骨格筋の機能
①運動出力器官
筋肉には色々な分類がありますが、自力で運動可能かどうかという分け方では、自分の意志で動かすことができる随意筋と自分の意志で動かすことができない不随意筋の2つがあります。
この随意筋は主に骨格筋を不随意筋は内臓筋を担当しています。このうち運動出力で関節運動や関節の固定性を生み出しているのは骨格筋です。筋肉は大小合わせて約600程の筋肉が存在しその40%程度がこの骨格筋です。
骨格筋は更に速筋(白筋:typeⅡ)遅筋(赤筋:typeⅠ)中間筋(ピンク筋:typeⅡa)と分けられ収縮速度や持久性の異なる筋で組み合わされることで運動特質を持たせます。
例えば瞬発力の高い運動を継続すれば速筋の肥大により筋力や収縮速度の高い運動が得られます。そしてマラソンなどの持久性の高い運動を継続すれば遅筋の割合が増えて疲労しにくい有酸素性の筋構成となります。
また、筋肉には姿勢を保持するために姿勢反射として伸張反射を有しておりその感度を高めるために筋緊張(tone)を持っています。
単関節筋は関節の安定性を2関節筋は運動性を強く発揮します。
白筋と赤筋の線維比率は変わらず、筋線維の断面積が増加するのみと長年言われてきましたが、近年ではtype線維の割合自体が変化することが分かっています。
特に廃用症候群の状態では優位に赤筋が減少しtypeⅡa線維であるピンク筋は白筋線維(typeⅡb)線維へと変化することが分かっています。またボディービルダーのような高強度負荷のトレーニングで鍛えた筋は赤筋のtypeⅠ線維がtypeⅡa線維に切り替わることが分かっています。
意外なことに高強度の負荷では白筋化すると思っていましたが、超回復の連続やある程度の阻血を伴わせる頻度や回数により毛細血管の新生やミオグロビンの増加による酸化能が向上することが、ピンク筋への変化の原因かもしれません。
②発熱器官
筋肉はその収縮や弛緩により熱を産生しています。体温の主な熱源は筋肉と肝臓ですが筋肉は全身の体温の約60%程度の熱を作り出しており、また基礎代謝の40%を担っています。
筋肉の収縮にはATPを利用しますのでその合成熱や分解熱は科学的エネルギーとともに発生し、また収縮によるミオシンとアクチンの摩擦によっても熱が生み出されます。この筋収縮の際に消費されるエネルギーの約50%が熱として放散されています。
またこの機能を活かし、水中や寒い場所など低温環境では体温が下がってしまうので、ふるえ性熱産生(シバリング)による体温上昇も行います。これを行動性体温調節といいます。
シバリングでは1分間で最大200~250回の不随意的運動(震え)により短時間の場合は安静時代謝の最大6倍の熱を産生し長時間であれば約2倍の熱を産生します。
上記以外に体温を作り出している主なメカニズムは代謝によるものです。
この代謝には基礎代謝量・安静時代謝量・運動時代謝量があります。基礎代謝量は特に何もしなくても生命維持のみで使用されるエネルギー量です。
安静時代謝量はこの基礎代謝に体温維持のために特異動的作用(食事誘導熱産生:DIT)や体温維持の加算量を加えたものです。
運動時代謝はその通り運動時に代謝する量であり運動強度や活動内容によって変動します。運動時の体熱産生は最大で安静時の30倍にも及びます。
上記の2つは別々の文献からとられており、その割合が異なるため2つ掲載しました。このデータの詳細な差異は不明ですが、共通して分かることは熱産生において筋肉と肝臓は大きな役割を担っていることが分かります。
そしてこのうち筋肉のみが量を意識的に増大させることができる器官となります。
また上記のデータ間に関与されているであろう因子に『脱共役タンパク質』(uncoupling protein: UCP)があると考えられます。
UCPにはミトコンドリアとATPの共役(連絡)を阻害し、科学的エネルギーをATPに変換せず直接熱エネルギーに変換する役割があります。
このUCPはUCP-1という褐色脂肪細胞から発見されたもの、UCP-2という白色脂肪細胞から発見されたもの、そして骨格筋から発見されたのがUCP-3となります。
いずれも働きは同じでミトコンドリア内のエネルギーを直接熱に変換させる働きとなります。
このように筋肉はあらゆる方法で体熱を作り出しているのです。
冷え性は女性に多く男性には比較的少ない傾向がありますが、自律神経、毛細血管の発達程度など一概に筋肉量のみ決定因子とは言えませんが筋肉の量は大きく関与していると考えられます。
③衝撃緩衝作用
筋肉には衝撃から身を守る働きがあります。筋肉は弾性体なのでゴムのような性質を持ち、加えられた外力による変性から元の状態に戻る働きがあります。
その特性により骨や臓器、血管などへの衝撃を緩衝しています。
下腿の筋肉を見てみると歩行時の推進力を作るために下腿三頭筋という強力で大きな筋が脛骨の後方についていますが、脛骨前方の筋ボリュームは非常に少ないため『弁慶の泣き所』と言われ衝撃緩衝が少ないため机にぶつけると非常に痛い思いをします。
また、鎖骨も筋ボリュームの少ない部位であり長管骨でもあるのでコンタクトスポーツでは骨折しやすい骨です。
このように筋には衝撃から骨や内臓を保護する働きがあります。
また海外ドラマの『BONES』のジャック・ホッジンズ博士がいつも面白実験をしているように日本でも面白い研究がなされています。
小倉₁₎によると衝撃力に対する筋肉及び皮下脂肪の緩衝性能の実験では豚皮と、いくつかの厚みのある豚肉にそれぞれ打撃を与えて衝撃力の測定がなされているのですが、この結果によると4㎝程度の皮付き豚肉の衝撃緩衝能力は皮のみのものと比較して10倍程度あると報告されています。
この結果から筋肉があるということで転倒やコンタクトスポーツにおける怪我を防ぐ効果は非常に高いと言えます。
また筋肉は関節運動を用いて衝撃緩衝を行うことも可能です。ローディングレスポンスやダブルニーアクションがそうであるように、筋肉は主に遠心性収縮を用いることで減速や衝撃緩衝を行っています。
改めて筋肉の恩恵を感じる素晴らしい実験であると思いますね。
参考:『小倉崇生ら;実験力学 VOL.11 No.1 pp18-21(2011.3)』
④エネルギー貯蔵機能
膵ランゲルハンス島β細胞から放出されるインスリンはアナボリックホルモン(筋合成ホルモン)と言われ筋肉の成長に欠かせないのですが、このインスリンには血中グルコース(糖)をグリコーゲン(糖)に変換し筋肉と肝臓に貯蔵する働きがあります。
同時にたんぱく質も輸送しているのでこの働きによっても筋肥大がおこります。
この様に筋肉は糖を貯蔵する働きがあります。人間が運動する際には最初にクレアチンリン酸を消費しATPを合成します(ATP-CP系)。
次に血中グルコースや筋グリコーゲン・肝グリコーゲンを一定量消費します(解糖系)その後脂質を燃焼させます(酸化系:有酸素系)
このサイクルを利用してもエネルギーが枯渇している場合にはオートファジー(自食作用)が働き、身体を構成している筋を分解することでエネルギー源(ケトン体)
を作り出します。この様に筋肉はエネルギーを貯蔵し時にエネルギー源そのものにも成りうるのです。
⑤筋ポンプ作用(ミルキングアクション)
心臓のポンプにより動脈血は全身に行き渡ります。その後、筋肉は収縮と弛緩を繰り返すことで末梢血管の静脈血に圧力を加えポンプさせることで心臓へと返します。
このポンプ作用は普段の筋緊張のような微細な収縮と弛緩でも発生しており、麻痺を起こして筋緊張が低下したり過緊張を引き起こすと浮腫の原因となります。
また人間は2足歩行をするので心臓と下肢には重力によって大きな落差(縦距離)が生じており血液は下肢に貯留しやすい構造となっています。
そのまま下肢の浮腫を長期間経過させると下肢深部静脈血栓症(DVT)などの原因となり血栓による脳塞栓や肺塞栓へとつながる危険性があります。
そのため下肢には特に強いポンプ作用があり、下腿三頭筋は『第2の心臓』とも言われています。この第2の心臓は大腿を含めることも多く下肢全体がまるで心臓のような大きなポンプであることが分かります。
⑥内分泌器官
筋肉は内分泌器官としてホルモンの放出も担っています。
筋肉からの分泌ホルモンを総称してミオカイン(マイオカイン)といいます。
主に免疫細胞から分泌されるタンパク質で生理活性化作用を持つものをサイトカインと呼びますが、これは筋肉からでるサイトカインということでマイオカインと呼ばれています。
以下が代表的なミオカインとなります。
IL-6(Interleukin-6:インターロイキン)
SPARC(Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine)
FGF-21(Fibroblast growth factor-21)
イリシン(Irisin:アイリシン)
IGF-1(Insulin-like growth factors:インシュリン様成長因子)
デコリン(Decorin:デコリン)
マイオカインは300種類以上あると言われており、その全てを記載することは出来ませんが、以上の様に筋肉は内分泌器官としても働きます。
また、どのような生理活性物質にも反対の性質を持つ反物質があり、お互いにその生理活性作用を抑制し合うことでバランスをとっています。
ミオカインがアナボリック(同化)に働くホルモンであるならば、その反対はカタボリック(異化)に働くミオスタチン(マイオスタチン)と呼ばれるものがあります。
正確には異化に働くというよりも筋が異常肥大して巨大生物になるのを抑制するために同化抑止として働いています。
このミオスタチンは筋肉トレーニングで筋が阻血しケミカルストレスを受けた場合や、筋の微細損傷した際に生じる微弱電流によってATPの産生能力が向上する際にも減少します。このミオスタチンが減少したことで筋合成の抑制が解放されアナボリック(同化)が始まり筋肥大するのです。
筋トレ→阻血(ケミカルストレス)・筋の微細損傷(メカニカルストレス)→ミオスタチン減少→筋の同化促進(超回復)という形で筋肉は肥大していくわけですね。
上記のインターロイキンなどは炎症メディエーターとしても働いており炎症反応を起こす物質ですが、筋活動中に筋から放出している際には抗炎症作用として働くなど効果は全く異なります。
このようにホルモンの多くは放出される部位やレセプター(ホルモンの受容器)によって働きが大きく変化することが多いです。どのため紛らわしく感じることもありますが、下肢の筋力トレーニングは慢性炎症や呼吸器疾患に有効であることが報告されています。
⑦内臓の運動機能
内臓の運動も勿論の事ですが筋肉が働いてこそ機能します。しかし平滑筋は元々、不随意筋なので鍛えることは出来ませんね。理学療法では直接内臓の筋肉にアプローチする場面は少ないと思いますが、最近では姿勢や疼痛に対して内臓へアプローチする事が多くみられます。
一番多く内臓への筋のアプローチ場面があるとすれば骨盤底筋群があげられるでしょう。例えばhip‐lumber‐rhythmでは多裂筋の収縮が拮抗的に腸腰筋、内閉鎖筋へと同時収縮を促していますが内閉鎖筋は腸骨尾骨筋へと接続しているのでその緊張を伝えることが可能です。
このように間接的ではありますが理学療法にも内臓へのアプローチは可能です。
呼吸機能に関しても横隔膜は随意的に収縮を強めることが出来ますので、ドローインで腹横筋を収縮させ肛門を締めれば腹腔内圧を高める運動として使えます。
とはいえ、イメージ的には消化器の蠕動運動のイメージと心筋の収縮イメージが強いですね。