進行性核上性麻痺

進行性核上性麻痺とは

進行性核上性麻痺とは、脳幹や大脳基底核などの神経細胞が徐々に障害され、転倒しやすさ、眼球運動障害、構音障害、嚥下障害、動作緩慢などが進行していく神経変性疾患です。英語では progressive supranuclear palsy(PSP)と呼ばれます。日本では指定難病として扱われており、40歳以降に発症し、特に50〜70歳代でみられることが多いとされています。

「パーキンソン病に似ているが、少し違う」と感じられることが多い疾患で、特に早期からの転倒下を見にくくなる眼球運動障害が特徴です。進行すると日常生活動作全般に影響し、転倒外傷や誤嚥性肺炎が大きな問題になります。

進行性核上性麻痺は、神経内科、脳神経内科、リハビリテーション科、回復期・生活期の臨床でみることが多いです。患者さんの訴えとしては、「最近よく後ろに倒れる」「歩き出しにくい」「下を見にくい」「話しにくい」「むせやすい」といった形で気づかれます。

また、家族や介護者が先に異変に気づくことも少なくありません。たとえば、注意しても転倒を繰り返す、食事中にむせる、表情が乏しくなる、反応が遅くなるといった変化が、受診のきっかけになることがあります。

何をみているのか

進行性核上性麻痺でみているのは、単なる「歩きにくさ」ではなく、姿勢反射障害、眼球運動障害、体幹優位の筋強剛、構音・嚥下機能、前頭葉症状がどのように組み合わさっているかです。

特に重要なのは、パーキンソン病に似た動作緩慢があっても、PSPでは後方へ倒れやすい上下方向、特に下方視が障害されやすいレボドパが効きにくいといった違いがある点です。つまり、動きが遅いこと自体よりも、「どのようにバランスを崩すか」「目がどの方向に動かしにくいか」「食事や会話にどのくらい影響しているか」をみることが大切です。

臨床でどうみるか

臨床ではまず、立ち上がり、方向転換、歩き出し、停止、座り直しなどの基本動作を観察します。進行性核上性麻痺では、姿勢が反り返りやすく、後方へ不意に倒れることがあります。また、バランスを崩したときに手で防御しにくいため、顔面を直接ぶつける外傷につながることがあります。

眼球運動については、追視や指標追跡、上下方向の随意運動を確認します。発症早期には明らかでないこともありますが、経過の中で下方視障害が目立ってくると、階段や段差の移動が急に危険になります。

さらに、会話の明瞭さ、食事中のむせ、咳払いの有無、食事時間の延長、疲労時の飲み込み低下なども重要です。認知機能面では、記憶障害そのものよりも、反応の遅さ、保続、注意障害、危険認知の低下、意欲低下などの前頭葉症状が生活上の問題として出やすいです。

評価で何をみるか

  • 初期からの転倒歴、特に後方転倒の有無
  • 立位・歩行での姿勢反射障害、加速歩行、すくみ足の有無
  • 頚部後屈や体幹の反り返り、軸性筋強剛の程度
  • 上下方向、特に下方視の障害や追視の遅さ
  • 構音障害の有無、発話の不明瞭さ
  • 嚥下障害、むせ、食事時間延長、誤嚥リスク
  • 注意障害、保続、危険認知低下、反応の遅さ
  • 日常生活での移乗、方向転換、階段、トイレ動作の安全性
  • レボドパへの反応性
  • MRIなど画像所見や他疾患との鑑別状況

臨床でよく出る問題

  • 早期から転倒を繰り返しやすい
  • 後ろに倒れやすく、顔面や頭部の外傷リスクが高い
  • 下方視障害のため段差や階段が危険になる
  • 話しにくさが進み、コミュニケーションがとりにくくなる
  • 嚥下障害により食事量低下、脱水、誤嚥性肺炎のリスクが高まる
  • 反応の遅さや危険認知低下により介助場面でも事故が起こりやすい
  • 進行とともに移動・更衣・排泄などADL全般が低下する

進行性核上性麻痺では、運動症状だけでなく、視線、嚥下、認知・行動面の問題が重なって生活障害を大きくします。そのため、歩行訓練だけでは不十分で、食事、住環境、介助方法まで含めて考える必要があります。

起こりやすい要因

進行性核上性麻痺は、脳幹、大脳基底核、小脳関連領域などに神経変性が起こり、神経細胞やグリア細胞にリン酸化タウ蛋白が蓄積することで発症すると考えられています。ただし、なぜその変化が起こるのかはまだ完全には解明されていません。

臨床症状として現れやすい背景には、以下のような機能障害があります。

  • 姿勢反射障害によるバランス喪失
  • 軸性筋強剛による頚部・体幹の動かしにくさ
  • 核上性注視麻痺による視線移動の障害
  • 前頭葉機能障害による注意・判断・行動調整の低下
  • 球麻痺症状による構音障害・嚥下障害
  • 進行性疾患であることによる全身機能の低下

注意したい症状

  • 発症早期から繰り返す転倒
  • 後方へ倒れる、受け身がとれない
  • 下を見るのが難しい、階段で足元を確認しにくい
  • むせ込みが増える、食後に湿った声になる
  • 短期間で食事摂取量や体重が落ちる
  • 会話が急に聞き取りにくくなる
  • 反応低下や危険認知低下により事故が増える
  • 発熱、痰、咳、呼吸状態悪化など肺炎を疑う所見がある

特に、早期からの嚥下障害は予後不良と関連しやすく、また主な死因として肺炎や窒息が挙げられます。転倒外傷と誤嚥関連合併症は、進行性核上性麻痺で特に注意したい問題です。難病情報センター NINDS

対応の基本

進行性核上性麻痺の対応では、病気そのものを止める治療が確立していないため、転倒予防、誤嚥予防、コミュニケーション支援、生活機能維持が中心になります。薬物療法としてはレボドパが試されることがありますが、効果は限定的または一時的なことが多いです。

  • 頚部・体幹のストレッチ
  • バランス訓練と安全な移動練習
  • 転倒しにくい環境設定と介助方法の指導
  • 言語訓練による発話の補助
  • 嚥下訓練、食形態調整、とろみ調整
  • 必要に応じた歩行補助具や車椅子の導入
  • 家族・介護者への疾患理解と見守り方法の共有

リハビリテーションのエビデンスはまだ十分とはいえませんが、既存研究では、理学療法プログラムがバランス、歩行、視線コントロールの改善に役立つ可能性が示されています。実際の臨床では「治す訓練」よりも、「今ある能力を安全に使い続ける工夫」がより重要です。

ひとことで言うと

進行性核上性麻痺とは、早期からの転倒、下方視障害、構音・嚥下障害を特徴とする進行性の神経変性疾患です。

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参考文献・出典

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