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胸郭出口症候群とは?腕や肩のしびれや痛みはこれが原因かも

胸郭出口症候群(Thoracic Outlet Syndrome: TOS)とは?

腕神経叢が頸部から上肢に至る間に、狭い間隙で絞扼を受ける絞扼神経障害です。

絞扼部で受ける力学的ストレスにより圧迫型と牽引型に大別できます。

つり革につかまる時や、物干しの時のように腕を挙げる動作で上肢のしびれや肩や腕、肩甲骨周囲の痛みが生じます。また、前腕尺側と手の小指側に沿ってうずくような感じや、刺すような痛み、しびれ感、ビリビリ感などの感覚障害に加え、手の握力低下と細かい動作がしにくいなどの運動麻痺の症状があります。

手指の運動障害や握力低下のある例では、手内在筋の萎縮により小指球筋がやせて平らになります。これはどの末梢神経障害でも同様に起こります。

 

鎖骨下動脈が圧迫されると、上肢の血行が悪くなって腕は白っぽくなり、痛みが生じます。鎖骨下静脈が圧迫されると、手・腕は静脈血のもどりが悪くなり青紫色になります。

 

原因と病態

上肢や、肩甲帯の運動や感覚を支配する腕神経叢(C5~Th1までの神経根が椎間孔から出た後で分岐と吻合を繰り返して形成)と鎖骨下動脈は、以下の3つ部位(トンネル)を走行しますが、それぞれの部位で絞めつけられたり、圧迫されたりする可能性があります。

腕神経叢は上肢の運動と知覚を支配しているのでここが絞扼されると痛みや動作障害がおきることになります。

前斜角筋中斜角筋の間(斜角筋症候群)

②鎖骨と第1肋骨の間の肋鎖間隙(肋鎖症候群)

小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部の後方(小胸筋症候群=過外転症候群)

 

これらを総称して胸郭出口症候群と言います。

胸郭出口症候群は神経障害と血流障害に基づく上肢痛、上肢のしびれ、頚肩腕痛(けいけんわんつう)を生じる疾患の一つです。

また、なで肩・いかり肩からも影響を受けます⇒いかり肩や、なで肩に関しては⇒こちらの記事を

いかり肩では、鎖骨は挙上し肩甲骨は上方回旋・内転位となります。

さらに,胸椎も伸展位になり、上位肋骨は挙上位となっています。

この姿勢は重力によって上肢や肩甲帯が下方に引き下げられる力に頸部の筋群が過剰に拮抗しているために生じていると考えられます。

そのため、頸部の筋が発達し斜角筋隙は狭小化していることから、腕神経叢が絞扼されやすい状態となると考えられます。

このような症例では,上肢を挙上位に保持させると,症状が再現できることが多いです。

 

 

なで肩では、頸部の筋も発達しておらず、いかり肩と比較すると腕神経叢が絞扼されにくいように感じます。

しかし、臨床において 胸郭出口症候群(TOS) と診断される症例は成年期の女性で、なで肩であることが多いです。

なで肩では、鎖骨は下制し、肩甲骨は外転・下方回旋位、胸椎は屈曲位となり、上位肋骨も下制されます。

いかり肩が重力によって上肢や肩甲帯が引き下げられる力に過剰に拮抗していると考えるならば、なで肩は逆に重力に負け、上肢や肩甲帯が下方に牽引されていると捉えることができます。

そのため.腕神経叢にも牽引力が加わり絞扼されると考えられます。

このような症状の方には上肢をセラピストが保持したり、肩甲帯を内転・上方回旋させて保持すると症状が軽減します。

 

いかり肩では斜角筋が狭くなり、なで肩では肋鎖間隙が狭小化するので姿勢による情報も評価の一つに加えてみましょう。

1つ目のトンネル:斜角筋隙

腕神経叢が頸部から上股に至るまでの道のりの最初のトンネルが斜角筋隙です。

このトンネルは、前壁が前斜角筋、後壁が中斜角筋、底面が第1肋骨で構成されています。

腕神経叢は、この両筋の間を外下方に向かって斜走します。

前・中斜角筋は、頸椎の横突起から第1肋骨に付着し、頸部の屈曲や回旋に作用し、頸部が固定された状態では第1肋骨の挙上に作用します。

デスクワークなどで頸部の疲労が蓄積して前斜角筋と中斜角筋の緊張が亢進すると、前壁と後壁の間は狭くなります。

両筋が第1肋骨を引き上げ、底面も上昇するので、このトンネルを通過する腕神経叢が圧迫されることになるわけですね。

このトンネルで腕神経叢が絞扼された状態を斜角筋症候群と呼びます。

鎖骨下動脈は腕神経叢とともに、このトンネルを通過しますが、鎖骨下静は、このトンネルではなく前斜角筋の前方を通過します。

そのため, 鎖骨下動脈は圧迫されますが、鎖骨下静脈は圧迫されません。

斜角筋隙の図

前壁を前斜角筋、後壁を中斜角筋、底面を第1肋骨で囲まれている。腕神経叢はこのトンネル(斜角筋隙)を外下方に向かい斜走します。

斜角筋症候群の機序

2つ目のトンネル:肋鎖間隙

斜角筋際を通過した腕神経叢と鎖骨下動脈を次に待ち構えるトンネルが肋鎖間隙です。

このトンネルは上面が鎖骨(鎖骨下筋)、底面が第1肋骨で構成された"骨性トンネル"です。

また、斜角筋隙を通過しなかった鎖骨下静脈も、肋鎖間隙は通過します。

なで肩姿勢のように鎖骨が下制した状態では、トンネルの上面が低くなり腕神経叢と鎖骨下動・静脈は圧迫されます。

さらに上肢を挙上し、鎖骨が後方に回旋した場合はトンネルの前壁を構成する肋鎖靭帯も後方に移動するため、トンネルは狭くなり、腕神経叢と鎖骨下動・静脈は圧迫されます。

肋鎖間隙の図

肋鎖間隙の上面は鎖骨で構成され底面は第1肋骨で構成されます。

肋鎖症候群の機序

このトンネル(肋鎖間隙)で腕神経叢と鎖骨下動脈・静脈が絞扼された状態を肋鎖症候群と呼びます。

つまりは鎖骨が下制することで肋鎖症候群は発症します。

他にも上肢の挙上などでも肋鎖間隙が狭くなっても出現しますね。

第3のトンネル:小胸筋間隙

腕神経叢と鎖骨下動・静脈が上肢に至るまでにある最後のトンネルが小胸筋間隙です。

このトンネルは烏口突起から起始する小胸筋が上面を構成し強靭な烏口鎖骨靱帯が底面を構成する"線維性トンネル"です。

肩関節を外転させると、下方に走行していた腕神経叢と鎖骨下動・静脈は、このトンネルを支点に向きを変え、上行することになります。

そのため,小胸筋下間隙で腕神経叢と鎖骨下動・静脈の支点部分に負荷がかかります。

このように、肩関節を外転することで腕神経叢の絞扼が生じる症候群を過外転症候群と呼びます。

上肢挙上位で症状が出現することが多く、つり革を握るなど上肢を挙上位で使用して発症した場合はこの過外転症候群を考えます。

小胸筋間隙の図

 

小胸筋症候群(過外転症候群)の発生機序

上肢を下垂した肢位から挙上位に保持すると小胸筋下間隙を支点にして腕神経叢や鎖骨下動・静脈は走行を変えて牽引力が発生するため放散痛を引き起こします。

過外転筋症候群の機序

腕神経叢の分岐と肩甲帯周囲の放散痛の特徴

肩甲帯周囲に分布する末梢神経は斜角筋隙と肋鎖間隙の間から分枝するため肩甲帯周囲の放散痛が出た場合は斜角筋症候群と考えます。

腕神経叢から放散痛が始まる場合は肋鎖症候群と考えます。

頸肋による胸郭出口症候群の可能性もある

ヒトでは、肋骨は胸椎にしか存在しません。

しかし、頸椎横突起の前方部分の隆起は助骨に相当する部分が椎骨と癒合したもので、頸肋骨といいます。

これは、C7に癒合するはずの肋骨が分離して生じたものです。

頚肋骨は胎生期の下位頚椎から出ている肋骨の遺残(いざん)したもので、胸郭出口症候群の原因の一つとして挙げられます。

この邪魔な骨のせいで神経が圧迫されて胸郭出口症候群が現れます。

 

頸肋骨の形態は,第1肋骨や胸肋関節と関節を形成するものから、痕跡程度のものまで個体差があります。

痕跡程であっても、第1助骨との間は腱様の構造で占められている場合が多く、絞扼因子となる可能性があります。

頸肋骨の存在が胸郭出口症候群のげんいんとなるのは10~20%と考えられています。

そのためX線で頸肋骨が存在したからと言って圧迫原因を頸肋骨に求めるのは短絡的であり、必ず鎖骨上窩にて骨を蝕知し圧痛の有無を確認し圧痛があれば陽性と考えます。

遺残とは

手術時に体内に残した道具類や、分化の過程で消失するはずだった体組織などを指します。

今回の場合は後者です。

頸肋骨の図

胸郭出口症候群による腕神経叢の絞扼部位

パッと見で分かる胸郭出口症候群の場所

 

 

胸郭出口症候群の対策とは何をすればいいの?

姿勢の注意や運動療法のほかに日ごろから体に負担をかけない工夫が大切です。

適度な運動や休息、十分な睡眠をとって、なるべく疲労をためないようにしましょう。

たとえば、仕事中などに肩こりや腕のだるさを感じたら、休憩をとるようにします。特に、手や腕のしびれが出ている場合は、無理をしてはいけません。

デスクワーカーの場合はストレートネックにより首から肩の筋肉が過緊張になっている可能性があります。

入浴時に体を温めれば、血行が促進することで筋肉の疲労回復や、血管の圧迫による血流低下を改善できます。

重い荷物は、腕が引っ張られて症状を悪化させるので、できるだけ手で持たないようにします。

キャリーバッグを使ったり、左右の手で交互に持ったりするなど、肩に負担をかけない工夫をするようにしてください。

物理療法では温熱療法を選択します。斜角筋などは比較的浅層にあるためホットパックでも十分に効果が期待できますし、固定が難しい場合は深達性の高いマイクロ波も効果的です。

しかし、一番は入浴だと思います。水治療法特有のリラクゼーション効果と全身の筋のタイトネスの解消は筋膜を通して頸部や小胸筋の緊張を低減させてくれます。

胸郭出口症候群にテストは?

①アドソンテスト

斜角筋症候群の判定を行うのに適しています。

1)姿勢良く座った状態で手首の脈拍を確認する。
2)あごを挙げ、頭をしびれ等の症状のある側にできるだけ強く向ける。
3)痛みのない範囲で上を向き、大きく息を吸い込んでから止める。
の手順で行います。

 

②エデンテスト

陽性の場合肋鎖症候群が疑われます。

1)被検査者が胸をはる。

2)被検査者の両腕を後下方に引っ張る。

この際、橈骨動脈の脈拍が減弱ないし消失した場合には、陽性となります。

 

③ライトテスト

小胸筋症候群(過外転症候群)を疑います

1)肩90°外転、90°外旋、肘屈曲位の姿勢をとります。

2)橈骨動脈を蝕知して弱化、消失すれば陽性

 

④ルーステスト

胸郭出口症候群の重症度をみます

1分程度で出現すれば手術も検討します

1)ライトテストの姿勢で指をグーパーします。

2)3分続けてしびれなどが増悪すれば陽性

 

⑤アレンテスト

斜角筋症候群の特に鎖骨下動脈の圧迫を調べるテスト

1)手の痺れが出る側の肩関節を90度外転・外旋90度・肘も90度屈曲します。

2)頸部を腕を挙げた方と反対に回旋し、橈骨動脈の拍動が減弱もしくは消失すれば陽性

 

⑥ハルステッドテスト

斜角筋症候群を疑います

1)頸部を検査側と反対側に側屈

2)検査側に回旋させる。

3)脈拍が減弱もしくは消失すれば陽性

検査側に回旋させて後屈でも同じ形になります。

 

 

胸郭出口症候群の治療とは?

①いかり肩の場合

いかり肩では頚部の筋緊張が増強し斜角筋劇が狭小化することが問題であるため、斜角筋の筋緊張を低減させる必要があります。

また上肢の重量に過剰に対抗した結果と考えれば僧帽筋のリラクゼーションも重要と考えます。

②なで肩の場合

なで肩には、鎖骨が下制し肋鎖間隙が狭小化することが問題となる。

なでがたの姿勢では鎖骨の下制に伴い肩甲骨は外転・下方回旋位を呈する。

そのため肩甲骨を内転・上方回旋位に保持する僧帽筋の筋力強化が重要です。

また肩甲骨を内転位に保持できず外転してしまうと上肢の重量により結構骨には下方回旋方向の力が加わるため、なで肩となります。

そのため脊椎を伸展する脊柱起立筋や広背筋、肩甲骨を内転する菱形筋群の筋力強化も重要となります。

なで肩が定着すると肩甲骨が下方回旋位となり小胸筋が短縮位となり過外転症候群の発症の誘因となります。

そのため、筋力トレーニングと並行して小胸筋のストレッチも重要です。

根本的にはアライメントの修正とそれを保持できるような筋力トレーニングと生活習慣の改善が治療となります。

他には血流改善薬や、しびれなどの神経障害を緩和するビタミンB群などが使われます。

また、神経が圧迫されている部位への神経ブロック注射や、超音波療法も適応です。

不良姿勢の修正のための体操を紹介します

 

1)側臥位で股関節と膝関節を屈曲位にします。

2)体幹だけを背臥位として左右10回を1日3セット実施します。

 

1)四つ這いから背中を丸めておへそを覗き込むように動きます。肩甲骨が開くように動いていきます。

2)背中を反らす運動です。肩甲骨が閉じるように動きます。1日10回3セット実施します。

 

 

1)四つ這いで手を90°で接地します。

2)片足を引いて手で床を押し込むようにしてお尻を後ろに下げて3秒間キープします。1日左右10回3セット実施します。

 

小胸筋のセルフストレッチとなります。20秒程度キープして1日3セット実施します。

 

シュラッグという僧帽筋の筋トレです。

1日10回の引き上げ動作を3セット実施します。負荷量は手にダンベルや水の入ったペットボトルを持って調整します。

まとめ

ここまで長い長文を読んで下さりありがとうございます(;^ω^)

胸郭出口症候群にはこのように絞扼部位により原因がことなり名称も変わります。

腕神経叢の絞扼部位

1)斜角筋隙:前斜角筋と中斜角筋,第1肋骨で構成された線維トンネルであり、前斜角筋と中斜角筋の緊張亢進により絞扼される。

2)肋鎖間隙:鎖骨と第1肋骨で構成された骨性トンネルであり、鎖骨の下制や後方回旋により絞扼される。

3)小胸筋下間隙:小胸筋、烏口鎖骨靭帯で構成された線維性トンネルであり、小胸筋の緊張亢進や肩関節の外転により絞扼される。

不良姿勢と症状の関係

いかり肩では圧迫力が、なで肩では腕神経叢に牽引力が加わり胸郭出口症候群(TOS)が発症する。

TOSに対するアプローチ
1)いかり肩:前・中斜角筋のリラクセーションにより斜角筋隙での圧迫力を軽減する。

2)なで肩:僧筋や菱形筋群の筋力強化により、肩甲骨のアライメントを修正し、小胸筋のストレッチにより肋鎖間隙、小胸筋下間隙を拡大する。

最後に

ここまで読んで下さりありがとうございます(;^ω^)

今回のテーマは胸郭出口症候群でした。

姿勢の記事は結構書いているのですが、やはり不良姿勢は万病のもとですね。

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