筋肉の概要
肩を覆う大きな筋肉であり、上肢で最も体積が大きい筋肉でもある。肩関節のほぼ全ての動きに関与する。
三角筋は非常に広い起始部から非常に狭い停止部に接合するので三角形の形になり、それが名前の由来となっている。また筋全体を広げると二等辺三角形になることも三角筋の由来となっている。
筋全体を鎖骨部(前部)肩峰部(中部)肩甲棘部(後部)に分けることができ、それぞれ働きが異なる。
英語名の由来はギリシャ語の文字Δ(デルタ)にeidos(~のような)が付いたものであり、見た目通り逆三角形の形をした筋肉です。
画像はオクサホールディングスより著作権込みで購入したものです。クリックするとフルサイズで見ることが出来ます。
筋肉データ
項目 | 内容 | ||||
神経 | 神経支配:腋窩神経(C5-C6) | ||||
起始 | ①鎖骨部:鎖骨の外側1/3の前縁 | ||||
②肩峰部:肩甲骨の肩峰 | |||||
③肩甲棘部:肩甲棘の下縁 | |||||
停止 | 上腕骨の三角筋粗面 | ||||
作用 | ①鎖骨部(前部)肩関節屈曲・水平内転・内旋 | ||||
②肩峰部(中部)肩関節の外転 | |||||
③肩甲棘部(後部)肩関節の伸展・水平外転・外旋 | |||||
筋体積 | 792㎤ | ||||
筋線維長 | 9.7cm | ||||
速筋:遅筋(%) | 42.9:57.1 | ||||
PCSA | 82.0㎠ | ||||
栄養血管 | 後上腕回旋動脈 |
ポジションによる作用の変化
肩関節60°~90°の外転位では鎖骨部と肩甲棘部は肩峰部の外転作用を補助する。
三角筋の各部の作用は三角筋と上腕骨の位置やその運動軸との関係に依存するため結果的に三角筋各部は協調的にも拮抗的にも働きうる。
中立位(0°)からでは三角筋の肩峰部は上腕を外転し、上腕骨がどの様に位置にあっても安定させる。上腕が60°以上外転させられた場合、鎖骨部と肩甲棘部も矢状位の運動軸(外転軸/内転軸)を越えたところで働きだす。
このようにこの軸を境に三角筋の鎖骨部と肩甲棘部は60°以下の外転位では肩峰部に対して拮抗筋として働き60°以上の外転位では肩峰部の外転を補助するように働きを変えます。
また、屈曲や外転作用のある三角筋ですが、上腕を下垂した姿勢では三角筋の走行は上腕骨の長軸方向に平行なため外転できずただ、上腕を上方へ引き上げるだけの作用となります。そのため初期外転角で棘上筋が先に外転しなければ三角筋のみでは外転を始めることはできません。
筋肉のフォースカップル
三角筋とローテーターカフのフォースカップル
回旋筋腱板(ローテーターカフ)の機能と三角筋について
まず三角筋の構造なのですが、肩甲骨の肩甲棘、肩峰、鎖骨外側から上腕骨三角筋粗面に付着する表層の筋であり、肩関節中心から違い位置に停止するため、大きなベクトルをもちます。
しかし、肩関節を構成する肩甲骨の関節窩は窪みが浅く小さいのに対して、上腕骨頭は丸く大きいため、肩肉節の安定性は低いいです。
三角筋の大きな張力が力点である三角筋粗面に作用し、上腕骨を外転するベクトルが生じたとしても支点となる肩関節が安定していなくては滑らかな肩関節外転運動は生じません。(上記の図を参照)
そこで、肩関節を安定させる役割を担う構造が必要になります。
これが回旋筋腱板です。
回旋筋腱板の構造と機能について説明します。
回旋筋腱板は、以下の4つの筋から構成されます。
棘上筋:肩甲骨の棘上窩から起始し大結節の上面に停止
棘下筋:棘下窩から起始し大結節の上面から後面に停止
小円筋:肩甲骨外側縁から起始し大結節の後下面に停止
肩甲下筋:肩甲下窩から起始し小結節に停止
(上腕二頭筋長頭腱も補助として機能)
これらの筋の中でも棘上筋と棘下筋は表層を鳥口上腕靭帯で覆われており、その深層こそ各筋が独立した太い腱線維を有しているもののさらに深層では細い両筋の腱線維が入り乱れた構造となっています。
このような構造から、これらの筋はある程度独立して機能しつつ腱板という1つの機能ユニットとして上腕骨頭というボールを関節窩側からわしづかみにして肩関節を安定させる機能を有していると考えられます。
つまり、腱板の収縮により安定性を獲得し三角筋の大きな力を発揮するための支点を形成することで初めて肩関節の自動挙上運動は可能になります。
上腕二頭筋長頭腱のローテータカフの補助機能とは?
上腕二頭筋長頭腱は肩関節の前方から関節包内に侵入し関節上結節に付着します。
その際、長頭腱は結節間溝を通過すします。結節間溝は肩関節内旋位では肩関節の前面に置するため長頭腱は肩関節の比較的前上面を走行します。
それに対して外旋位では結節間溝が外側面に位置するため長頭腱は肩関節の上面を横断します。
長頭腱は外旋位では挙上運動時に上腕骨頭を下方に押し下げるベクトルを発揮すると考えられ、肩関節の安定化に一役を担っています。
つまり、肩関節を外施させたfull can testでは腱板の収縮が不十分でも肩関節を外転位に保持できる可能性があります。
疼痛の有無を観察するなら,empty can testでもfull can test でも収縮時痛は出るかもしれませんが、
上腕二頭筋の代償が効かないemptycan testの方が、より腱板の機能低下を反映する可能性が考えられます。
三角筋の臨床におけるポイント
三角筋は筋ボリュームが非常に大きく男性らしい身体を作る際に非常に印象が大きいです。大きな肩幅作りには欠かせません。
実際に肩を動かす強力な筋肉なのでアスリートなどのパフォーマンスを高めるためには良く鍛えられる筋肉ですね。特にフィジークやボディビルなどでも見栄えのする筋肉なので逆三角形の身体を作るのに非常に重大な筋肉です。
投擲競技やバーベル上げの動作にも必要な筋肉ですが、筋厚の分厚さからボクサーやムエタイなどのショルダーガードとしても利用されています。
三角筋が十分な筋力を発揮するには腱板筋群による支点形成力の存在が必要不可欠です。特に屈曲や外転動作では棘上筋との協調的な筋収縮力が必須です。
腋窩神経麻痺では三角筋萎縮や外転筋力低下、上腕外側の知覚障害などが出現します。腋窩神経麻痺はクアドリラテラルスペースシンドローム【Quadrilateral Space Syndrome:QLS-syn】(四辺形間隙症候群)という部分の圧痛や放散痛の再現が見られます。
意外にも松葉杖での圧迫は腋窩神経麻痺ではなく橈骨神経麻痺が多いので注意が必要です。
関連する疾患
・リュックサック麻痺
・腋窩神経麻痺
・三角筋拘縮症
この記事はこの本を参考に作成しました