サルコペニア
サルコペニアとは、進行性かつ全身性にみられる筋肉量の減少と筋力低下を中心とした状態で、身体機能障害、生活の質(QOL)の低下、転倒、要介護、死亡リスクの上昇にもつながります。加齢だけで起こるものと思われがちですが、実際には活動量の低下、栄養不足、急性・慢性の疾患など、さまざまな要因が関与します。
臨床では、どう見つけるか、何を評価するか、どう対応するかの3つの視点で整理すると理解しやすくなります。特に高齢者、入院患者、活動量の低下した方、低栄養や慢性疾患を抱える方では、早めに気づくことが重要です。
サルコペニアとは
サルコペニアは、筋肉量が減るだけでなく、筋力や歩行などの身体機能も低下している状態を指します。筋肉量の低下があっても、筋力や身体機能の低下を伴うことで、日常生活に実際の影響が出やすくなります。
原因によって、加齢のみを主な背景とする原発性サルコペニアと、活動、栄養、疾患などが関わる二次性サルコペニアに分けて考えることがあります。臨床では、単に「年のせい」と片付けず、背景要因を探ることが大切です。
どこでみるのか
外来、病棟、回復期、施設、在宅など、幅広い場面でみられます。とくに、最近歩く量が減った、食事量が落ちた、入院後に動けなくなった、体重が減ってきたという経過がある場合は注意が必要です。
また、誤嚥性肺炎、骨折、手術後、慢性心不全、慢性腎不全、慢性呼吸不全、がん、慢性炎症などでは、サルコペニアが進行しやすくなります。リハビリテーションを行っても回復が思うように進まない場合、その背景に低栄養やサルコペニアが隠れていることがあります。
何をみているのか
サルコペニアをみるときは、筋肉量だけではなく、筋力、歩行速度などの身体機能、ADL、食事摂取状況、活動量、原疾患の有無を総合的に確認します。見た目だけで判断せず、「筋肉が減っているか」「力が落ちているか」「動作が遅くなっているか」を組み合わせて考えることが重要です。
さらに、なぜサルコペニアが生じているのかという原因の整理も大切です。加齢によるものなのか、安静臥床や活動低下なのか、栄養不足なのか、疾患による炎症や侵襲なのかによって、対応の組み立てが変わります。
臨床でどう見るか
臨床では、「最近つまずきやすくなった」「立ち上がりにくい」「歩くのが遅くなった」「体重が減った」「食事量が減っている」といった変化から疑います。とくに高齢者では、筋肉量の減少が徐々に進むため、本人も周囲も変化に気づきにくいことがあります。
- 立ち上がりや歩行が遅くなっていないか
- 転倒しやすくなっていないか
- 食事量や体重が落ちていないか
- 入院や安静をきっかけに活動量が大きく下がっていないか
- リハビリテーションの反応が鈍くなっていないか
また、誤嚥性肺炎後や長期臥床後では、全身のサルコペニアに加えて摂食嚥下障害を伴うこともあり、全身状態だけでなく嚥下機能にも目を向ける必要があります。
評価で何をみるか
評価では、筋肉量、筋力、身体機能の3つを中心にみます。一般的には、握力、歩行速度、骨格筋量の指標がよく用いられます。検査機器がない場合には、下腿周囲長などを目安にすることもあります。
- 筋力:握力が低下していないか
- 身体機能:歩行速度が低下していないか
- 筋肉量:BIAやDXA、あるいは下腿周囲長で減少が疑われないか
- 栄養状態:食事摂取量、体重変化、低栄養の有無
- 活動量:安静が長引いていないか、日中の活動量が落ちていないか
- 背景疾患:炎症、侵襲、悪液質、慢性疾患の有無
実践上の目安として、握力は男性26kg未満、女性18kg未満、歩行速度は0.8m/秒以下が低下の目安とされています。筋肉量の評価では、四肢骨格筋指数を用いる方法のほか、機器が使えない場面では下腿周囲長を簡易評価に用いることがあります。
臨床でよく出る問題
- 筋力低下による立ち上がり・歩行能力の低下
- 転倒リスクの上昇
- ADLの低下と介助量の増加
- 入院期間の長期化や在宅復帰の困難
- 低栄養や食事量低下の併存
- 誤嚥性肺炎後などでの摂食嚥下障害の合併
起こりやすい要因
- 加齢
- 活動量の低下、長期臥床、安静臥床
- エネルギー摂取不足、たんぱく質不足、低栄養
- 手術、外傷、骨折、感染症などの急性侵襲
- がん、心不全、腎不全、呼吸不全、肝不全、慢性炎症などの慢性疾患
- 誤嚥性肺炎などを契機とした食事制限や活動低下
注意したい症状
以前より歩くのが遅い、疲れやすい、立ち上がりに時間がかかる、ふらつく、食事量が減る、体重が落ちるといった変化は注意したいサインです。明らかな麻痺や疼痛がなくても、機能低下の背景にサルコペニアがあることがあります。
また、急な体重減少、急速な筋力低下、炎症や悪液質を示唆する経過がある場合には、単なる加齢性変化として扱わず、原疾患の評価を優先する必要があります。
対応の基本
対応は原因に応じて組み立てますが、基本は運動療法と栄養介入を組み合わせることです。とくに加齢が背景にある場合は、レジスタンストレーニングと栄養補給の併用が重要です。
- レジスタンストレーニングを中心とした運動療法を行う
- 必要エネルギーとたんぱく質を意識した栄養管理を行う
- 活動低下が原因なら、不要な安静を避けて早期離床を進める
- 低栄養がある場合は、栄養改善を優先して組み合わせる
- 疾患が背景にある場合は、原疾患の治療を並行して行う
- 摂食嚥下障害を伴う場合は、嚥下評価と食形態調整も含めて対応する
栄養管理では、体重や検査値だけを追うのではなく、歩行、ADL、参加、QOLの改善まで見据えて介入することが大切です。運動だけ、栄養だけでは不十分なことが多く、包括的な対応が求められます。
ひとことで言うと
サルコペニアとは、筋肉量・筋力・身体機能が低下し、生活機能に影響を及ぼす状態であり、早期発見と、運動・栄養・原疾患治療を組み合わせた対応が重要です。
関連用語
参考文献・出典
- 低栄養とリハビリテーション:医師の立場から
- リハビリテーション栄養とサルコペニア(J-Stage)
- Hospital-associated sarcopenia, acute sarcopenia, and iatrogenic sarcopenia(PMC)
- サルコペニアの診断(健康長寿ネット)
- Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis(PMC)