温痛覚障害

温痛覚障害とは

温痛覚障害とは、温度の違いを感じる感覚(温覚・冷覚)や、痛みを感じる感覚(痛覚)が低下したり、うまく伝わらなくなったりする状態のことです。熱い・冷たい、鋭い・鈍いといった刺激が分かりにくくなったり、左右差が出たり、部位によって感じ方が抜けたりします。

感覚障害というと「しびれ」を思い浮かべやすいですが、温痛覚障害はその中でも痛みと温度に関わる感覚の異常に焦点を当てた言い方です。触ったこと自体は分かるのに、熱さや痛みだけが分かりにくいこともあれば、逆に少しの刺激を強い痛みとして感じることもあります。

臨床的には、末梢神経、脊髄、脳幹、視床など、感覚の通り道のどこに問題があるのかを考える手がかりになります。とくに脊髄視床路と呼ばれる経路や、小径線維を含む末梢神経の障害と関連して語られることが多い所見です。

どこでみるのか

温痛覚障害は、神経内科、脳神経外科、整形外科、救急、リハビリテーション科などでみられます。患者さんの訴えとしては、「熱いのが分かりにくい」「注射の痛みが鈍い」「左右で感じ方が違う」「やけどしても気づきにくい」といった形で出ることがあります。

背景としては、末梢神経障害小径線維ニューロパチー、脊髄病変、脳幹病変、視床病変などがありえます。脊髄の障害では、Brown-Séquard症候群脊髄空洞症のように、温痛覚の抜け方そのものが病変の場所を考えるヒントになることもあります。

リハビリの場面では、しびれや痛みの訴えだけでなく、転倒、やけど、褥瘡、靴ずれ、手足の外傷に気づきにくいといった生活上の問題として見えることがあります。

何をみているのか

温痛覚障害でみているのは、単に「感覚が鈍いかどうか」ではありません。実際には、どの種類の感覚が障害されているかどんな分布で起きているかほかの感覚や運動機能とどう組み合わさっているかをみています。

痛覚や温度覚は、主に小さな神経線維と脊髄視床路を通って中枢へ伝わります。そのため、この経路のどこかに障害があると、熱さ・冷たさ・痛みの感じ方に異常が出ます。一方で、位置覚や振動覚は別の経路が中心なので、温痛覚だけが目立って障害されることもあります。

つまり温痛覚障害は、「感覚障害がある」というだけでなく、神経学的に病変部位を考えるための重要なヒントになります。

臨床でどうみるか

臨床では、まず患者さんの訴えをそのまま受け取るだけでなく、どの刺激が分かりにくいのかを具体化します。熱い物で分かりにくいのか、冷たい物で分かりにくいのか、針のような鋭い痛みが鈍いのか、触覚まで落ちているのか、といった整理が必要です。

また、左右差や分布も大切です。手袋・靴下のように末梢から左右対称に出るなら末梢神経障害を考えやすく、一側の体幹以下で温痛覚が落ちるなら脊髄病変を疑う場面があります。顔と体で感覚障害の出方がずれるなら脳幹病変を考えることもあります。

リハビリでは、感覚障害を「しびれあり」で終わらせず、危険の察知がしにくくなっていないかまで見ます。たとえば、温罨法の温度が分かりにくい、装具の当たりに気づかない、足底の傷や靴ずれに気づきにくい、といった問題は実務上かなり重要です。

評価で何をみるか

評価では、次のような点を整理すると実際に使いやすくなります。

  • 痛覚:鋭い刺激と鈍い刺激の区別がつくか
  • 温度覚:冷たい・温かいの区別がつくか
  • 分布:左右差、デルマトーム、末梢神経領域、体幹をまたぐかどうか
  • 深部感覚との違い:位置覚や振動覚は保たれているか
  • 触覚との組み合わせ:軽い触刺激まで落ちているか
  • 随伴症状:筋力低下、反射異常、歩行障害、膀胱直腸障害などがあるか
  • 生活上の支障:やけど、外傷、転倒、靴ずれ、疼痛管理のしづらさ

神経学的な診察では、ピンプリックや温冷刺激を使って左右差や領域差をみます。大事なのは、単発の反応だけでなく、どの範囲で、どの感覚が、どの程度ずれているかを地図のように整理することです。

臨床でよく出る問題

温痛覚障害があると、臨床では次のような問題が起こりやすくなります。

  • やけどや低温障害に気づきにくい
  • 靴ずれや外傷の発見が遅れる
  • 痛みの性質をうまく伝えられず評価が難しくなる
  • 歩行中の足底トラブルや転倒リスクが上がる
  • 温熱療法や冷却の安全管理が難しくなる
  • しびれや灼熱感などの異常感覚が生活の妨げになる

とくに末梢神経障害では、感覚が鈍いだけでなく、逆にピリピリ・ヒリヒリした痛みが前景に出ることもあります。そのため「感じにくい」と「痛すぎる」が同時に存在することもあり、見た目だけでは分かりにくい点に注意が必要です。

起こりやすい要因

温痛覚障害は、感覚を運ぶ小径線維や脊髄視床路のどこかが障害されることで起こります。代表的な背景としては、次のようなものがあります。

  • 糖尿病などによる末梢神経障害
  • 小径線維ニューロパチー
  • 脊髄障害や脊髄損傷
  • 脊髄空洞症
  • 脳幹・視床の病変
  • 炎症性、自己免疫性、代謝性の神経障害
  • 薬剤、アルコール、毒性物質による神経障害

たとえば小径線維ニューロパチーでは、痛み・温度・自律神経に関わる線維が障害されやすく、灼熱感、しびれ、温度の感じにくさ、自律神経症状が前景に出ることがあります。一方、脊髄病変では、病変の高さや広がりによって温痛覚の抜け方に特徴が出やすくなります。

注意したい症状

次のような症状がある場合は、背景に重い神経疾患や進行性の病変が隠れていることもあるため注意が必要です。

  • 急に片側の温痛覚が落ちた
  • 感覚障害と一緒に筋力低下や歩行障害がある
  • 膀胱直腸障害を伴う
  • 体幹をまたいで明らかな感覚レベルがある
  • 顔と体で感覚障害の出方が違う
  • やけどや外傷を繰り返している
  • しびれが急速に広がる、または激しい神経障害性疼痛がある

とくに、温痛覚障害に加えて麻痺、排尿障害、急な歩行悪化がある場合は、脊髄や中枢神経の病変も考える必要があります。慢性の末梢神経障害に見えても、急な変化があるときは別の病態が重なっていないか確認したいところです。

対応の基本

対応の基本は、原因となる病態を見極めることと、感覚低下による二次的な事故を防ぐことです。温痛覚障害そのものを一律に扱うのではなく、末梢神経由来なのか、中枢神経由来なのか、進行性なのか、急性発症なのかを整理して対応します。

  • 分布と随伴症状から病変部位を考える
  • 必要に応じて神経学的診察、画像検査、神経伝導検査などにつなげる
  • 足部や手部の皮膚トラブルを定期的に確認する
  • 温熱・冷却刺激の安全管理を徹底する
  • 装具や靴の当たり、褥瘡リスクを点検する
  • 神経障害性疼痛がある場合は疼痛管理も併せて考える

リハビリでは、感覚を「改善させる」ことだけに目を向けるより、危険回避の教育と環境調整が実際的です。本人が気づきにくい損傷をどう防ぐか、生活の中でどうセルフチェックするかを支えることが大切です。

ひとことで言うと

温痛覚障害は、熱さ・冷たさ・痛みを感じる感覚が低下したり乱れたりする状態です。末梢神経から脊髄、脳までさまざまな部位の障害で起こり、分布や随伴症状をみることで病変部位の推定に役立ちます。

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参考文献・出典

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