気化冷却法とは
気化冷却は気化熱を利用して体表面を急激に冷却し局所麻酔効果をはかるものである。以前はエチルクロライド(ethylchroride)製剤を用いていた。しかし、これは可燃性でかつ有毒なのでいまでは使われていない。現在はエチルクロライドの代わりにフルオロメタン(fluoromethane)を用いている。これは非可燃性で無毒なので安全である。しかし、これも6秒間続けて一局所に噴霧すると皮膚の凍傷を容易に起こす危険性がある。寒冷療法に気化冷却の方法を紹介した最初の人はTravelであった。彼女は筋・筋膜性の機能障害に対して気化冷却法を試みた。彼女はこの方法を "stretch and spray"と呼んだ。彼女はまた外傷、虚血、疲労などいくつかの原因がトリガーポイントを生じ、筋・筋膜組織に深部性の超過敏部分を起こすと考えた。トリガーポイントからのインパルスが中枢神経を介し関連痛を身体の他の部に発生させる。トリガーポイントは痛みを引き起こす原因が存在するかぎり続くので、無制限に痛みの悪循環を形成する。痛みの悪循環はこのトリガーポイントに直接アプローチすることで完全に断ち切ることができる。その手段として彼女はエチルクロライド噴霧を使った。Halkovichらは、フルオロメタン噴霧とストレッチングの組み合わせはストレッチングよりも股関節の屈曲増加により効果的であることを正常な被験者を使って示した。Travellは、トリガーポイントは気化冷却法と筋膜ストレッチ、アイスマッサージ、超音波、マッサージなどによって軽減することができるという。
スプレー冷却法の利点は何といってもその手軽さだと思います。薬局やスポーツ用品店にも様々な種類のコールドスプレーを置いてありますし、即時効果も非常に高いです。もっとも市販のスプレーには消炎鎮痛効果の薬品が入っていることもありますが、私自身フルマラソンを走るときには休憩所で下腿三頭筋や大腿四頭筋、腸脛靭帯に噴霧することでかなり疼痛が抑えることが出来ました。
実施方法
患者への対応とチェック
①患者に治療の手順を説明する。顔面近くにスプレー噴霧するのなら患者の目を保護しておくこと。患者にどのような感じが生じるのか説明しておく。
②皮膚感覚および血行をチェックする。もし感覚が低下しているのなら十分な注意が必要である。
③セラピスト自身の目にもスプレーガスが入らぬよう気をつける。
④患部から60cm〜1mくらい離して治療部位に対し直角になるよう噴霧する。
⑤患部に対して1秒間に10cmくらいの速度で前後上下にゆっくり噴霧する。
(6)皮膚に白い霜がつくようになったらやめる
私見ですが病院や施設では使わないような気がしますね。手軽なのでスポーツ場面のような急を要している時にこそ真価を発揮します。病院ならもっと確実に寒冷処置できるものが沢山ありますしね。
しかし、もう一つメリットがあるとしたら濡れない事です。寒冷療法はよく衣服や周囲のものが濡れるのが難点ですがこれは気化しているので全く濡れません。また圧力もかけず、自分の冷やしたいところを簡単に冷やせます。他の寒冷療法では大幅に冷やしたり固定しないといけない手間があります。
治療の終わりにあたってのチェック
①皮膚をタオルできれいに拭く
②患者の皮膚に異常がないかどうかをチェックする
臨床適用
Krausは、エチルクロライド溶液を用い患部に噴霧することで痛みと筋スパズムを軽減できたと報告した。この効果は後にTravellらによって確認されたが、それにもかかわらずこの治療は1960年代になって使われることが少なくなった。これはエチルクロライド製剤で凍らせた皮膚がかぶれ激しい痛みを伴うという理由からであった。エチルクロライドの代わりに出現したフルオロメタンを使うことでこの問題は解決された。つまりエチルクロライドと違ってフルオロメタンは爆発性、可燃性、強い毒性がない不活性ガスである。また、これはエチルクロライドのように皮膚を凍らせることはない
色々な寒冷療法の中でも熱を奪う力(冷やす速さ)が大きいのは気化熱だと思います。冷浴などは十分に冷やすだけでなく静水圧などの水治療の要素も入っていますが、スプレーはその分、手軽ですね。病院で使用していてはコストがかかりすぎますがスポーツ場面では逆に低コストで済みます。また日常生活でも簡単に使用できますのでセラピストがいなくても容易に施行できるのもいいですね。
寒冷療法は物療の中でも最も手間のかからない治療だと思います。ほとんど機械を必要としないので指導をしっかりと行えば安全に自宅でも行えるでしょう。
こういった意味では十分なオリエンテーションでハンズオフスキルとしても活用できますね。