高電圧電気刺激法とは(high voltage stimulation:HVS)
従来、電気療法で使用されてきた刺激装置は100V 以下の低電圧直流刺激装置がほとんどでしたが、1970年代から300〜500V 出力の高電圧刺激装置(high voltage stimulation: HVS)が開発され,臨床応用されるようになりました。現在,HVSは不快な刺激感覚の少ない電気刺激法として種々の疾患に用いられています。
HVSの臨床効果
(1) 疼痛抑制効果
HVSもTENSと同様にその主たる効果は疼痛抑制にあります。その機序はTENSと同様で内因性疼痛抑制機構の関与(オピオイド物質の放出)、ゲートコントール理論、末梢神経伝導ブロック作用などによっています。
HVSと他の電気刺激による疼痛抑制効果の比較はこれまであまり研究されておらず、どちらがより勝っているとは言えません。
(2) 血液循環増大効果
運動神経を刺激すれば、それに支配される骨格筋が収縮します。間欠的電気刺激は筋の断続収縮を引き起こし、それによって組織の小静脈還流は促進されることになります。
この現象は筋ポンプ作用と呼ばれています。臨床的には筋ポンプ作用によって組織の間質液圧も増大し、組織に貯留した間質液の静脈への還流が促進されて浮腫の軽減がもたらされます。
体性感覚神経線維と交感神経線維の間のシナプス結合は最も単純な形としては軸索反射として知られていますが、感覚神経の興奮は交感神経の興奮を抑制し、それによって血管平滑筋の弛緩が生じ血液循環は増大します。
これは体一交感神経反射として知られています。一方、内因的血管拡張機構についてもこれまで多くの議論がなされてきましたが、近年セロトニン作用機構が注目されるようになってきました。セロトニンは神経伝達物質として知られていますが、電気刺激によってセロトニンの生成増加が促進され、交感神経に対する下降性抑制経路が遮断されるために末梢血管の拡張が生じるのであろうと推測されています。
(3) 皮膚潰瘍および創傷治癒効果
電気刺激は皮膚潰瘍周囲の微小循環を改善ることが期待できます。マイクロカレント(微細電流)などの治療でも明らかにされていますが、低周波の治療では損傷細胞を修繕するためのエネルギーとして通常よりも多くのATPが生産、消費されることでより早く細胞分裂を促し治療効果を高めることが分かっています。
電気治療に関しては全体的に除痛効果がメインですが筋肉を断続的に収縮させることで筋ポンプ作用が生じます。筋肉が収縮と弛緩を繰り返すことで血管に圧力を加え、これにより静脈浮腫、リンパ浮腫の改善が図られます。
浮腫の改善はヘマトクリットの改善にもなりますし拘縮予防にも繋がります。
特に下肢の浮腫は下肢深部静脈血栓症(DVT)につながり、運動不足や麻痺肢にとっては大きな問題となっています。これはあくまで物理療法で運動療法の補助ですが、浮腫のある部分のドレナージは皮膚の過度な伸長により痛みが伴います。
この治療後は除痛の持ち込み現象による除痛効果と筋ポンプ作用で浮腫が軽減されていますのでその後歩行訓練やカーフレイズなどの筋力トレーニングを行えばより効果的です。