総指伸筋の概要
最も強力な手指の伸展筋で母指を除く4指を伸展させる唯一の筋。前腕後面の中央を走行し腱は伸筋支帯の第4管を通って指先に達する。腱が広がる部分は途中で繋がる(腱間結合)
4本指のいずれかを伸ばすとつられて隣の指も動いてしまうのは総指伸筋が複数の指をまとめて伸ばしているからです。
総指伸筋より伸びた外側束(lateralband)には虫様筋、掌側骨間筋。背側骨間筋の腱が合流し、互いにPIP関節、DIP関節の伸展運動に関与します。
総指伸筋腱は伸筋支帯により構成される第4区画を通過します。この区画は総指伸筋腱に加えて示指伸筋腱も通過します。
手関節を越えて遠位の総指伸筋腱は、示指から小指に向かって離を伸ばしますが、それぞれの腱は腱間結合により固定されています。
総指伸筋の特徴
総指伸筋は示指から小指までのMP関節を伸展します。肘関節には補助的に伸展に作用します。
PIP関節、DIP関節の伸展は総指伸筋と手内筋の協同作用によりなされますが、PIP関節、DIP関節の伸展に総指伸筋が優位に関わるのは,MP関節が屈曲位にあるときです。
MP関節が伸展位では中心束、外側束が弛緩しその機能を失います。
総指伸筋は各指に向かう腱に対応し筋束が存在しますが、その独立性は非常に乏しく総指伸筋の作用は個別の指の伸展というより示指から小指の総伸展作用と捉えたほうがよいでしょう。
力強く握る動作(powergrip)では,手関節の背屈位固定にも関与します。
握力を鍛えるうえでは手内在筋と手背在筋のバランスが拮抗していなければいけませんので握力を鍛える方は屈筋群だけでなくこの総指伸筋も一緒に鍛えることが重要です。
筋肉データ
項目 | 内容 | ||||
神経 | 神経支配:橈骨神経の深枝(C6~8) | ||||
起始 | 上腕骨外側上顆、外側側副靱帯、橈骨輪状靱帯、前腕筋膜 | ||||
停止 | 中央は中節骨底、両側は合わさって末節骨底 | ||||
作用 | 第2から第5DIP・PIP・MP関節の伸展、手関節の背屈 | ||||
筋体積 | 29㎤ | ||||
筋線維長 | 11.6cm | ||||
速筋:遅筋(%) | 52.7:47.3 | ||||
PCSA | 2.5㎠ | ||||
栄養血管 | 後骨間動脈 |
臨床での観点
上肢外傷後の橈骨神経麻痺のチェックには指の伸展ができるか否かは重要な観察のポイントである。特にMP関節の伸展が十分にできるかどうかをみることが大切です。
PIP関節等は手内筋により伸展ができるため麻痺を見落とす場合があります。上腕骨外側上顆炎では短橈側手根伸筋とともに総指伸筋は疼痛の引き金になる場合が多いです。
十分な握力の回復には深指屈筋、浅指屈筋の強化も大切ですが手関節の固定に作用する総指伸筋の強化もあわせて必要です。
前腕回内制限に伴う輪状靱帯の伸張部位として総指伸筋が位置する区画が大きく関与します。
余談ですがワールドストロンゲストマンコンテストという怪力自慢の世界チャンピオンのマグナス・サミュエルソンは握力が192㎏もありますがその驚異的な握力を発揮するためにも関節の固定力は重要です。
コアが固定されることで四肢は十全な力を発揮できますのでフォースカップルさせることは非常に重要な役割を果たします。
関連する疾患
・総指伸筋腱断裂
・上腕骨外側上顆炎
・橈骨神経麻痺
・後骨間神経麻痺
・前腕回内制限