下脂肪型)
- 空腹時血糖とHbA1c
- 脂質(LDL、HDL、中性脂肪)
- 血圧値
- 肝機能(脂肪肝の有無)
- 尿酸値
- 膝関節・股関節・腰部の疼痛と可動域
- 歩行能力と持久力(6分間歩行距離)
- 日常生活活動量(歩数計)
- 食事摂取内容と総カロリー
- 運動習慣の有無と頻度
- 睡眠時無呼吸症候群の症状(いびき、日中の眠気)
- QOL評価(SF-36など)
- 減量の動機づけと準備性
臨床でよく出る問題
肥満に関連して臨床でよく遭遇する問題は以下の通りである。
- 変形性膝関節症による膝痛と歩行困難
- 腰痛症と椎間板ヘルニア
- 運動時の息切れと易疲労性
- 2型糖尿病の発症または悪化
- 高血圧と心血管疾患リスク
- 脂質異常症と動脈硬化進行
- 睡眠時無呼吸症候群による日中の眠気
- 脂肪肝から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)への進行
- 皮膚トラブル(股ずれ、皮膚炎)
- 減量の困難さと挫折
- リバウンドの繰り返し
- 運動療法への参加困難(関節痛、呼吸困難)
- 心理的問題(抑うつ、自尊心低下)
- 社会的偏見とスティグマ
- 治療へのモチベーション維持困難
起こりやすい要因
肥満を引き起こす要因は遺伝的素因と環境的要因の複合である。一次性肥満(単純性肥満)は全体の95%以上を占め、エネルギー摂取過多と消費不足のバランス異常により生じる。食事要因として高カロリー食品の過剰摂取、早食い、夜食、間食、清涼飲料水の多飲がある。身体活動量の低下として座位中心の仕事、通勤手段の自動車依存、運動習慣の欠如、余暇時間のスクリーン時間増加(テレビ、スマートフォン)がある。生活習慣として睡眠不足はレプチン分泌低下とグレリン分泌増加により食欲を亢進させる。ストレスは過食行動を誘発する。遺伝的素因として両親が肥満の場合、子が肥満になる確率は約80%とされる。二次性肥満(症候性肥満)は内分泌疾患(クッシング症候群、甲状腺機能低下症、インスリノーマ)、視床下部障害、薬剤性(ステロイド、抗精神病薬、抗うつ薬)により生じる。年齢的要因として中年期以降の基礎代謝低下、閉経後女性のエストロゲン低下による内臓脂肪増加がある。
注意したい症状
肥満において特に注意すべき症状は以下の通りである。急激な体重増加(数ヶ月で10kg以上)は内分泌疾患や薬剤性肥満を疑う。膝関節痛の増悪は変形性膝関節症の進行を示し、関節破壊が進むと歩行困難となり、さらに活動量が低下し肥満が悪化する悪循環を形成する。睡眠時の大きないびきと無呼吸、日中の強い眠気は睡眠時無呼吸症候群を示唆し、心血管イベントのリスクとなる。運動時の胸痛や息切れは狭心症、心不全の可能性があり、運動負荷試験前に心機能評価が必要である。下腿浮腫と呼吸困難は心不全の徴候である。黒色表皮腫(頸部、腋窩の色素沈着と角化)はインスリン抵抗性の強い状態を示す。BMI 35以上の高度肥満では運動療法のリスクが高く、慎重な評価と段階的負荷が必要である。急激な減量(月5kg以上)は胆石症、電解質異常、不整脈のリスクとなる。極端な食事制限による減量はリバウンドしやすく、筋肉量減少により基礎代謝が低下する。
対応の基本
肥満の対応は食事療法、運動療法、行動療法を三本柱とした包括的アプローチが基本である。減量目標は現体重の3~5%を3~6ヶ月で達成する緩やかな減量が推奨される。急激な減量は健康リスクが高くリバウンドしやすい。食事療法では現在の摂取カロリーから500~1000kcal/日減らすことで、週0.5~1kgの減量を目指す。男性1400~1800kcal/日、女性1200~1600kcal/日が目安である。バランスの良い栄養摂取(炭水化物50~60%、蛋白質15~20%、脂質20~30%)を維持し、極端な糖質制限や単品ダイエットは避ける。運動療法では有酸素運動を中心に、1回30~60分、週3~5回、中等度強度(心拍数110~130拍/分、Borg指数11~13)で実施する。ウォーキング、自転車、水中運動が関節への負荷が少なく推奨される。筋力トレーニングにより筋肉量を維持し基礎代謝の低下を防ぐ。行動療法では食事日記、体重測定の記録、スモールステップでの目標設定、セルフモニタリング、刺激統制法(食べ物を目につく場所に置かない)、代替行動(食べたい時に散歩する)を指導する。高度肥満(BMI 35以上)で健康障害が重篤な場合は薬物療法(食欲抑制薬、脂肪吸収阻害薬)や外科療法(胃バイパス術、スリーブ状胃切除術)も選択肢となる。
リハビリの視点
リハビリテーションの視点では肥満患者の運動機能障害と健康障害を評価し、安全で継続可能な運動療法と生活習慣改善を支援する。初期評価では運動器障害(膝痛、腰痛)、心肺機能、運動耐容能、日常生活活動量を詳細に評価し、運動療法のリスクを層別化する。高度肥満、心疾患既往、糖尿病、高血圧を有する場合は運動負荷試験により安全域を確認する。運動療法の開始は低強度から段階的に進め、関節への負荷を考慮して水中運動、自転車エルゴメータから開始することが多い。膝関節痛がある場合は減量と並行して大腿四頭筋強化、膝関節可動域訓練を実施する。歩行訓練では適切な履物の選択、歩容の修正により関節への負荷を軽減する。持久力向上のため有酸素運動を段階的に時間延長し、週150分以上の中等度運動を目標とする。筋力トレーニングでは大筋群(大腿四頭筋、大殿筋、体幹筋)を中心に週2~3回実施し、除脂肪体重の維持を図る。日常生活活動量の増加として歩数計を用い、1日8000~10000歩を目標に設定する。通勤時の一駅歩き、階段利用、家事活動の増加など具体的な行動変容を支援する。行動変容ステージモデルに基づき、患者の準備性を評価し個別化した支援を行う。無関心期には肥満のリスクと減量の利益を教育し、関心期には具体的な目標設定を支援し、実行期には継続のための環境整備と問題解決を行う。維持期にはリバウンド予防と長期的な生活習慣の定着を支援する。集団プログラムでは相互支援とモチベーション維持が期待できる。減量による膝痛改善、歩行能力向上、血糖コントロール改善などの成功体験を共有し、自己効力感を高める。長期的には体重維持と健康増進を目標に、定期的なフォローアップと再評価により継続的支援を提供する。
ひとことで言うと
肥満はエネルギー摂取過多と消費不足により体脂肪が過剰蓄積した状態であり、多くの疾患のリスク因子である。リハビリテーションでは食事療法、運動療法、行動療法を統合し、緩やかで持続可能な減量と生活習慣改善により健康障害の予防と改善を目指す。
関連用語
BMI(体格指数)、内臓脂肪型肥満、皮下脂肪型肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、脂質異常症、変形性膝関節症、睡眠時無呼吸症候群、有酸素運動、行動変容、食事療法、運動療法、基礎代謝、レプチン、インスリン抵抗性
参考文献
- 日本肥満学会 肥満症診療ガイドライン
- 日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン
- 日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン
- 厚生労働省 健康づくりのための身体活動基準
- 日本理学療法士協会 生活習慣病関連ガイドライン
- J-STAGE 肥満と運動療法に関する研究
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