嚥下とは
嚥下とは、口の中に入った食べ物や飲み物、唾液を、口から咽頭、食道を通して胃へ送り込む一連の働きのことです。ふだんは無意識に行っていますが、実際には口や舌、咽頭、喉頭、食道、呼吸とのタイミング調整など、多くの機能が連携して成り立っています。
摂食・嚥下の過程は、一般に「認知期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期」の5つで整理されます。食べ物を見て認識し、口へ運び、噛んでまとめ、のどへ送り、食道を通して胃へ運ぶまでが連続した流れです。
この流れのどこかに問題が起こると、食べにくい、飲み込みにくい、むせる、口の中に残る、食事に時間がかかるといった状態が出てきます。これが嚥下障害につながるため、嚥下は単なる「飲み込み」ではなく、栄養・安全・生活の質に直結する重要な機能としてみられます。
どこでみるのか
嚥下の問題は、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、歯科、口腔外科、神経内科、老年科、急性期病院、回復期病棟、介護施設、在宅など、非常に幅広い場面でみられます。
- 脳卒中後の食事場面
- 高齢者の食欲低下や肺炎後
- 神経筋疾患や廃用が進んだ場面
- 術後や長期臥床後の経口摂取再開時
- 認知症や全身衰弱を伴う生活期
- 誤嚥性肺炎を繰り返すケース
特に高齢者では、気づかないうちに嚥下反射や咳反射が低下し、不顕性誤嚥を起こしやすくなります。そのため、むせが目立たなくても、食後の湿った声、発熱、痰の増加、食事量低下などから嚥下機能の低下が疑われることがあります。
何をみているのか
嚥下をみるときは、「飲み込めるかどうか」だけではなく、どの段階で、どのような問題が起きているかをみています。
- 口へ運ぶ、認識する力が保たれているか
- 咀嚼して食塊をまとめられるか
- 舌で口の奥へ送り込めるか
- 嚥下反射が適切なタイミングで起こるか
- 気道防御が保たれているか
- 食道へスムーズに流れているか
また、嚥下は食事そのものだけでなく、姿勢、覚醒状態、呼吸、口腔内の清潔、食形態、介助方法とも密接に関係します。そのため、局所の機能だけでなく、全身状態や生活場面まで含めてみることが大切です。
臨床でどうみるか
臨床では、まず食事場面やベッドサイドで、むせ、湿声、口腔残留、食事時間の延長、疲労、食後の咳、痰の増加などを観察します。嚥下の問題は見た目にわかりやすい誤嚥だけでなく、気づかれにくい不顕性誤嚥として出ることもあるため、食事前後の様子を含めて丁寧にみる必要があります。
そのうえで、必要に応じて反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)、フードテストなどのスクリーニングを行い、さらに詳しい評価が必要な場合は嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下造影検査(VF)を検討します。特にVFは、食塊が口から咽頭、食道へどう流れるか、どの段階で問題が出ているかを視覚的に捉えやすく、嚥下障害の評価で重要な位置づけにあります。
リハビリの場面では、単に「食べられるか」だけでなく、「安全に」「必要な栄養を」「その人らしい食事方法で」続けられるかをみます。誤嚥性肺炎の予防、経口摂取の維持、食べる楽しみの回復をどこまで両立できるかが大きなテーマになります。
評価で何をみるか
評価では、嚥下機能そのものと、その結果として起こる生活上の問題の両方をみます。
- むせの有無、回数、タイミング
- 口腔内残留や送り込みの状態
- 咽頭期の遅れや誤嚥の有無
- 食形態による差
- 姿勢や介助方法で変化するか
- 栄養状態、水分摂取量、体重変化
- 肺炎既往や発熱、痰の増加の有無
スクリーニングでは、RSST、MWST、フードテストなどが使われます。より詳しい評価では、VEやVFを用いて、誤嚥、喉頭侵入、残留、食塊移送の問題を確認します。さらに、食事場面の観察やミールラウンドを通して、検査室では見えにくい実生活での困りごとも評価対象になります。
臨床でよく出る問題
嚥下の問題があると、次のような困りごとがよく出てきます。
- 水分でむせやすい
- 食べ物が口の中やのどに残る
- 食事に時間がかかり疲れやすい
- 食事量が減って体重が落ちる
- 内服がしづらい
- 誤嚥性肺炎を起こす、または繰り返す
- 食べることへの不安が強くなる
また、本人は「むせる」ことに気づいていても、実際には食事後の声の変化や痰の増加、微熱の反復、食欲低下のほうが目立つ場合もあります。家族やスタッフから見ると「最近食事が遅い」「なんとなく元気がない」という形で気づかれることも少なくありません。
起こりやすい要因
嚥下機能の低下には、さまざまな要因が関わります。
- 加齢による嚥下反射・咳反射の低下
- 脳卒中などの中枢神経障害
- 神経筋疾患
- 長期臥床や全身衰弱
- 口腔機能低下や義歯不適合
- 姿勢不良や体幹機能低下
- 意識レベル低下や認知機能低下
さらに、食形態が合っていない、急いで食べる、介助のタイミングが合わない、口腔ケアが不十分といった環境要因も、嚥下の問題を目立たせます。嚥下障害は単一の原因で説明しにくく、身体機能と生活環境の両方をみることが大切です。
注意したい症状
次のような所見がある場合は、嚥下障害を疑って注意深くみる必要があります。
- 飲食時のむせや咳
- 食後に声がガラガラする
- 口の中に食べ物が残る
- 唾液が飲み込みにくい
- 食事中や食後に息苦しさが出る
- 発熱や肺炎を繰り返す
- 原因のはっきりしない体重減少や脱水
特に高齢者では、不顕性誤嚥のために明らかなむせが少ないことがあります。そのため、むせがないから安全とは言い切れません。誤嚥性肺炎を繰り返す、夜間に痰が多い、経口摂取後に疲れ切るといった所見も重要です。
対応の基本
対応の基本は、「安全性」と「栄養・水分摂取」と「食べることの継続」をバランスよく考えることです。むやみに禁止するのではなく、その人の嚥下機能に合わせて方法を調整します。
- 姿勢調整や食事環境の見直し
- 食形態やとろみの調整
- 一口量や食べるペースの調整
- 口腔ケアの徹底
- 基礎訓練や嚥下訓練の実施
- 必要に応じたVE・VFによる再評価
- 多職種での情報共有
嚥下リハビリテーションでは、食べ物を使わずに行う基礎訓練と、実際に食べながら行う直接訓練を使い分けます。口腔周囲の運動や感覚刺激、姿勢調整、代償手技などを組み合わせ、その人に合った方法を探っていきます。
また、誤嚥性肺炎の予防は大きな目標のひとつです。嚥下訓練だけでなく、口腔ケア、栄養管理、離床、全身状態の改善をあわせて行うことが、結果として経口摂取の維持や生活機能の改善につながります。
ひとことで言うと
嚥下は、口から胃まで安全に食べ物や飲み物を送るための連続した機能であり、評価と環境調整、リハビリを組み合わせて支えることが大切です。
関連用語
参考文献・出典
- 健康長寿ネット:第3章 食事,摂食・嚥下 3.摂食・嚥下障害の評価
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会:摂食・嚥下障害の評価(簡易版)2015
- NCBI Bookshelf:Dysphagia
- NCBI Bookshelf:Swallowing Study
- NCBI Bookshelf:Clinical and Instrumental Swallowing Assessments for Dysphagia
- PEGドクターズネットワーク:Ⅱ-3.嚥下障害のリハビリテーション
- 健康長寿ネット:嚥下障害のリハビリテーション(基礎訓練)
- 健康長寿ネット:摂食・嚥下障害の診断
- PMC:Rehabilitative management for aspiration pneumonia in elderly patients