代償動作とは
代償動作(代償運動)とは、動作や運動を行うのに必要な機能以外の機能で補って動作や運動を行うことです。
リハビリテーションの現場において代償動作は、疾患や怪我によって機能が障害され、ある動作や運動が行えなくなった時に、ほかの筋肉の動きで動作を補って行うこと、あるいは、何か道具を利用することや環境を整えることで行えない動作を補完して目的を達成することを指します。
患者の姿勢や動作を評価する際や徒手筋力検査(MMT)を行う際には、代償動作が起こっていないかを確認し、代償動作を促したい動作や運動に修正するということが行われます。
例えば、以下のような何かの動作をほかの動作で補って行うことを代償動作ととらえます。
- 手を上に挙げる動作を行う際に指先から上げるのではなく、体幹を側屈させ、肩を挙上させることで手を上げようと補う
- 歩行時に足が上に上がりにくい際にすり足で歩くことや、ぶん回し歩行で足を前に出そうとする
- 脚を持ち上げる際に体幹を伸展しのけ反る様に下肢の振り出しを行う
日常生活の場面やスポーツなどにおいて、代償動作がその人にとって改善すべきものである場合には、まず、代償動作が起こっている要因を探ります。
そして、本来使われるべき筋肉を働かすことや関節の可動域を広げること、バランス力や協調性の向上を促して、代償動作が出現しないように姿勢や動作を修正していきます。
反対に、日常生活に必要な動作や運動が身体の機能障害によってうまく行えない場合には、ほかの行い方で行えるように提案・練習したり、道具や環境を整えたりして動作が行えるように代償し、生活機能の低下を防ぐようにすることもあります。
ここで大切なのは、代償動作がその運動を行う際に力学的な不利があり身体を損傷する可能性や、スポーツ時のパフォーマンスの低下を引き起こしているかを検討することです。
正しい運動という定義はありませんので、この際の正しいは怪我を防ぎパフォーマンスを向上させる運動と考えましょう。
健康な人にもみられる代償動作
健康な人の場合でも環境や運動の経験、身体の柔軟性や筋力、体力などの状態によって代償動作がみられます。
成長過程で裸足の歩行が少ないと偏平足になり爪先の蹴りだしが不十分となり足底全体でペタペタ歩くようになります。そのため下腿三頭筋や殿筋群の出力が低下し歩幅が小さくなることもあります。
他にもハムストリングの短縮がある場合は体幹の前屈の際に骨盤が前傾できず胸椎の屈曲で代償し腰痛の原因となる場合もあります。
このように、筋力が弱かったり、身体の柔軟性が乏しかったりすると、他の関節の動きや筋力を利用して動作を遂行するため、パフォーマンスの低下や、疲労の部分的な蓄積が起きやすくなります。
姿勢の変化はこのように、その人の身体機能に応じた代償機能の積み重ねにより形成されます。
代償動作による問題とは?
代償動作が問題となってくるのは、
①「本来使うべき筋肉を使わずにほかの筋肉を使ってきたことにより、使われなかった筋肉の筋力が低下し、過剰に使ってきた筋肉に負荷がかかって痛みにつながること」
②「非対称な姿勢をとることにより、姿勢のゆがみが生じてくること」
③「筋力の低下や姿勢のゆがみが長年続くことにより、関節に負担が生じて変形性関節症などをまねくこと」
④「非効率な動作となっており、動作のパフォーマンスやスピードが落ちていること」
①に関しては全身性の法則に従い、不使用筋を使用することで異常姿勢や易疲労性を改善することが必要です。パワーリハビリや体操がこれに該当します。
②非対称な体は重量や筋力が大きく異なる場合には脊椎や肩、膝、股関節などに負担がかかるため改善が必要です。ただし、スポーツや職業により完全に左右対称にならない場合は多いと思います。
健康に問題なければ神経質にならずある程度の左右非対称は許容すべきでしょう。
③に関してはなるべく早期に改善することでその後の人生が大きく変わると思います。筋力トレーニングも良いですが、体操や早歩き、階段昇降など全身を使う運動で姿勢を保持できる筋力を維持する事が大切です。
これに関してはスポーツマンよりも加齢に伴う場合が多いので習慣化出来る運動で且つ十分な負荷を考えれば抗重力筋を鍛える意味でもこの程度の運動で良いと思います。
④に関してはスポーツ場面を想定するのでパフォーマンスだけでなく、怪我の予防が出来る体つくりやフォームの修正が必要です。道具でカバーできる場合は積極的に道具の検討をしていきましょう。
速い球を投げれる代わりに肩や肘を痛めるなどでは本末転倒です。
日頃の姿勢を意識することも大切です。お腹を引っ込ませたり、足を組む癖があれば反対側で組みなおしたりなども有効ですが、習慣化されるまでは中々忘れてしまうこともあると思います。
そこで意識的に出来る運動として散歩や体操、ヨガなどの運動を取り入れることも推奨できます。
またジムで筋トレする際には対象の筋肉にしっかり刺激が入っているか確認し代償しない様にしなければいけません。
代償動作によって生活の質の維持・改善を図る
すべての代償動作が悪いものではなく、障害された機能を補って生活機能の低下を防ぐことは必要なことでもあります。例えば、下肢の筋力低下によって一人で歩くことが困難になった場合には、杖・歩行器などの福祉用具を使うことや、手すりの設置・段差の解消などで家の環境を整え、下肢の機能低下を補うことで、生活の質を低下させることなく、以前と同じように生活を継続できることもあります。
手指の機能障害により手指の細かい動作が行えなくなった場合には、肘や肩の動きで代償して行う方法を学習することや自助具の活用によって、以前の方法とは違う新しい方法で目的を達成し、日常生活動作が自立できることもあります。
代償動作であっても、その人の生活の質を維持するために必要な動作であり、安全に行えているものであれば推奨すべきものもあります。大切なのは代償動作がみられたときになぜ行っているのかを探ることと、それは修正すべき動作であるのか、推奨すべき動作であるのかを判断して対処することだと言えるでしょう。
特に脳卒中片麻痺においては代償動作が必須なので動作を遂行するために代償動作を積極的に取り入れなければなりません。ここでは必要な道具の選択と新しい動作の獲得に伴う可動域や筋力の強化です。
最後に
代償動作は悪のように取り扱われることもありますが、そうではなく適材適所で利用していきましょう。
ポイントは
①動作を遂行できる代替手段がなければ採用(ただし怪我に注意)
②非効率で疲労の蓄積が多い場合は改善や代替案を検討
こんなところでしょうか?
ここまで読んで下さりありがとうございます。