機能的電気刺激法とは
脳卒中や損傷により障害された上位運動ニューロンの再生は非常に困難です。しかし、このような上位運動ニューロン障害では一般的に末梢神経(α運動ニューロン)や筋の電気的な興奮性は温存されており、これに電気刺激を与えることで筋の収縮を起こすことが可能です。
そして、本来運動中枢より末梢神経・筋に出されている制御指令に近似した電気刺激を同部位に与えることで健常人の手足とほぼ同様な動きを再現することができます。
このような、失われた生体機能の再建を目的とした電気刺激を一般的に機能的電気刺激(functionallectric stm-tion: FES)とよんでいます。
FESは電気刺激に対して興奮性を有するすべての生体組織が対象となるので以下のような、いくつかの応用例があります
(1) 心臓ペースメーカー
(2) 呼吸ペースメーカー
(3)聴覚補綴(蝸牛內電気刺激:人工內耳)
(4)視覚補綴(大視領野電気刺激)
(5)排尿ペースメーカー
(6) 上肢FES
(7)下肢FES
(8)側彎症に対するFES
(9) 皮膚感覚代行
これらのなかでも麻痺肢に対する FESの研究は、近年急速に発展してきています。
FES の適応
FESを行うには末梢運動神経の障害がないことが絶対条件です。つまり前角細胞をα運動ニューロンが障害を受け変性に陥ると、その支配筋もいずれ変性してしまうためFESによる動作制御が不可能となります。
したがって、脳血管障害、脳性麻痺、脊髄損傷などの中枢性運動麻痺疾患がおもな適応となります(脊髄損傷では損傷部位に前角細胞や神経根の障害が存在することも多くあり、そのような場合にはFESの適応外となることもあります)。このほか、以下の点も FES適応の必要条件とされています。
(1)制御方法を理解しうるだけの知的能力がある
(2) 重篤な心疾患(ペースメーカーなど)、高血圧など内科的に問題がないこと。
(3)重度の関節の拘縮、変形および異所性仮骨がないこと。
(4) 電気刺激に対する過度な恐怖心をもっていないこと。
なお、筋の廃用性萎縮や痙性は電気刺激による訓練によって改善する場合があるので完全な適応除外とはならない場合もあります。
FESの利用は電気治療の中でも画期的な分野だと思います。電気治療には疼痛除去や筋力増強、浮腫の改善に麻痺の治療など多くの種類がありますが、リハビリ分野では特にこのFESによる筋の代用が非常に重要だと思います。
麻痺者には運動を行う際に阻害因子として弛緩、痙性、拘縮、筋萎縮があります。これらの改善には基本的に運動量の獲得が必須となります。
しかし、弛緩や痙性は筋の随意性を奪うので自由度が非常に小さくなります。そこで運動量を確保するためには荷重や反復回数を増やすための工夫が必要となりますが、FESにはこの阻害因子を抑制し、運動しやすい環境を整えます。あくまで反復や荷重が神経を促通するのでFESを使用しても歩行訓練や上肢機能訓練の量が不足すれば根本的な神経促通にはなりませんが、治療的手段ではなくても日常生活用にも使用できますので非常に有効性の高い手段だと言えます。