百日咳とは
百日咳(Pertussis / Whooping Cough)とは、百日咳菌(Bordetella pertussis)による急性呼吸器感染症であり、特徴的な発作性痙攣性咳嗽(スタッカート様の連続した咳込み)と吸気時の笛声(Whoop:ウープ)を呈する疾患である。病名の由来は激しい咳が約100日間(実際には2~3ヶ月)持続することによる。乳幼児では重症化しやすく、無呼吸発作、肺炎、脳症などの合併症により生命に危険が及ぶ。予防接種(DPT-IPVワクチン)の普及により発生は減少したが、近年ワクチン効果の減弱した青年・成人での感染と、そこから乳児への伝播が問題となっている。感染力が極めて強く(二次感染率80~90%)、飛沫感染により伝播する。リハビリテーション領域では百日咳後の遷延する咳嗽、呼吸機能低下、体力低下への対応、また重症例での神経学的後遺症(低酸素脳症)への介入が関与する。学校保健安全法により第二種感染症に指定され、特有の咳が消失するまで、または5日間の適正な抗菌薬治療終了まで出席停止となる。
どこでみるのか
百日咳は気道、特に気管支粘膜に百日咳菌が付着・増殖することで発症する。百日咳菌は線毛を介して気道上皮細胞に強固に接着し、百日咳毒素(pertussis toxin)、気管細胞毒素、線毛凝集素などの病原因子を産生する。これらの毒素により気道上皮が障害され、粘液分泌亢進、繊毛運動障害、気道過敏性亢進が生じる。発作性咳嗽は気道粘膜の刺激と中枢神経系の咳中枢の感作により引き起こされる。病期はカタル期(1~2週間)、痙咳期(2~8週間)、回復期(2~3週間)に分けられる。カタル期は感染力が最も強く、軽度の咳、鼻汁、微熱などの感冒様症状を呈する。痙咳期では特徴的な発作性痙攣性咳嗽が出現し、連続した短い咳込みの後に吸気時の笛声を伴う。咳込みにより顔面紅潮、眼球結膜出血、嘔吐が生じる。乳児では無呼吸発作、チアノーゼが生じやすい。回復期では咳嗽の頻度と強度が徐々に減少する。
何をみているのか
百日咳の評価では特徴的な咳嗽の性状、病期の判断、重症度、合併症の有無、栄養状態、呼吸機能を評価する。発作性痙攣性咳嗽の特徴として、夜間に増悪する連続した短い咳込み(スタッカート様)、吸気時の笛声(Whoop)、咳込み後の嘔吐が三徴である。ただし乳児や成人では典型的な笛声を欠くことが多い。咳嗽発作の頻度と持続時間、日中と夜間の差、誘発因子(食事、啼泣、興奮)を評価する。呼吸状態として呼吸数、呼吸パターン、無呼吸の有無、チアノーゼの有無、酸素飽和度(SpO2)を評価する。乳児では無呼吸発作が致命的となるため厳重な監視が必要である。全身状態として体温、脈拍、血圧、意識レベル、哺乳力・食欲、体重変化を評価する。合併症として肺炎(二次感染)、気胸、皮下気腫、眼球結膜出血、肋骨骨折(激しい咳による)、臍ヘルニア、脳症(低酸素または毒素による)、痙攣を評価する。診断は臨床症状と検査所見により行う。血液検査では白血球増多(特にリンパ球増多)が特徴的である。確定診断は鼻咽頭ぬぐい液の培養またはPCR検査による百日咳菌の検出である。
臨床でどうみるか
臨床場面での百日咳の評価は以下の手順で実施する。まず詳細な病歴聴取により発症経過、咳嗽の性状、予防接種歴、接触歴を確認する。典型的な経過はカタル期(感冒様症状)→痙咳期(特徴的な咳嗽)→回復期である。視診では咳嗽発作の観察が重要である。連続した短い咳込み、吸気時の笛声、顔面紅潮、眼球結膜出血、咳込み後の嘔吐を確認する。乳児では咳嗽発作後の無呼吸、チアノーゼに注意する。聴診では気道狭窄音、喘鳴、肺炎の合併を示す副雑音(coarse crackles)の有無を確認する。バイタルサイン測定では体温(通常微熱または平熱)、脈拍(咳嗽発作時に頻脈)、呼吸数、SpO2を測定する。乳児では持続的なモニタリングが推奨される。栄養評価として哺乳力・食欲、体重変化、脱水の有無を確認する。咳嗽による嘔吐で栄養摂取不良となる。神経学的評価として意識レベル、痙攣の有無、低酸素脳症の徴候を確認する。検査として血液検査(白血球数、CRP)、胸部X線(肺炎の合併)、鼻咽頭ぬぐい液の培養・PCR検査を実施する。鑑別診断としてRSウイルス感染症、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、異物誤嚥、気管支喘息を除外する。
評価で何をみるか
百日咳の評価項目として以下を挙げる。
- 発作性痙攣性咳嗽の有無と頻度
- 吸気時の笛声(Whoop)の有無
- 咳込み後の嘔吐の有無
- 咳嗽発作の持続時間と間隔
- 夜間増悪の程度
- 無呼吸発作の有無(乳児)
- チアノーゼの有無
- 酸素飽和度(SpO2)
- 呼吸数と呼吸パターン
- 体温(微熱または平熱が多い)
- 顔面紅潮と眼球結膜出血
- 哺乳力・食欲と体重変化
- 脱水の程度
- 意識レベルと神経学的所見
- 白血球数(リンパ球増多)
- 胸部X線所見(肺炎の合併)
- 百日咳菌の検出(培養、PCR)
- 予防接種歴
- 接触者の有無
臨床でよく出る問題
百日咳に関連して臨床でよく遭遇する問題は以下の通りである。
- 乳児での無呼吸発作と突然死のリスク
- 重症肺炎の合併と呼吸不全
- 激しい咳嗽による嘔吐と栄養摂取不良
- 脱水と電解質異常
- 低酸素脳症による神経学的後遺症
- 痙攣の出現
- 咳嗽による肋骨骨折や気胸
- 眼球結膜出血や皮下出血
- 臍ヘルニアや鼠径ヘルニアの増悪
- 睡眠障害(夜間の頻回な咳嗽)
- 二次感染(細菌性肺炎)
- 家族内感染の拡大
- 診断の遅れ(成人の非典型例)
- 長期化する咳嗽による生活の質低下
- 学校・保育園の出席停止期間
起こりやすい要因
百日咳を引き起こす要因は百日咳菌への曝露と宿主の免疫状態である。感染源として百日咳患者からの飛沫感染が主である。感染力が極めて強く(基本再生産数12~17)、カタル期に最も感染性が高い。この時期は診断が困難であり、知らずに感染を拡大させる。易感染宿主として生後6ヶ月未満の乳児はワクチン接種が不十分で母体からの移行抗体も乏しく、重症化しやすい。ワクチン未接種児は感染リスクが極めて高い。近年の問題として青年・成人での感染増加がある。ワクチン効果は接種後4~12年で減弱し、思春期以降に免疫が低下する。成人では非典型的な症状(遷延する咳のみ)を呈することが多く、診断されず感染源となる。集団生活環境として保育園、学校、医療機関での集団発生がある。季節性として夏から秋にかけて流行しやすい。免疫不全状態(先天性免疫不全症、HIV感染症、化学療法中)では重症化リスクが高い。栄養不良、低出生体重児もハイリスクである。
注意したい症状
百日咳において特に注意すべき症状は以下の通りである。乳児の無呼吸発作は突然死のリスクがあり、入院監視が必要である。特に生後3ヶ月未満は高リスクである。チアノーゼの出現は重度の低酸素血症を示し、酸素投与または人工呼吸管理が必要となる。意識障害や痙攣は低酸素脳症または百日咳脳症を示唆し、緊急対応が必要である。激しい咳嗽による嘔吐が頻回で経口摂取不能な場合は脱水と栄養不良のリスクとなる。肺炎の合併は発熱、呼吸困難の増悪、SpO2低下、胸部X線での浸潤影で疑う。気胸や縦隔気腫は突然の胸痛、呼吸困難の急激な悪化で疑う。眼球結膜出血は頻度が高いが通常自然吸収される。肋骨骨折は激しい咳嗽により生じ、胸痛を伴う。百日咳脳症は稀だが重篤であり、痙攣、意識障害、神経学的後遺症を残す可能性がある。成人での長期化する咳嗽(8週間以上)は百日咳の可能性を考慮し、PCR検査を検討する。
対応の基本
百日咳の対応は早期診断、適切な抗菌薬治療、支持療法、感染拡大防止が基本である。抗菌薬治療としてマクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン)がカタル期から痙咳期早期に投与される。菌の排除と感染拡大防止に有効だが、咳嗽症状の短縮効果は限定的である。治療期間は5~14日間である。支持療法として十分な水分補給、栄養管理、安静が重要である。咳嗽を誘発する因子(冷気、興奮、啼泣)を避ける。加湿により気道刺激を軽減する。鎮咳薬や気管支拡張薬の効果は限定的である。重症例では入院管理とし、酸素投与、持続モニタリング、輸液、経管栄養を実施する。無呼吸発作や呼吸不全では人工呼吸管理を検討する。感染拡大防止として患者の隔離(飛沫予防策)、接触者への予防投与(マクロライド系抗菌薬)、ワクチン接種の推進を行う。学校保健安全法により、特有の咳が消失するまで、または5日間の適正な抗菌薬治療終了まで出席停止となる。予防としてDPT-IPVワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ混合ワクチン)の定期接種(生後3ヶ月から)が重要である。成人への追加接種(Tdapワクチン)も推奨される。
リハビリの視点
リハビリテーションの視点では百日咳急性期の呼吸管理と回復期の体力回復、また重症例での神経学的後遺症への対応が関与する。急性期では呼吸理学療法により気道クリアランスを促進する。体位排痰法、軽度の胸郭モビライゼーション、咳嗽介助を慎重に実施する。ただし激しい咳嗽を誘発しないよう注意する。排痰は感染拡大防止のため個室で実施し、セラピストは適切な個人防護具(サージカルマスク、手袋、ガウン)を使用する。栄養管理支援として嚥下評価と摂食指導を行う。咳嗽後の嘔吐により栄養摂取不良となるため、少量頻回食、咳嗽誘発の少ない食形態を選択する。回復期では体力回復のための段階的な運動療法を実施する。長期の安静により筋力低下と全身持久力低下が生じるため、有酸素運動(ウォーキング、自転車エルゴメータ)と筋力訓練を段階的に進める。呼吸機能訓練では呼吸筋力強化、胸郭可動性改善により低下した呼吸機能の回復を図る。重症例で低酸素脳症が生じた場合は神経学的後遺症(運動麻痺、認知機能障害、てんかん)に対する包括的リハビリテーションを実施する。小児では発達支援として運動発達、認知発達、言語発達の促進を長期的に支援する。家族指導では感染予防策(手洗い、マスク着用、換気)、咳嗽発作時の対応、栄養管理、ワクチン接種の重要性を説明する。社会復帰支援として学校・保育園への復帰時期の判断、体育活動の段階的再開を支援する。予防教育として地域住民へのワクチン接種啓発、流行時の早期受診勧奨に協力する。
ひとことで言うと
百日咳は百日咳菌による急性呼吸器感染症であり、特徴的な発作性痙攣性咳嗽と吸気時の笛声を呈し、乳児では重症化しやすい。早期の抗菌薬治療、支持療法、感染拡大防止が重要であり、リハビリテーションでは呼吸管理と回復期の体力回復を支援する。
関連用語
Bordetella pertussis、発作性痙攣性咳嗽、笛声(Whoop)、無呼吸発作、DPT-IPVワクチン、マクロライド系抗菌薬、飛沫感染、カタル期、痙咳期、回復期、百日咳脳症、学校保健安全法第二種感染症
参考文献
- 国立感染症研究所 百日咳とは
- 日本小児科学会 予防接種・感染症関連情報
- 厚生労働省 百日咳に関するQ&A
- 日本呼吸器学会 呼吸器感染症ガイドライン
- 日本感染症学会 感染症診療ガイドライン
- CDC Pertussis (Whooping Cough) Guidelines
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