他動運動とは
他動運動とは、本人の随意的な筋収縮を伴わず、他者や外力によって関節を動かす運動のことです。理学療法士や看護師、作業療法士などが患者の四肢や体幹を動かす方法が代表的で、関節可動域訓練(ROM訓練)の一種として位置づけられます。
自分で十分に身体を動かせない場合でも、関節を適切に動かしておくことで、拘縮予防、変形予防、可動域維持、循環改善、疼痛の軽減などを図ることができます。一方で、他動運動だけで筋力増強を十分に得ることは難しく、あくまで回復初期や重度筋力低下例での基礎的な介入として使われることが多いのが特徴です。
また、他動運動は単に「動かしてあげる」だけではありません。どの関節を、どの方向へ、どの程度の範囲で、どのくらいの速度で動かすかを見極めながら行う必要があります。そのため、関節や筋、神経、疼痛、術後制限などを理解したうえで、安全に実施することが重要です。
どこでみるのか
他動運動は、整形外科、脳卒中後の回復期リハビリ、集中治療後の離床支援、術後リハビリ、小児リハビリ、神経筋疾患、長期臥床患者のケアなど、非常に幅広い場面で行われます。特に、麻痺、意識障害、疼痛、筋力低下、安静指示、重度の廃用などによって自力で十分に動かせない場合に重要です。
患者さんの状態としては、「自分では関節を動かせない」「動かすと痛みが強い」「手術後でまだ自力運動が難しい」「寝たきりが続いて関節が硬くなりそう」といった場面で他動運動が検討されます。したがって、他動運動は単独の治療技術というより、動けない時期の身体機能を守るための基本的な介入として使われることが多い方法です。
何をみているのか
他動運動でみているのは、単に関節が動くかどうかだけではありません。実際には、関節可動域、終末感、筋緊張、疼痛の出方、左右差、腫脹、熱感、抵抗感などを確認しています。
たとえば肩関節であれば、屈曲や外転の途中で痛みが出るのか、最終域で硬さが強いのか、筋緊張で途中から動きにくくなるのかをみます。膝や足関節であれば、術後の腫脹や拘縮傾向、背屈制限、疼痛回避による防御性収縮なども重要です。
つまり他動運動では、「どこまで動くか」だけでなく、なぜ動きにくいのか、どこに問題があるのかを評価しながら実施することが重要です。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、他動運動が必要な理由を明確にします。拘縮予防なのか、疼痛を抑えながら可動域を保つためなのか、術後の回復を促すためなのか、重度麻痺で運動開始のきっかけをつくるためなのかで、実施方法は変わります。
次に、炎症の有無、術後制限、骨折部の安定性、脱臼リスク、安静度、バイタルサイン、筋緊張、皮膚状態などを確認します。関節を動かすことが有益でも、禁忌や制限を無視して実施すると組織損傷や症状悪化を招くことがあるため、事前評価が欠かせません。
実施中は、患者さんの表情、痛みの訴え、防御性収縮、呼吸の変化、筋緊張の増減を観察しながら、速度や可動域を調整します。無理に大きく動かすのではなく、現在の状態に合った範囲で滑らかに行うことが基本です。
評価で何をみるか
- 他動運動の目的が明確か
- 関節可動域の程度
- 疼痛の部位と出現タイミング
- 終末域での抵抗感や終末感
- 筋緊張や痙縮の有無
- 腫脹、熱感、炎症所見の有無
- 左右差の有無
- 拘縮や変形の進行傾向
- 術後・外傷後の運動制限の内容
- 骨折や脱臼など不安定性の有無
- 患者の不安や恐怖反応
- 他動運動後の症状変化
- 自動運動へ移行できる可能性
- 日常生活動作にどうつながるか
関節可動域の測定では、原則として他動運動による測定値を表記することが基準とされており、他動運動は評価の場面でも重要な意味を持ちます。自動運動では痛みや筋力の影響を受けやすいため、純粋な関節の動きや軟部組織の制限を把握するうえで他動運動が役立ちます。
臨床でよく出る問題
- 長期安静による関節拘縮
- 痛みによる可動域低下
- 術後の関節周囲の硬さ
- 麻痺による自動運動困難
- 筋緊張亢進による動かしにくさ
- 浮腫や腫脹による可動域制限
- 関節を動かすことへの恐怖感
- 他動運動だけで終わり、自動運動へつながらない
- 無理な他動運動による痛みの増悪
他動運動はこうした問題に対して有効ですが、やみくもに大きく動かせばよいわけではありません。痛みや組織の状態を無視した他動運動は、炎症の悪化、防御性収縮の増加、患者の不信感につながることがあります。
起こりやすい要因
他動運動が必要になりやすい背景には、次のような要因があります。
- 麻痺や高度筋力低下
- 意識障害や重症全身状態
- 術後や外傷後の活動制限
- 長期臥床による廃用
- 疼痛による自動運動制限
- 関節周囲の炎症や腫脹
- 神経筋疾患による運動障害
- 痙縮や異常筋緊張
- 拘縮や変形の進行リスク
特に、自力でほとんど動かせない症例では、他動運動は関節や軟部組織の状態を保つうえで重要です。さらに、重度筋力低下例では、運動を見ながら注意を向けることで、運動開始段階の筋出力発揮を促す可能性も示唆されています。
注意したい症状
- 動かしたときに鋭い痛みが出る
- 運動後に腫脹や熱感が強くなる
- 骨折部や術後部位に不安定感がある
- 強い筋緊張や痙縮で抵抗が急に増す
- 患者が強い恐怖や拒否を示す
- 関節を動かすとしびれが出る
- 脱臼既往部位で不安定性がある
- 炎症が強い急性期で症状が悪化する
これらがある場合は、実施範囲や方法の見直し、医師の指示確認、炎症管理の優先などが必要です。特に術後や外傷後は、許可された可動域と負荷条件を守ることが重要です。
対応の基本
対応の基本は、まず他動運動の目的を明確にすることです。拘縮予防、疼痛軽減、関節可動域維持、循環改善、運動学習の導入など、目的によってやり方は異なります。そのうえで、現在の関節・筋・神経・疼痛の状態を評価し、必要最小限の刺激で安全に実施することが基本になります。
また、他動運動は単独で完結するものではありません。状態が許せば、自動介助運動、自動運動、筋力練習、起居動作、歩行練習へとつなげていくことが重要です。他動運動は「最終目標」ではなく、次の機能回復段階へ進むための土台として位置づける必要があります。
実施後は、痛み、可動域、筋緊張、疲労、表情変化などを再評価し、その日の反応を確認します。継続によって拘縮予防や動きやすさの改善がみられるかどうかを見ながら、内容を調整していきます。
リハビリの視点
リハビリの視点では、他動運動は「動かせないから代わりに動かす」だけの操作ではありません。関節や軟部組織の柔軟性を保ち、感覚入力を与え、患者が将来的に自分で動かすための準備を整える意味があります。
- 拘縮・変形の予防
- 可動域の維持
- 疼痛の軽減
- 循環改善や浮腫予防の補助
- 重度筋力低下時の運動導入
- 自動運動への移行準備
- 日常生活動作の土台づくり
重要なのは、他動運動だけで終わらせず、患者さんの回復段階に応じて自動介助運動や自動運動へつなげていくことです。つまり他動運動は、回復初期を支える大切な介入である一方で、その先の機能的な動作獲得を見据えて使うべき方法だといえます。
ひとことで言うと
他動運動とは、自分で動かせない関節を外から安全に動かし、拘縮予防や可動域維持、自動運動への移行準備を行うための基本的なリハビリ手技です。
関連用語
- 関節可動域訓練(ROM訓練)
- 自動運動
- 自動介助運動
- 拘縮
- 関節可動域
- 徒手筋力検査(MMT)
- 痙縮
- 運動療法
- 可動域制限
- 離床支援
参考文献
- 看護roo!:関節可動域訓練
- 日本整形外科学会ほか:2022年4月改訂 関節可動域表示ならびに測定法の修正について
- J-STAGE:他動的関節運動が筋出力に与える影響
- 日本リハビリテーション医学会:関節可動域表示ならびに測定法
- 日本理学療法士協会:関節可動域表示ならびに測定法改訂に関する告知
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