治療的電気刺激とは
機能的電気刺激法(FES)は、電気刺激の制御により失われた生体の運動機能を再建するものであるが、これとは別に患者自身の随意的運動能力の回復を目ざす治療法として治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation: TES) があります。
TESの治療概念・方法
TESの目的はおもに、脳卒中や脊髄損傷などの痙性による筋緊張の軽減、関節可動域の拡大、随意性の向上、廃用性筋萎縮の改善などを目的としています。
TES自体は、物理療法の一手段であるので運動療法による神経・筋再教育訓練、筋力強化訓練、関節可動域訓練やバイオフィードバック療法などとの併用によって、より相乗的な訓練効果が期待できます。
電気刺激による痙性の抑制電気刺激によって痙性を軽減させる手法には3種類あります。
①痙性筋自体を電気刺激する方法
痙性筋への電気刺激による痙性抑制の機序として、福井らは次のように説明しています。錘内筋線維の刺激閾値は鍾外筋のそれよりも高いため、刺激の強さを調節することにより錘外筋線維だけの収縮を起こすことが可能である。
つまり、筋紡錘を興奮させずに錘外筋線維の収縮による腱紡錘のみを興奮させることで、その筋の低緊張状態が得られるというわけです。しかし、これだけでは数時間にわたる痙性抑制効果は説明できず、彼はこのほかに脊髄レベルにおける被刺激性の変化、または運動神経の逆行性伝導も関連性があると推察されています。
②痙性筋の拮抗筋を電気刺激する方法
電気刺激を末梢神経に与えると運動神経の興奮により、その支配筋に収縮が起きるのと同時にこの刺激は、筋からの求心性の神経線維も興奮させます。
とくに、筋紡錘からの知覚線維であるGIa(Ia)線維が興奮すると、その筋の拮抗筋の緊張を抑制反抑制し、痙性を軽減させます。
③痙性筋とその拮抗筋を交互に刺激する方法
前述した、双方の効果を同時に得ようとするものです。新藤、田口らはこの方法により改善を認めたと報告しています。
必然的に治療には2ch必要となります。電気刺激による痙性の抑制効果は、刺激終了後にも持続することがわかっており、これを持ち込み現象(carry over phenomenon)とよびます。
carryover 現象の持続時間としては,、1時間から数時間にわたると報告されていますが、これは治療時間、治療頻度にも影響されるようです。
中枢性神経麻痺の場合、痙性による関節可動域の制限や随意性の低下をきたしているケースが多く、これが解決されることで麻痺肢の機能改善がある程度望めます。
TES の適応
FESと同様、末梢運動神経の障害がないことが絶対条件であり、脳血管障害、脳性麻痺、脊髄損傷などの中枢性運動麻痺疾患が対象となります。また、TESにおいては,最終的に麻痺肢の随意的運動能力の改善を目的とするため主に中枢性運動麻痺疾患の不全麻痺患者がよい適応となります。
TESもFES同様に凄い勢いで成長しています。特に脳卒中後片麻痺者の痙性麻痺の治療には非常に有効です。
足関節の内反尖足や股関節の内転筋の痙性抑制にも効果を発揮するため様々な促通訓練との併用が期待できます。
運動学習にはまず以下のような要素が必要となります。
ヘブ(Hebb)の法則:刺激の量が神経再教育には重要な要素であり、どの神経も量的課題を確保しなければ十分な発達は見込めません。
特異性の原理:神経筋の教育には速度、角度、出力、協調タイミングなどの様々な要素がありこれらの特性が反復回数によって徐々に教育されます。
差動学習:トライアル&エラーの繰り返しによって誤差を修正していきます。これにより誤りを繰り返さないし(長期抑制)徐々に成功が学習され上達します。
このような要素を取り入れるにはある程度の可動域、筋力、随意性、支持性などが必要ですのでそれを発揮するためのTESだといえるでしょう。