肩甲下筋の概要
ローテータカフの筋群では唯一肩甲骨の前面から起始し上腕骨を引き付けて肩関節の安定に貢献する。肩関節内旋の主力筋
肩甲下筋は腱板を形成する4つの筋群の一つで前方を支持する唯一の筋です。
肩甲下筋にはいくつかの筋内腱がありこれらを中心に羽状筋の形態をとります。
また肩甲下筋の深層線維は直接肩関節包に付着しています。
肩甲下筋の特徴
肩甲下筋は肩関節の運動軸を上下に跨ぐため上方線維群と下方線維群に分類して機能を考えます。
肩関節下垂位では全体として内旋に作用しますが上方線維の方が筋活動が高いです。
肩関節90°外転位での内旋は下方線維群の筋活動が高くなります。
肩関節90°屈曲位では筋が弛緩する位置となり筋活動が低下します。
肩甲下筋は肩甲下窩と筋膜内面から起こり、上腕骨前面の小結節と小結節稜上端に停止します。
4~6 本の筋内腱を有する多羽状筋であり、筋内腱は筋外腱のほぼ全幅より八つ手状に移行してます。
筋線維束の走行から上部線維、中部線維、下部線維の3部位に分けられます。
上部・中部 ・下部は異なる神経支配を受け、異なる筋活動を示すことが報告されています。(Decker,2003; McCann,1994; Kato,1989)
比較的一つの筋の面積が大きいのでこのような神経支配になると考えます。
筋全体の生理学的断面積は回旋腱板筋の中で最大であり、回旋腱板筋全体の 41.2~51.6%を占めます(Wood,1989;Bassett,1990;Veeger,1991;Karlsson,1992;Keating,1993; Jhonson,1996; 竹村,1998)
肩甲下筋は大胸筋とともに最も強力な内旋作用を持ちます。上部線維では外転に伴 い内旋モーメントアームが低下しますが、中部、下部線維では変化しません。
また、肩甲下筋の 3 部位はいずれも外転作用も持ちますが、棘下筋と同様に上部線維が最大のモーメントアームを持ち、 内旋するほどその作用は低下することが報告されています(Otis,1994)
ここら辺のモーメントアームに関しては文字だと伝わりづらいので実際にイラストや体表解剖、骨標本で確認するほうが理解しやすいと思います。
ローテーターカフ(回旋筋腱板)とは
ローテーターカフは、肩甲骨に起始し上腕骨に停止する肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋の総称である。肩関節の内旋・外旋をもつことが語源(rotator:回転するもの)。
薄い腱が上腕骨頭を覆うように停止していることから回旋筋腱板とも呼ばれ棘下筋を除く3つの筋は深層に隠れている。これらの筋には上腕の回旋だけでなく肩関節をひきつけて安定させるという重要な役割もある。
肩関節は他の関節と異なり強い靱帯を持たない。従って可動域が大きい代わりに安定性が低いという問題がある。ローテーターカフは上腕骨頭が肩甲骨から外れないように引き付け他の関節における靱帯のように振舞う
肩関節は筋によって保護された関節といえます。
3筋(小円筋・棘下筋・棘上筋)の停止部にあたる上腕骨頭の大結節は三角筋に覆われている。筋腹や起始部も僧帽筋に覆われているが棘下筋の筋腹のみ表層にある。
ローテーターカフの4つの筋のうち肩甲下筋のみ肩甲骨の前面から起始し上腕骨を引き付けています。
肩甲下筋は起始部では6〜7つの筋束に分かれていますが、停止に向かうにつれて収束して上腕骨小結節に至ります。
停止部の形態に関して腱性に停止する部位と筋性に停止している部位が存在することが知られています。
腱性に停止する部位は停止腱の近位部で筋性に停止する部位は遠位部とされています。
腱性部と筋性部の割合は報告者により異なり腱性部が1/2を占めるとする研究から3/4を占めるとする報告まで多様です。
これは、筋性部の観察を表層から行っているか関節内から行っているかの違いによります。
遠位の筋性部は近位の腱性部より腹側に位置するため、表層から観察した結果では筋性部が多く観察できますし、関節内から観察すると腱性部が多く観察できます。
筋性部と腱性部では元来、筋性部のほうが柔軟性に富んでいるため、その伸張性の低下はより関節可動域の制限を強くすることが予測されます。
筋性部の多くは肩甲骨の外側縁から起始する下部筋束が多く、体表から触知できる部位であり肩関節拘縮の治療ポイントであるといえます。
また、肩関節脱臼を起こす外転外旋位では肩甲下筋の下部筋束が肩甲上腕関節の前下面を覆っているため前下関節上腕靱帯(AIGHL) とともに前方不安定性の制動に関与している可能性もあり肩甲下筋の筋力強化訓練が重要になります。
その際にはより下部筋束を伸張した外転位での内旋運動や内転運動が安全かつ効率的に行えます。
肩甲下筋と棘下筋のフォースカップル
肩甲下筋と棘下筋はどちらも肩甲骨の前面よ後面の大きな面積を占める筋肉でありお互いに引き付け合うことで骨頭を求心位に引き込む作用があります。
筋肉データ
項目 | 内容 | ||||
神経 | 神経支配:肩甲下神経(C5~6) | ||||
起始 | 肩甲骨の前面、肩甲下窩 | ||||
停止 | 上腕骨の小結節、小結節稜の上部 | ||||
作用 | 肩関節の内旋・水平内転・安定化作用 | ||||
筋体積 | 319㎤ | ||||
筋線維長 | 8.9cm | ||||
速筋:遅筋(%) | ーーーーーーー | ||||
PCSA | 35.7㎠ | ||||
栄養血管 | 頸横動脈、肩甲下動脈 |
臨床での観点
肩関節前方不安定性を有する症例では肩甲下筋の強化と肩後方組織の柔軟性改善が保存療法の第1選択となります。これにより内外旋の筋群のフォースカップルを調整することで肩関節の安定性寄与を向上します。
肩甲下筋の筋力評価にはlift off testが簡便です。反復性肩関節脱臼に対する治療は再建術がありますが肩甲下筋腱を縫合する治療もあります。
外旋制限を呈する症例では肩甲下筋は重要な制限因子の一つで大胸筋と並んでストレッチが必要な筋です。
関連する疾患
・腱板損傷
・反復性肩関節脱臼
・投球障害肩
・肩関節拘縮