習慣性脱臼とは
習慣性脱臼とは、一度脱臼した関節、またはもともと不安定性のある関節が、軽い動作や日常動作の中で繰り返し外れてしまう状態のことです。英語では habitual dislocation や recurrent dislocation などと表現されます。
ポイントは、単なる一回の外傷性脱臼とは分けて考えることです。習慣性脱臼では、関節を支える靱帯、関節包、関節唇などの支持組織が傷んでいたり、骨の形態や関節弛緩性の影響があったりして、関節の安定性が保てなくなっています。つまり「外れた」という出来事だけでなく、なぜ繰り返すのか をみる必要がある病態です。
どこでみるのか
整形外科、救急外来、スポーツ整形、リハビリテーション科などでよくみます。特に多いのは肩関節で、若年者やスポーツ活動の多い人では、一度の初回脱臼をきっかけに再発しやすくなります。
また、肩関節だけでなく、膝蓋骨、顎関節などでもみられます。患者さんの訴えとしては、「また外れた」「少し動かしただけで抜けそうになる」「怖くて腕を上げられない」「膝を曲げると外れそう」「大きく口を開けると顎が外れる」といった形で出会うことがあります。
何をみているのか
習慣性脱臼でみているのは、単なる痛みの強さではなく、関節の不安定性 がどの程度あり、どの動きで外れやすく、どの組織が安定性低下に関与しているかです。
たとえば肩関節では、初回脱臼後に関節唇や靱帯の付着部が傷ついたままになると、関節が不安定になり、軽い外力や挙上・外旋動作で再脱臼しやすくなります。膝蓋骨では骨格アライメントや関節弛緩性が関与しやすく、顎関節では大きな開口をきっかけに脱臼が反復することがあります。
つまり、「どこの関節が外れるのか」だけではなく、外れやすい背景 を整理することが大切です。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、どの関節で、どの動作で、どのくらいの頻度で脱臼するのかを確認します。初回の受傷機転がはっきりした外傷なのか、その後は軽い動作でも外れるのか、自然整復するのか、医療機関で整復が必要なのかといった経過が重要です。
次に、関節の不安定感、可動域制限、筋力低下、恐怖感、日常生活やスポーツへの支障をみます。肩関節なら挙上・外旋での不安感、膝蓋骨なら膝伸展位での外側不安定感、顎関節なら開口時の再脱臼しやすさなど、関節ごとの特徴を押さえる必要があります。
さらに、画像検査で骨折の有無、骨欠損、関節唇損傷、形態異常などを確認し、保存療法でよいのか、手術が必要なのかを判断していきます。
評価で何をみるか
- どの関節が脱臼しているか
- 初回脱臼の受傷機転とその後の再発回数
- 軽微な動作で外れるか、強い外力が必要か
- 不安定感、脱力感、恐怖感の有無
- 可動域、筋力、支持性の低下
- 関節弛緩性やアライメント異常の有無
- 靱帯、関節包、関節唇など軟部組織損傷の有無
- 骨欠損や形態異常の有無
- 日常生活動作やスポーツ動作への影響
- 保存療法で安定化するか、再発が続くか
臨床でよく出る問題
- 同じ関節を何度も脱臼する
- 「外れそう」という不安感が強くなる
- 関節を大きく動かせなくなる
- スポーツや仕事への復帰が難しくなる
- 筋力低下や廃用が進みやすい
- 再脱臼のたびに軟部組織損傷が重なる
- 骨欠損や関節変性が進行することがある
- 痛みよりも不安定感が主訴になることがある
習慣性脱臼では、毎回強い痛みが出るとは限りません。そのため、「痛みが軽いから大丈夫」と判断されやすい一方で、実際には不安定性が残っていて、生活や競技に大きな影響を与えていることがあります。
起こりやすい要因
習慣性脱臼は、関節の安定性が低下することで起こります。代表的な要因は次の通りです。
- 初回脱臼で靱帯や関節唇、関節包を損傷している
- 若年発症で再脱臼しやすい
- 接触スポーツやオーバーヘッド動作の多い競技をしている
- 関節弛緩性がある
- 骨格アライメントや骨形態に脱臼しやすい特徴がある
- 周囲筋の筋力低下や協調性低下がある
- 固定不足や復帰時期の早さなどで初回治療が不十分だった
肩関節では、初回脱臼後に関節唇が剥がれたままだと不安定性が残りやすく、若い人やスポーツ選手では特に再発しやすくなります。膝蓋骨では解剖学的素因や関節の柔らかさが重なりやすく、顎関節では過度の開口を契機に再発することがあります。
注意したい症状
- 脱臼後に明らかな変形が戻らない
- しびれや感覚低下を伴う
- 脈が触れにくい、血流障害が疑われる
- 骨折を疑う強い痛みや腫脹がある
- 整復してもすぐ再脱臼する
- 安静にしていても不安定感が強い
- 日常生活の軽い動作だけで何度も外れる
- 競技復帰後に再発を繰り返す
このような場合は、単なる捻挫や一時的な痛みとして扱わず、神経血管損傷、骨折合併、骨欠損、軟部組織損傷の残存などを考える必要があります。再発を繰り返すほど関節の支持機構が傷みやすくなるため、早めの評価が重要です。
対応の基本
対応の基本は、まず整復の必要があるかを判断し、整復後はなぜ再発するのか を明らかにすることです。習慣性脱臼では、単に戻して終わりではなく、安定性の再獲得が目標になります。
- 脱臼直後は整復と固定を適切に行う
- 画像検査で骨折や骨欠損、軟部組織損傷を確認する
- 関節周囲筋の筋力訓練を行う
- 可動域訓練と安定化訓練を段階的に進める
- 再発しやすい肢位や動作を避ける
- スポーツ復帰は不安定感の改善を確認してから行う
- 再発を繰り返す場合や構造的損傷が強い場合は手術を検討する
肩関節では若年者やスポーツ選手で手術が必要になることがあり、膝蓋骨脱臼では装具や筋力訓練で不安定性が残る場合に靱帯再建や骨切り術が検討されます。顎関節でも習慣性になると外科的治療が必要になることがあります。つまり、保存療法が基本であっても、繰り返す不安定性そのものが治療対象 になります。
ひとことで言うと
習慣性脱臼とは、関節の安定性低下を背景に、同じ関節が軽い動作でも繰り返し外れてしまう状態です。
関連用語
参考文献・出典
- 日本整形外科学会:反復性肩関節脱臼
- 日本スポーツ整形外科学会:反復性肩関節脱臼
- 新百合ヶ丘総合病院:反復性膝蓋骨脱臼
- 日本口腔外科学会:顎関節の疾患
- MSDマニュアル プロフェッショナル版:脱臼の概要
- MSDマニュアル プロフェッショナル版:肩関節脱臼