上腕筋の概要
上腕二頭筋の深層にある扁平な筋です。
上腕骨を覆うように付着しており、上腕二頭筋が主に橈骨に停止するのに対し上腕筋は尺骨に停止します。
上腕筋は同じ肘関節屈曲筋である上腕二頭筋より筋体積は小さいが羽状筋であるためPCSA(生理学的筋横断面積)が大きく体積のわりに強い力を発揮します。
もっともこれは等尺性収取の場合にかぎりますが。
上腕筋は腱成分が非常に少なく筋全体が筋腹といった形態をしています。
上腕筋は浅頭と深頭に分けられ浅頭は尺骨粗面へ停止し深頭は鈎状突起から尺骨粗面に至るまでの面に停止します。
前方関節包と上腕筋深頭との間には直接付着する筋線維はなく結合織を介した結合様式をとります。
上腕筋の特徴
関節包に結合織を介して接する筋群は肘関節屈曲に伴う関節包の挟み込みを自身の近位への滑走と共に防止しています。
筋肉が収縮して関節運動する際に軟部組織のインピンジメントを起こすことはよくあります。
特に関節包や関節唇といった組織のだぶついた部分を挟み込むことが多いです。
しかし、普通はそんなことは起きません。
通常はどこか別の筋群が関節包や関節唇に付着しており関節運動によって狭くなる部分に対してオープンスペースにテンションを発揮させて引っ張ってくれるので挟み込まないのですが上腕筋もそのような働きをしています。
このように上腕筋は肘関節包の前方関節包が肘屈曲に伴い巻き込まれない様に関節包を保護する関節筋としても働いています。
関節筋(関節包筋)とは
ヒトの関節内圧は陰圧ですが、関節運動によりその内圧は変化します。
関節包はその関節の内圧に影響を受けます。運動によって通常よりもさらに陰圧になったとき、関節包は関節のなかに吸い込まれ、あるいは巻き込まれてしまう可能性があります。それを防ぐために、主な関節には最深層の筋線維を関節包に停止する「関節筋,あるいは関節包筋」が存在しています。
一般的に骨格筋の主な機能は ① 姿勢の維持② 関節を介した運動③ 熱の産生などのように説明されますが関節包を保護するという重要な機能も持ちます。
上腕筋の浅頭は長軸方向に大きく肘の屈曲筋としての作用が大きく、深頭は浅頭よりも遠位部から起始し扇状に広がり腱膜となって鈎状突起に付着しますので完全伸展から初期屈曲の浅い角度で力を発揮します。
肘関節包の前方関節包は上腕筋と結合しておりこのように屈曲するさいにインピンジメントしない様に引っ張り出してくれます。
同様に肘伸展時に後方関節包がインピンジメントしないように後方関節包は上腕三頭筋が結合し後方に引っ張り出すので肘伸展時に後方インピンジメントしないようになっています。
筋肉データ
項目 | 内容 | ||||
神経 | 神経支配:筋皮神経(C5-C6)しばしば橈骨神経からも | ||||
起始 | 上腕骨前面の下半分及び筋間中隔 | ||||
停止 | 尺骨粗面 | ||||
作用 | 肘関節の屈曲 | ||||
筋体積 | 266㎤ | ||||
筋線維長 | 10.3cm | ||||
速筋:遅筋(%) | ーーーーーー | ||||
PCSA | 25.9㎠ |
臨床での観点
肘関節屈曲拘縮において上腕筋の線維化は主たる病態の一つと言えます。
他動的な肘関節の屈曲時において肘窩に疼痛を訴える場合は肘関節内における前方関節包インピンジメントを考えます。
肘関節30°屈曲位からの終末伸展では上腕骨滑車を中心に矢状面上で上腕筋は大きく走行が折れ曲がり冠状面状上では筋線維が筋内膜を内側へ移動します。
関連疾患
・肘屈曲拘縮
・筋皮神経麻痺