棘下筋(ローテーターカフ:回旋筋腱板)
infraspinatus muscle
(インフラスパィネィタス・マッスル)

棘下筋の概要

回旋筋腱板(ローテーターカフ)の中で唯一表層にある。肩関節外旋の主力筋であり肩関節の安定化作用を持つ、オーバーユースによる肩甲上神経の障害で筋委縮を起こす場合もある。

棘下筋は腱板を形成する4つの筋群の一つです。

棘下筋の上方の線維は停止部で棘上筋とお互いにリンクしながら走行し肩関節上方部を補強し合っています。また望月らの研究では本来の棘上筋の停止部と考えられていた大結節上面にはかなりの割合で棘下筋腱が呈していることが報告されています。

Minagawaらは、棘上筋の停止についてsuperior facetからmiddle facet の上部に停止するとしています。

一方、Mochizukiらによると棘上筋はsuperior facetの前内側部に限局しているとしています。

棘下筋は棘上筋腱後方部分を覆い middle facet全体に付着していると考えられてきました。しかし、Mochizukiらは棘下筋がsuperior facet前内側部にも広く付着しているとしています。

つまり棘上筋・棘下筋の停止部には、いくつかのバリエーションが存在することが考えられます。

大結節前上方部分をsuperioracet

後方から後上方部分をiddle facet

大結節後下方部分をinferiorfacetと呼びます

ローテーターカフ(回旋筋腱板)とは

ローテーターカフは、肩甲骨に起始し上腕骨に停止する肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋の総称である。肩関節の内旋・外旋をもつことが語源(rotator:回転するもの)。

薄い腱が上腕骨頭を覆うように停止していることから回旋筋腱板とも呼ばれ棘下筋を除く3つの筋は深層に隠れている。これらの筋には上腕の回旋だけでなく肩関節をひきつけて安定させるという重要な役割もある。

肩関節は他の関節と異なり強い靱帯を持たない。従って可動域が大きい代わりに安定性が低いという問題がある。ローテーターカフは上腕骨頭が肩甲骨から外れないように引き付け他の関節における靱帯のように振舞う

肩関節は筋によって保護された関節といえる。

3筋(小円筋・棘下筋・棘上筋)の停止部にあたる上腕骨頭の大結節は三角筋に覆われている。筋腹や起始部も僧帽筋に覆われているが棘下筋の筋腹のみ表層にある。

ローテーターカフの4つの筋のうち肩甲下筋のみ肩甲骨の前面から起始し上腕骨を引き付けている。

 

 

棘下筋の特徴

 

棘下筋は肩関節の運動軸を上下に跨ぐために機能上は上方線維群と下方線維群に分類して考えた方がよいです。

よく筋の名称で覚えてしまいますが筋はあくまで線維なので収縮すれば線維の方向ごとに働きが変わるためです。

これはポジションで筋の作用が変化することと同様ですね。

肩関節下垂位では全体として肩関節の外旋運動に作用あしますが上方線維群の方がより前額面上で真横に伸びているので寄与率が高いです。

肩関節90°外転位での外旋運動は逆に下に引っ張るほうが外旋方向になるので下方線維群の筋活動が高まります。

肩関節が90屈曲位であれば棘下筋よりも小円筋の筋活動が高くなります。

方向的に若干ですが棘下筋の下方線維群が作用しますがポジション的に関節運動に与える寄与率が低いと言えます。

むしろ上方線維がメインとなり水平外転方向へ収縮する作用へと変化します。

 

棘下筋は1つの筋内腱を有する羽状筋であり、筋内腱は筋外腱のほぼ全幅へ移行するします。羽状角は他の回旋腱板筋に比べて大きいと言われています。(竹村 1998)

筋線維は走行から上部、下部とその深層に位置する中部、の3部位に分けられ、筋体積、生理学的筋断面積は中部、下部、上部の順に大きいです。

筋線維タイプは TypeⅠ線維が 45.3%を占めるが他の回旋腱板筋の値と大きな差は見られません(Jhonson,1973)。

棘下筋は棘上筋とともに外旋筋力の 50-75%に貢献する筋肉です。また、棘下筋は棘上筋とともに外転筋力の 25~50%に貢献しています。

外転モーメントアームは上部・中部・下部の順に大きいですが、最大の貢献度を持つ上部線維は内旋に伴い外転作用が低下することが報告されています(Kuhlman,1992;Otis,1994)

投球やその他の複雑な運動では層別に分けることでどの筋群がそのタイミングで働いているかが分かると思います。

スポーツ障害でない場合はそこまで細かく見なくていいと思います。ポジション別で自動と他動を行うことでどの筋に障害が起きているのか、筋力低下か筋短縮か圧痛があるかを見ていくことが大切だと思います。

棘下筋のフォースカップル

棘上筋と三角筋のフォースカップルで説明した通り、上腕骨頭を関節窩に引き寄せる働きですが特に下方への牽引力が強いです。

新鮮遺体に棘上筋のみの切断と棘上筋+棘下筋の切断をした場合の2通りを確認したところ

上腕骨頭の上方偏位がより大きくなったのは棘上筋+棘下筋のセットであり、これまで棘上筋と三角筋のフォースカップルが説明されてきましたが、棘下筋も骨頭安定化に大きな役割があると分かってきました。

 

筋肉データ

項目                 内容                
神経 神経支配:肩甲上神経(C5-C6)
起始 肩甲骨の棘下窩
停止 上腕骨の大結節中部、肩関節包
作用 肩関節の外旋・水平外転・安定化
筋体積 225㎤
筋線維長 6.8cm
速筋:遅筋(%) 54.7:45.3
PCSA 33.3㎠
栄養血管 肩甲上動脈、肩甲回旋動脈

臨床での観点

腱板断裂において棘上筋から棘下筋に至る断裂は大断裂とされ手術適応となることが多いと言われています。これは意外にも多く棘上筋の単独断裂は少なく棘下筋の一部が棘上筋の付着部に覆っているように付着するためです。

バレーボールのアタッカーでは棘下筋の単独萎縮が散見されます。理由として肩甲上神経の絞扼や過度な内旋強制による部分断裂説があります。

拘縮肩における水平内転制限は棘下筋や小円筋の短縮によるものが多いです。

肩関節周囲炎における結滞動作の制限は棘上筋とリンク(接続)している線維と肩峰下滑液包の癒着を改善することで解決することが多いです。

この筋肉の接続は支点形成力を高めるための構造と言われており教科書的には、はっきり分かれているように見えますが実際は接続したり覆うように付着する筋は多いです。

関連する疾患

・腱板損傷

・棘下筋単独萎縮

・肩関節不安定症

・肩甲上神経麻痺

・肩関節周囲炎

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