Painful Arc(有痛弧)とは
Painful Arc(有痛弧)とは、肩関節を外転(腕を横から上げる動作)させたとき、中間の約60~120度の範囲で疼痛が出現し、さらに挙上を続けると疼痛が消失する臨床所見のことです。挙上の途中で肩峰下滑液包や腱板(特に棘上筋腱)が烏口肩峰アーチの下で衝突(インピンジメント)する角度域で痛みが生じ、それを乗り越えると痛みがなくなる現象で、肩峰下疼痛症候群や腱板損傷に特徴的とされます。
どこでみるのか
肩峰下インピンジメント症候群、腱板損傷、肩峰下滑液包炎などの評価で最も多く遭遇します。患者訴えとしては「腕を肩の高さまで上げるときだけ痛い」「上げきれば意外と楽」「洗濯物を干す・棚の上の物を取るとき痛い」といった形で現れます。理学療法・作業療法の初回評価やスポーツ現場でのスクリーニングで、肩痛患者の挙上動作を観察する際に必ず確認する所見です。
何をみているのか
着眼点は、①痛みが出現する角度範囲(60~120度に限局するか)、②痛む方向(外転・屈曲の別)、③挙上時か下降時かの違い、④痛みの部位(肩峰下・上腕骨外側)、⑤痛みが消失する角度、⑥力の低下や他の陽性所見の併存です。角度範囲が狭く限局するか広く分布するかで病態の推定が変わるため、「痛みの弧の幅と位置」を正確に記録する視点が評価の出発点です。
臨床でどうみるか
立位または座位で、両上肢を体側からゆっくり自動外転させ、挙上・下降時に疼痛が出現する角度と消失する角度を左右別に確認します。拇指が上向きになる外旋位での挙上で痛みが軽減するかも確認します(外旋位挙上では痛みの弧が改善することがあります)。陽性所見だけで病態を断定せず、Neerテスト・Hawkinsテスト・Empty can testなどの徒手検査や筋力評価と組み合わせて総合的に判断します。
評価で何をみるか
有痛弧の評価では、痛みの出現パターンと病態の関係を捉える視点が重要です。
- 出現角度の特定 - 典型的には外転60~120度で疼痛が出現する
- 消失の確認 - それ以上挙上すると疼痛が消失する所見
- 挙上・下降の両面 - 挙上時または下降時のいずれでも確認する
- 痛みの部位 - 肩峰下や上腕骨外側の痛みが特徴的
- 外旋位での変化 - 拇指上向き挙上で痛みが軽減するか
- 組み合わせ評価 - Neer・Empty canなどのテストと併用する
有痛弧単独で疼痛源や特定組織の損傷を断定することは難しく、感度・特異度にも限界があります。痛みの弧の角度範囲と他の所見を組み合わせた総合評価で病態を絞り込むことが実践の要です。
臨床でよく出る問題
有痛弧を呈する患者では、挙上動作の問題が生じます。
- 挙上動作の回避 - 痛む角度を避けて動作自体を避ける
- 代償動作 - 肩甲帯挙上や体幹側屈で痛む範囲を素早く通過する
- 動作のぎこちなさ - 痛みを恐れた速度調整による不自然な挙上
- スポーツパフォーマンスの低下 - 投動作・オーバーヘッド動作の制限
- ADLの制限 - 更衣・洗髪・物の受け取りの困難
- 二次的な機能低下 - 不使用による肩甲周囲筋の低下
これらは相互に影響し合い、肩機能の低下を進めます。痛む角度域を記録した上で、痛みの少ない動作方法や肩甲上腕リズムの改善を指導し、回避と代償の悪循環を防ぐことが、評価と介入の両方に直結します。
起こりやすい要因
有痛弧をもたらす背景要因は以下の通りです。
- 肩峰下滑液包の炎症・肥厚 - 挙上時の挟み込みで疼痛を誘発する
- 腱板の変性・損傷 - 特に棘上筋腱の病変
- オーバーヘッド動作の反復 - 投球・水泳などでの過用
- 加齢 - 腱板の退行性変化
- 肩甲上腕リズムの乱れ - 肩甲骨運動の遅れによる挟み込みの増大
- 不良姿勢 - 猫背・肩甲帯の前方偏位
有痛弧は「挙上時に肩峰下組織が挟み込まれる」機械的な機序で生じます。挙上時の肩甲骨運動と上腕骨頭の位置を改善する介入が根本対応であり、炎症期の負荷管理と併せて検討することが改善の近道です。
注意したい症状
有痛弧と併存する見逃せないサインがあります。
- 力の低下・落臂所見 - 腱板全層断裂の可能性
- 幅広い角度域の痛み - 腱板の病変が広範囲である示唆
- 夜間痛・安静時痛 - 炎症の活動性や病変の進行
- 全可動域の痛み・制限 - 拘縮や関節内病変の併存
- 挙上できないほどの痛み - 大断裂や石灰沈着の急性期の可能性
有痛弧はあくまで所見の一つであり、断裂の程度や他の病変の併存を画像所見と照合して判断します。所見の変化を経過で記録し、医師への報告や訓練量の調整に結びつけることが安全確保の要です。
対応の基本
有痛弧への対応は、挟み込みの軽減と機能改善が軸です。
- 挙上方法の工夫 - 外旋位(拇指上向き)での挙上を指導する
- 肩甲上腕リズムの改善 - 肩甲骨運動の遅れを修正する
- 肩甲周囲筋・腱板の強化 - 骨頭の制御能力を高める
- 段階的な負荷調整 - 痛みを増悪させない範囲で負荷を進める
- 炎症期の鎮静 - 滑液包炎が強い時期は物理療法や安静で対応する
- 動作・姿勢の指導 - 不良姿勢や過用動作を修正する
有痛弧は「どの角度で挟み込まれるか」が分かるため、練習設計の指標になります。痛む角度を避けつつ周囲の範囲で筋活動を確保し、徐々に痛みの弧を縮小させる進め方が最重要です。
ひとことで言うと
Painful Arc(有痛弧)とは、肩を外転させたとき約60~120度の中間範囲で痛みが生じ、さらに挙上すると痛みが消失する所見で、肩峰下インピンジメント症候群や腱板損傷に特徴的です。単独で診断は確定せず、他の徒手検査と組み合わせて総合評価します。
関連用語
- 肩峰下滑液包
- 腱板
- 棘上筋腱
- インピンジメント症候群
- 烏口肩峰アーチ
- 肩甲上腕リズム
- Empty can test
参考文献・出典
- インピンジメント症候群(順天堂大学医学部附属病院 整形外科・スポーツ診療科)
- スポーツ理学療法で必要となる整形外科徒手検査と徴候(理学療法学・J-STAGE)
- インピンジメント症候群 - 肩(芦屋スポーツクリニック)
- Painful Arc(Physio-pedia)
- インピンジメント症候群(国立病院機構霞ヶ浦医療センター)
- Physiotherapy assessment of patients with rotator cuff pathology(PMC)
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