パラフィン浴とは
バラフィン(蝋)は熱伝導率が小さく(水の0.42倍)熱がゆっくり生体に放出されるため、バラフィン浴(50〜55C)に患部を入れても水(湯)の場合に比べそれほど熱く感じない。そしてなかなか冷めにくいため浴槽から患部を取り出してからも温熱効果がある。さらにパラフィンが空気にさらされると皮膚一薄い空気層一パラフィン被膜の層構造になるため保温性が高い。また汗はパラフィン膜を通過できないので皮膚とパラフィン層の間に貯留される。
実施方法
固形パラフィンを浴のなかで加熱溶解させ、50〜55Cの間にセットする。
パラフィン浴浸法:間欠浴と持続浴がある。
間欠浴
①多くの場合51℃前後の温度で行い、石鹼で洗浄された手指、手、肘関節をパラフィン浴槽に2〜3秒浸しすぐに患部を上げる。数秒で白く固くなる。
②この過程を7〜10回繰り返す(グローブ様にパラフィンが付着する。)
③パラフィンが付着した部位にピニールをくるみ、その上からパスマットなどでさらに包む。
④(20分保温する(手指や手関節の浮腫の場合では坐位で肩90、肘90屈曲位に保持すると効果的である)。1日1〜2回行う。
一般的な方法でパラフィン自体が段々珍しくなっている世の中だと思いますが、その中でも最も浸透している方法だと思います。(私見です)
空気と蝋の層により保温効果が高くホットパックに比べて格段に温熱効果は高いです。また湿熱なので深達率も高く手指などの複雑な形状にもマッチするので非常に効果的です。
出来るだけ深くつけていき、同じ高さにならないようにパラフィンを付けていかないと先に作ったパラフィン層に入り込んでしまうので注意しましょう。
グローブを作れば場所を移動できるので他に運動や別の物理療法を受けることも可能です。
持続浴
浴槽から患部を上げたり下ろしたりしないで、10分ほど持続的に患部を浸す。
この方法ではパラフィンにつけっぱなしなので温度は常に一定であり高い温熱作用が期待できます。しかし、パラフィンタンクの前に患者さんが止まってしまうので、一度に複数の患者さんを回転するには不向きです。
また、グローブ様にする間欠法ならば場所を移動できるので姿勢を一定にすることなく好きな場所で温熱が得られますが、この場合はそれに集中するので場所も時間もかなり取られてしまうというデメリットもあります。
塗布法
浴浸できない背部、大腿部などの部位に対して行う。
①石鹸で洗浄し患部をタオルで拭いた後に、溶けたパラフィンを刷毛で患部を7〜10回塗って厚い膜層をつくる。
②ビニールで患部をくるみその上からパスマットで包み保温する。
③以下、パラフィン浴浸法と同様。
やっているところを見たことがありませんが、パラフィンの性質を考えれば背中などのパラフィンを付けづらい部分も刷毛で対応でき、熱伝導率が小さいので比較的長時間の温熱効果が期待できます。
しかもホットパック同様に患者さんが離れたベッドにいても使用できるので利便性を考えれば持続法よりも使える場面もあるかもしれませんが、ホットパックの使用で代用されることが多いともいます。
パラファンゴ法
固形パラフィンとペロイドを混合させたものを防水布の上に1、2cmの厚さに伸ばし、患部の形に合わせ30分ほど保温する方法で、粘土様の塑性を利用している。
チョコレートのように固まっているものを鍋で60℃位に溶かし布に塗って軟膏の様に患部を包みます。その上からタオルをかけて保温します。
この方法も手間がかかりすぎてしまいホットパックの利便性に劣ると思いますので実際に使われることはないと思います。(私見です)
生体に加わる熱エネルギー(パラフィンVS水)
55℃のパラフィンを皮膚に浸潤しても同温の水(湯)に比べ熱くは感じない。これはパラフィンの熱伝導率が水に比べ小さい(水の0.42倍)および比熱(水の0.69倍)が水に比べ小さいためである。すなわちパラフィンと皮膚との境界面の温度が55Cに達するのは水より時間を要すること(熱伝導率の相違)とパラフィンの比熱は水に比べ小さいので境界面のパラフィンは冷めやすい(比熱の相違)ためである。これらのことから、パラフィンの生体に加わる熱エネルギーは水に比べ少ない。この現象と類似したものとして,サウナ浴(80C)と同温の水の例があげられる、サウナ浴での生体に加わる熱量は水に比べ少ない(空気の熱伝導率は水の0.04倍であり,比熱は0.24倍である)ことに加え、発汗作用で皮膚面を冷却する、これらの要因から、サウナ浴では火傷を生じない。
これらの条件を満たすことでパラフィンはホットパック以上に温熱効果が高いと言える。しかし難点は管理の問題である。タンクの洗浄やパラフィン自体が皮脂の汚れなどによって交換が必要となるのでコストが高く効果のわりに病院での利用度は低いと感じる(私見です)しかし、リウマチなどの細かい手指の部分にも満遍なく温熱作用を期待できるのでリウマチ科などでは有用だと考える。
注意
火傷
2回め以降のパラフィン浴浸や塗布時では1回めのパラフィン膜付着部位より内側にパラフィンが付着するように試みる。2回め以降のパラフィン付着が1回めの部位よりはみでると温度上昇したところにさらに新しいパラフィンが加わるため火傷の危険が高くなる。パラフィン膜のひび割れを生じた場合も同様の理由で火傷しやすくなるため、はじめからやり直す必要がある。
火気厳禁
パラフィンは引火性であるため周囲の火気に注意する。
生理学的作用
温熱作用
皮膚温は、パラフィン浴浸後2分間で約12℃の温度上昇を示す。その後、患部を保温しても下降し約30分で開始時に比べ約8℃の温度上昇を生じる。筋部では2〜3℃の上昇である。生体の1~2cmまでの表在温度は、超短波、マイクロ波、超音波よりも高くなる(Borreiiら)。また、パラフィンの冷却曲線をみると、他の湿布材料に比べ容易に冷めないことが理解でき、パラフィンが図の物質に比べ比熱の大きいことを物語っている。なお皮膚温は身体部位により異なり一般的に身体近位部の皮膚音は高く手足は低い。
充血作用
皮膚の温度調節反応により皮簡充血が生じる。しかし、筋内の血管拡張はほとんどないとされている。
鎮静作用
パラフィン浴の大きな特徴は組織に対する鎮静効果であり、乾熱では得られない効果をもつ。したがって、関節可動域改善訓練などの運動療法の前治療として用いられる。
適応
疼痛:打撲、捻挫、関節拘縮、リウマチ、変形性関節症、腱鞘炎、腰痛、肩手症候群など(いずれもホットパックと同様に急性期は禁忌となる、手指や手関節のような遠位部を対象にするときはパラフィン浴浸法が用いられる)。
禁忌
①あらゆる疾患の急性期
②悪性腫瘍
③出血傾向の強いもの
④知覚麻痺
⑤アレルギーなどの皮膚疾患