アイスマッサージとは
アイスマッサージは手技も簡単で効果のある寒冷療法の1つである。費用もかからず特別な器具もいらない。治療手順は簡単であり、また患者が自分で行える利点もある。最も簡単な方法は紙コップを使って冷凍庫でまず氷の塊を作り、それをガーゼで持って直接患部を氷面でマッサージするようにこするだけでよい。氷塊を直接手で持つと冷たいので、ガーゼで包むか紙コップのなかに氷を入れた状態で使用に応じてコップの端を破っていったりするのもよい。またコップに入れた水を凍らせる前に舌圧子を入れておくと氷はハンドルのついたポプシクルとして使うことができる。また氷塊を食塩とともに氷のうに入れて患部をこすってもよい。マッサージは筋線維の方向に並行になるようにゆっくり行う。時間は5〜10分程度であり、局所の感覚麻痺が生じる手前まで行う。しかし、この方法では患部が水で濡れ衣服が汚れやすい欠点があるうえ、凍傷も起こりやすい。それで今では代わりにクリッカーを使うことが多い。
実施方法
軽くて握りやすく断熱材でつくられた円筒の両端にジュラルミン製のヘッドがついている。この容器のなかに氷と食塩を3:1の割合で入れ,よく攪拌すると温度が-15〜-21Cまで低下する。このとき金属ヘッドが冷え霜がつくように白くなるのでマッサージを開始する。
通常金属ヘッドの温度はー10Cまで低下する。あらかじめ患部に軟膏を塗り軽く圧しながらもみこむようにマッサージを行う。この軟膏は極端な冷却に対する皮膚への温度緩衝剤として凍傷予防の目的で用いるものである。金属ヘッドには大きめなものと小さめのものがあるので患部の大きさに合わせてどちらかを選ぶトリガーポイントに対しては通常小さめの金属ヘッドを用いる。
マッサージをはじめて20〜30秒すると冷たい感じがするが、しだいに灼熱感に変わり、1分すれば刺すような痛みを覚える。やがて4〜5分すれば患部の皮膚感覚は消失する。そこでマッサージも中止する。マッサージは一局所のみに集中するのでなく、ある程度患部全体に均等に行うことが凍傷予防上大切である。なおマッサージの後には関節可動域訓練などの機能訓練を行いcryo-kineticsとして用いれば治療効果は高まる。
cryokinetics(クライオキネティクス)とはcryo=『冷却』kinetics=『運動』の複合語です。
目的は可動域拡大のために患部周辺を冷やすことです。受傷して疼痛が発生すると疼痛物質のヒスタミンやブラジキニンなどが発生します。特にブラジキニンは血管を攣縮させ血流阻害するので組織は酸素不足を呈します。酸素不足は二次的な組織損傷を引き起こすため、結果として神経系はアドレナリンやノルアドレナリンといった除痛作用のある物質を放出させますが、その物質も血流阻害を起こすという痛みの悪循環を引き起こします。疼痛は交感神経系の過剰興奮から筋緊張を更新させスパズムを作り出します。pain - spasm-cycle (痛み-筋スパズムサイクル)
冷やすことで疼痛物質(炎症物質)を抑制しこの悪循環を断ち可動域を拡大させやすくします。
冷凍マッサージ
野上によると氷のうに製氷器の氷1,000gと食塩500g(氷:食塩=2:1)を混ぜ十分攪拌すると温度はー18℃まで低下する。これで1分間130回の割合いですばやくマッサージを行う。少し圧迫してマッサージをしたほうが効果的である。3〜4分で皮膚に紅斑が現れる。なお凍傷の危険性があるので寒冷痛および皮膚が白くなるのを目途にマッサージを中止する。この方法はクリッカーを使ったものと比べると冷却面積が大きく効率的である。また家庭や訓練室で簡単にできるが、凍傷には十分気をつける必要がある。
完全に余談ですが、ビールを冷やし忘れてしまったときにこの寒冷方法は使えます。ボールに水と氷と塩を入れてビール缶を入れてクルクル回していくと拡販されて物凄く冷えます。数分でキンキンに冷えますので真夏のビールの冷やし忘れがあれば使って見てください。また水で濡らしたタオルで缶をを巻いて冷蔵庫に入れる方法も急激に冷やせるのでそれでもいいかもしれません。
人間に使用するときは凍傷に十分気を付けましょう。物理療法の基本は快刺激です。
アイスマッサージ実施上の注意
①患者に治療手順をわかりやすく説明する。とくに感覚の変化についてはよく説明する。はじめ冷たい感じであったものが、やがて灼熱感に変わり約1〜3分後には刺すような痛みに変わる。そして最後には感覚がなくなる。患者には、およそいつごろこれらの感覚の変化が現れるか説明しておくとよい。また患者には治療がまったく安全で皮膚に凍傷を起こすようなことは決してないことを説明して安心させることも大切である。
②患者に寒冷過敏症があるかどうかチェックし、もしそうであれば治療は行わない。
③患部の皮膚感覚や皮膚の血行状態をチェックする
④セラピストは自分の手を冷たさから守るように工夫する
⑤治療中には患者の保温に配慮する
⑥マッサージの速度は1秒間に約10cmくらいが適当である
⑦治療部位が大きすぎる場合は1つの治療部位が直径15cm以下になるよう患部をいくつかに分けて治療する。
⑧骨性隆起部などにはマッサージを行わない
⑨治療が終われば皮膚に異常がないかどうかチェックする。
高齢者の方には寒冷療法は嫌われる傾向にあります。基本的に高齢の方は筋肉量も少なく寒がりな方も多いので温熱療法は快刺激となり寒冷療法は不快刺激になることが多いです。
アイスマッサージに関してはスポーツマンや嚥下困難者に対する頸部前面に対する処方が多いと思います。
他の寒冷療法と異なる点は単純に冷やすことによるRICEの様な効果だけでなくマッサージすることでトリガーポイントに対する除痛が期待できることでしょう。
臨床適用
臨床上よく観察されるトリガーポイントがある。内臓や関節、筋に由来する深部痛は特色として痛みのトリガーポイント以外の他の部分に痛みを生じることが多い。トリガーポイントはTravellとRinzlerによって詳しく調べられているが、彼らによるとトリガーポイントとは筋または結合織の小さな限局した過敏な部分であり、その部分の刺激が中枢神経系を介して一定部位に関連痛(referred pain)を生じたものがトリガー痛である。これはストレスのかかる頸や腰にとくに出現しやすい。
トリガーボイントは圧痛点として触診上、筋の硬結を触れることが多い。これは局所の阻血をきたす血管攣縮と考えられている。またトリガーポイントは上行反射弓が筋の固有感覚と下行反射弓は血管周囲の自律神経系と関係しているともいわれている。一方、内臓の病変と関連して体壁に痛みを生じることがある。これは内臓体壁知覚反射として関連痛が現れたもので、自律神経の介在が特色である。この例としてHead帯、Mackenzie帯、 Dicke帯などが知られている。トリガー痛の治療にはしばしばアイスマッサージや気化冷却法が使われる。
筋硬結は血流障害なので温熱療法でも改善できますが、温熱療法とマッサージの組み合わせは通常の物療では少ないです。勿論温めてからストレッチすればいいのですが、寒冷療法でも二次的血管拡張作用がありますので炎症期もしくは亜急性期での処置ではアイスクリッカーの選択が好ましいでしょう。
また片頭痛のような三叉神経痛では血管が拡張して三叉神経を圧迫しているので寒冷療法と筋の伸長もしくは筋膜のリリースが効果的です。
緊張型頭痛などでは頸部筋から頭筋膜の伸長でとれますので温熱の方が良いでしょう。場面に合わせて選択しましょう。