仙腸関節障害とは
仙腸関節障害とは、仙骨と腸骨をつなぐ仙腸関節に機械的な機能不全や微小な不適合が生じ、腰殿部痛や関連痛を引き起こす状態です。炎症性疾患としての仙腸関節炎とは区別して考えることが多く、臨床では「仙腸関節由来の痛み」や「仙腸関節機能障害」として扱われます。
ポイントは、画像で大きな異常がはっきり出ないことも多い一方で、座る、立ち上がる、寝返りを打つ、片脚荷重をするといった日常動作で痛みが出やすいことです。つまり、単純な腰痛として見過ごされやすいけれど、実際には骨盤後方の関節機能が関係していることがあります。
また、痛みは仙腸関節そのものだけに限らず、殿部、鼠径部、大腿後面などへ広がることがあります。そのため、腰椎由来の痛み、股関節障害、神経根症状などとの鑑別が大切になります。
どこでみるのか
仙腸関節障害は、整形外科、脊椎外来、リハビリテーション科、スポーツ現場、慢性腰痛の評価場面でよくみます。特に、画像でははっきりしないのに腰殿部痛が続く人、妊娠・出産後に骨盤周囲痛が出た人、反復動作や片側荷重の多い人で問題になります。
患者さんの訴えとしては、「お尻の片側が痛い」「長く座るとつらい」「寝返りで痛む」「立ち上がる瞬間に痛い」「歩くと骨盤の奥が痛い」といった形が多くみられます。腰痛として受診していても、詳しくみると仙腸関節由来だったということは少なくありません。
何をみているのか
仙腸関節障害でみているのは、単なる圧痛の有無だけではなく、仙腸関節周囲に負荷がかかったときに痛みが再現されるか、骨盤帯の安定性や運動パターンに破綻がないかという点です。
仙腸関節は大きく動く関節ではありませんが、衝撃吸収や荷重伝達に重要です。そのため、ほんのわずかな不適合や過剰な負荷でも、腰殿部痛の原因になることがあります。臨床では、関節そのものの大きな可動性よりも、荷重伝達の破綻や疼痛誘発パターンをみることが重要です。
また、腰椎や股関節の問題でも似た訴えが出るため、「本当に仙腸関節由来か」を見極めることが評価の中心になります。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、痛みの場所を具体的に確認します。仙腸関節障害では、PSIS周囲を患者さんが指一本で示す、いわゆるone finger testが参考になることがあります。そのうえで、座位、立位、歩行、寝返り、立ち上がりなどで痛みがどう変わるかを確認します。
さらに、仙腸関節にストレスを加える疼痛誘発テストを組み合わせて、痛みが再現されるかをみます。単独のテストだけで断定するのではなく、複数の誘発テストや病歴、圧痛、姿勢・動作所見を合わせて総合的に判断することが大切です。
必要に応じて画像評価も行いますが、機械的な仙腸関節障害では画像だけで診断が確定するとは限りません。つまり、問診と身体所見がとても重要な領域です。
評価で何をみるか
- 痛みの部位が仙腸関節周囲に一致するか
- one finger testでPSIS周囲を指し示すか
- 座位、立位、歩行、寝返り、立ち上がりで痛みが増悪するか
- 片脚立位や荷重移動で疼痛が出るか
- 仙腸関節の圧痛の有無
- 疼痛誘発テストで痛みが再現されるか
- 骨盤帯の不安定性や左右差があるか
- 腰椎由来痛や股関節由来痛との鑑別
- 妊娠・出産、外傷、反復動作、脊椎手術歴などの背景
- 炎症性疾患を疑う所見がないか
臨床でよく出る問題
- 片側の殿部痛が続く
- 長時間座位で痛みが強くなる
- 立ち上がりや寝返りで鋭い痛みが出る
- 歩行時に骨盤後方が不安定に感じる
- 鼠径部や大腿後面に関連痛が出る
- 腰椎椎間板障害や股関節障害と区別しにくい
- 慢性腰痛として長く経過しやすい
仙腸関節障害そのものは命に関わる病気ではありませんが、痛みのために座る、歩く、仕事をする、育児をするといった日常生活が大きく妨げられることがあります。だからこそ、単なる「腰痛」として済ませず、痛みの発生源を丁寧に見極めることが大切です。
起こりやすい要因
仙腸関節障害は、仙腸関節に過度または反復的なストレスがかかることで起こりやすくなります。代表的な要因は次の通りです。
- 転倒や尻もちなどの外傷
- 反復的な体幹回旋や荷重動作
- スポーツ動作による繰り返し負荷
- 妊娠・出産に伴う骨盤帯への負荷変化
- 長時間の座位や偏った姿勢
- 片脚荷重や歩行パターンの偏り
- 腰椎固定術後などによる骨盤への負担増加
つまり、仙腸関節障害は「関節が壊れる」というより、荷重伝達のバランスが崩れて痛みが生じると考えると理解しやすいです。
注意したい症状
- 発熱や全身倦怠感を伴う
- 夜間痛や安静時痛が強い
- 両側性で強い炎症症状がある
- しびれや筋力低下がはっきりしている
- 膀胱直腸障害を伴う
- 進行性に症状が悪化する
- 外傷後に荷重不能レベルの強い痛みがある
このような場合は、単なる機械的な仙腸関節障害ではなく、感染性仙腸関節炎、脊椎・骨盤骨折、炎症性脊椎関節炎、神経障害、腫瘍性病変などを考える必要があります。特に夜間痛や全身症状がある場合は注意が必要です。
対応の基本
対応の基本は、まず仙腸関節由来の痛みかどうかを見極めたうえで、痛みを誘発している荷重・姿勢・動作パターンを整えることです。急性期には痛みを強くする動きを避けながら、必要に応じて薬物療法や注射療法を検討します。
- 疼痛誘発動作を把握する
- 腰椎・股関節由来の痛みと鑑別する
- 痛みが強い時期は負荷を調整する
- 骨盤帯や体幹の安定化を図る
- 股関節周囲、体幹周囲の柔軟性と筋機能を整える
- 座位、立ち上がり、歩行など日常動作を修正する
- 必要に応じて骨盤ベルトや注射療法を検討する
- 難治例では専門医による追加評価を行う
リハビリでは、仙腸関節だけを局所的にみるのではなく、腰椎、股関節、体幹、歩行、片脚支持の質まで含めて調整することが実用的です。つまり、痛い場所だけでなく、負荷が集まる動作全体を整えることが基本になります。
ひとことで言うと
仙腸関節障害とは、骨盤後方の仙腸関節に機械的な機能不全が生じ、腰殿部痛を中心とした痛みを起こす状態です。
関連用語
- 仙腸関節炎
- 骨盤帯痛
- one finger test
- 疼痛誘発テスト
- PSIS
- 腰殿部痛
- 骨盤ベルト
- 強直性脊椎炎
参考文献・出典
- StatPearls / NCBI Bookshelf: Sacroiliac Joint Pain
- StatPearls / NCBI Bookshelf: Sacroiliitis
- J-STAGE:仙腸関節障害の治療経験
- 日本脊椎脊髄病学会:仙腸関節固定デバイス 適正使用基準
- 仙腸関節障害について
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