大腿骨頸部骨折とは
大腿骨頸部骨折とは、股関節のすぐ近くにある大腿骨の頸部で起こる骨折です。大腿骨近位部骨折の一部であり、とくに高齢者では転倒をきっかけに生じやすい骨折として知られています。若年者では交通事故などの高エネルギー外傷で起こることがありますが、日常診療で多いのは骨粗鬆症を背景とした高齢者の骨折です。
大腿骨頸部は関節包の内側に位置するため、骨折によって骨頭へ向かう血流が障害されやすいという特徴があります。このため、単に骨が折れるだけではなく、骨癒合不全、偽関節、骨頭壊死といった合併症のリスクを伴います。とくに転位の大きい骨折では、骨を温存しても治りにくいことがあり、治療方針に大きく影響します。
症状としては、股関節部や脚の付け根の痛みが典型的で、多くの場合は立つことや歩くことができなくなります。ただし、転位の少ない骨折や嵌入骨折では、なんとか歩けてしまうこともあり、単なる打撲や捻挫と誤解されることがあります。そのため、高齢者が転倒後に鼠径部痛を訴える場合は、大腿骨頸部骨折を常に考えることが重要です。
どこでみるのか
大腿骨頸部骨折は、整形外科、救急外来、急性期病院、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟などでよくみる骨折です。とくに高齢者医療では非常に重要で、転倒後の歩行不能やADL低下の大きな原因になります。
患者さんの訴えとしては、「転んでから脚の付け根が痛い」「立てない」「歩けない」「足に力が入らない」「お尻や太ももが痛い」といった形で受診につながります。明らかな変形がないこともありますが、重症例では患肢短縮や外旋変形を伴うことがあります。
したがって大腿骨頸部骨折は、単なる骨折としてみるだけでなく、高齢者の転倒、骨粗鬆症、術後のリハビリ、再転倒予防、生活再建まで含めてみる必要がある病態です。
何をみているのか
大腿骨頸部骨折でみているのは、単に「骨が折れているかどうか」ではありません。実際には、骨折部の場所が頸部かどうか、転位があるかないか、骨頭への血流障害リスクが高いか、骨接合で治りやすいか、人工骨頭や人工股関節が必要かをみています。
また、高齢者では「骨折前にどの程度歩けていたか」「もともとの認知機能や生活自立度はどうか」「全身状態が手術に耐えられるか」といった点も重要です。若年者と高齢者では治療の考え方が異なり、同じ大腿骨頸部骨折でも目標が変わることがあります。
つまり大腿骨頸部骨折では、「骨折がある」という事実だけでなく、転位の程度、骨頭壊死や偽関節のリスク、治療後にどこまで歩行機能を回復できるかまで含めてみることが重要です。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、転倒や外傷の状況、受傷後からの歩行可否、痛みの部位、骨折前の歩行能力を確認します。続いて、股関節周囲の圧痛、荷重時痛、下肢短縮、外旋位、他部位の外傷の有無を評価します。典型例では立位や歩行ができなくなりますが、転位の少ない骨折ではなんとか歩ける場合もあるため注意が必要です。
画像診断としては、まずX線検査を行います。X線で明らかな骨折がみつからなくても、鼠径部痛が続き臨床的に強く疑わしい場合にはMRIを追加し、不顕性骨折を確認することがあります。高齢者では「転倒したがレントゲンで異常なし」とされても、痛みが続く場合は再評価が重要です。
治療は多くの場合手術が基本です。転位の少ない骨折では骨接合術が選択されることが多く、転位の大きい骨折では人工骨頭置換術や人工股関節全置換術が選択されることがあります。保存療法は長期臥床による合併症リスクが高いため、一般的ではありません。
評価で何をみるか
- 股関節部、鼠径部、殿部、大腿部の疼痛
- 立位・歩行の可否
- 受傷機転(転倒、捻り、高エネルギー外傷など)
- 患肢短縮や外旋変形の有無
- 股関節の自動運動・他動運動での疼痛
- 骨折部の転位の有無
- X線での骨折確認
- X線で不明な場合のMRIの必要性
- 骨頭壊死や偽関節のリスク
- 骨折前の歩行能力・ADL
- 骨粗鬆症の有無
- 認知機能やせん妄リスク
- 全身状態と手術耐容性
- 術後の荷重条件
- 再転倒や二次骨折のリスク
大腿骨頸部骨折の評価では、骨折そのものだけでなく、なぜ転倒したのか、もともとどの程度動けていたのか、術後にどこまで戻せそうかをみることが大切です。そのため、整形外科的評価と生活機能評価をあわせて考える必要があります。
臨床でよく出る問題
- 転倒後に立てなくなる
- 脚の付け根に強い痛みが出る
- 歩けても痛みで急に歩行不能になる
- 転位が少なく見逃される
- 高齢者で寝たきりにつながりやすい
- 骨接合後に偽関節や骨頭壊死を起こすことがある
- 術後に筋力低下や廃用が進みやすい
- せん妄や肺炎、深部静脈血栓症などの合併症を起こしやすい
- 骨折前より歩行能力が低下しやすい
- 再転倒・再骨折を起こしやすい
大腿骨頸部骨折は、骨が治ることだけが問題ではありません。高齢者では受傷をきっかけに活動量が急激に低下し、歩行能力、排泄、更衣、入浴、屋外移動などが大きく落ち込みやすいのが問題です。そのため、骨折治療と同時に生活機能低下をどう防ぐかが重要になります。
起こりやすい要因
大腿骨頸部骨折が起こりやすい背景には、次のような要因があります。
- 骨粗鬆症
- 高齢
- 転倒
- 筋力低下
- バランス障害
- 視力低下
- 認知機能低下
- 屋内環境の段差や障害物
- 歩行補助具の不適切使用
- 若年者では高エネルギー外傷
とくに高齢者では、骨粗鬆症により骨が脆くなっていることと、転倒しやすい身体・環境要因が重なることで受傷しやすくなります。そのため、治療後は骨折そのものだけでなく、骨粗鬆症治療や転倒予防にも目を向ける必要があります。
注意したい症状
- 転倒後から脚の付け根が痛い
- 立てない、歩けない
- なんとか歩けるが鼠径部痛が続く
- 脚が外向きになっている
- 脚の長さが左右で違って見える
- 股関節を動かすと強く痛む
- レントゲンで異常なしでも痛みが続く
- 高齢者が急に動けなくなった
- 術後に痛みが長引く
- 歩行再開後に再び痛みや機能低下が出る
これらがある場合は、大腿骨頸部骨折を疑う必要があります。とくに転位の少ない骨折では見逃されることがあり、X線で明らかでなくてもMRIで確認されることがあります。また、術後も遷延する疼痛や機能低下がある場合は、骨癒合不全や骨頭壊死などの再評価が重要です。
対応の基本
対応の基本は、まず骨折を早期に見つけ、長期臥床を避けることです。高齢者では安静が長引くほど、肺炎、褥瘡、深部静脈血栓症、筋力低下、せん妄などの合併症リスクが高くなるため、早期手術と早期離床が重要になります。
手術方法は骨折型や転位の程度、年齢、骨折前の活動性によって異なります。転位の少ない骨折では骨接合術が選択されやすく、転位の大きい骨折では人工骨頭置換術や人工股関節全置換術が選択されることがあります。骨接合術は自分の骨を温存できる一方で、偽関節や骨頭壊死のリスクがあります。人工物置換術は再手術リスクを下げやすい一方で、脱臼や感染などの人工関節特有の注意点があります。
また、治療後は骨粗鬆症対策、再転倒予防、住環境調整、歩行手段の再検討が重要です。骨折前とまったく同じ状態に戻るとは限らないため、安全な生活再建を目標に考える必要があります。
リハビリの視点
リハビリの視点では、大腿骨頸部骨折は「骨がつくまで待つ」病態ではなく、できるだけ早く離床して機能低下を防ぐことが重要な骨折です。術後は一般的に翌日からリハビリが開始され、座位保持、移乗、立位、歩行練習へと段階的に進みます。
- 術後早期から離床を進める
- ベッド上での坐位保持訓練を行う
- 車椅子移乗を練習する
- 立位保持と荷重練習を行う
- 平行棒、歩行器、杖へと段階的に歩行訓練を進める
- 大腿四頭筋、中殿筋、腸腰筋などの筋力維持を図る
- 関節拘縮や廃用を防ぐ
- 排泄、更衣、入浴などのADL練習を行う
- 退院後の再転倒予防と住環境調整を行う
重要なのは、骨折前の生活レベルを目標にしつつも、実際の術後機能に応じて安全な移動手段を再設定することです。骨折前より歩行能力が一段階低下することも多いため、杖や歩行器の使用、手すり設置、段差解消などを含めて生活全体を再構築する視点が大切です。
ひとことで言うと
大腿骨頸部骨折とは、股関節のすぐ近くにある大腿骨頸部の骨折で、高齢者の転倒で起こりやすく、骨頭壊死や歩行能力低下に注意が必要な骨折です。
関連用語
- 大腿骨近位部骨折
- 骨粗鬆症
- 骨接合術
- 人工骨頭置換術
- 人工股関節全置換術
- 偽関節
- 骨頭壊死
- 転倒
- 早期離床
- 再転倒予防
参考文献
- 日本整形外科学会:大腿骨頚部骨折
- MSDマニュアル プロフェッショナル版:股関節骨折
- 日本骨折治療学会:高齢者の大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折
- 千葉市立海浜病院:大腿骨頸部骨折の治療とリハビリ
- Minds:大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)
関連記事
- 大腿骨近位部骨折とは
- 骨粗鬆症と転倒予防
- 人工骨頭置換術とは
- 高齢者の術後リハビリテーション
- 歩行器と杖の選び方
- 再骨折予防の考え方
用語集へ戻る
- 「た」行の用語集へ戻る