沈下性肺炎とは
沈下性肺炎とは、長時間の臥床や活動性低下、浅い呼吸、排痰力の低下、誤嚥などを背景に、肺の下側や背側に分泌物がたまりやすくなり、そこに感染が加わって起こる肺炎を指して使われることが多い言葉です。特に高齢者、寝たきりの方、神経疾患のある方、術後で十分に深呼吸できない方などで問題になりやすい状態です。
臨床では、誤嚥性肺炎、無気肺、分泌物貯留、換気低下が重なったような病態として捉えられることが少なくありません。つまり、単に細菌感染だけをみるのではなく、「なぜ肺の下側に痰がたまり、換気が悪くなり、肺炎を起こしやすくなったのか」を考えることが重要です。
どこでみるのか
沈下性肺炎は、急性期病院、回復期病棟、療養病棟、介護施設、在宅医療など、長く寝ている時間が多い人をみる場面でよく問題になります。脳卒中後、認知症、パーキンソン病、脊髄損傷、重度の廃用症候群、術後、全身衰弱、嚥下障害をもつ高齢者などで特に注意が必要です。
また、胸部や腹部の手術後、痛みや鎮静、呼吸筋の低下によって深い呼吸や咳が十分にできないと、分泌物がたまりやすくなり、無気肺や肺炎につながることがあります。このため、呼吸器疾患だけでなく、整形外科や消化器外科、神経内科、リハビリテーション科でも重要なテーマになります。
何をみているのか
沈下性肺炎でみているのは、単なる発熱や肺炎像だけではありません。実際には、換気が低下していないか、咳で痰を出せているか、嚥下機能が落ちていないか、長時間同じ姿勢になっていないか、活動量が下がっていないかといった、肺炎を起こしやすい背景をみています。
特に重要なのは、肺の下側や背側に分泌物がたまりやすくなる条件がそろっていないかを確認することです。臥床時間が長い、寝返りが少ない、呼吸が浅い、咳が弱い、口腔内が不潔、嚥下障害がある、栄養状態が悪い、といった要因が重なると、沈下性肺炎は起こりやすくなります。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、患者さんが長時間臥床していないか、最近活動量が落ちていないか、食事や唾液でむせていないか、痰が増えていないかを確認します。高齢者では、典型的な咳、痰、発熱がはっきりしないことも多く、「なんとなく元気がない」「食欲がない」「眠気が強い」「SpO2が下がる」といった非特異的な変化だけで始まることがあります。
身体所見では、呼吸数、酸素化、呼吸音、湿性ラ音、痰の性状、咳嗽力、体位による呼吸の変化などをみます。画像では胸部X線やCTで下肺野、背側、依存部に浸潤影や無気肺がないかを確認します。臥床が多い患者では、肺炎像が背側優位に出ることがあり、誤嚥や分泌物貯留を疑う手がかりになります。
さらに、嚥下障害や口腔内環境の悪化が背景にあることも多いため、肺だけをみて終わりでは不十分です。食事姿勢、食形態、口腔ケア、服薬内容、鎮静の有無、離床状況まで含めてみることが大切です。
評価で何をみるか
- 発熱、咳、痰、呼吸困難の有無
- SpO2、呼吸数、努力呼吸の有無
- 呼吸音の左右差、湿性ラ音、痰の貯留音
- 咳嗽力と排痰能力
- 深呼吸ができるか、胸郭の動きが保たれているか
- 長時間臥床や同一姿勢の有無
- 寝返り、起き上がり、離床状況
- 嚥下障害、むせ、湿性嗄声の有無
- 口腔内の清潔状態
- 栄養状態、水分状態、全身衰弱の程度
- 胸部X線やCTでの下肺野・背側病変の有無
- 無気肺や分泌物閉塞の合併
- 意識レベル、認知機能、協力動作の可否
沈下性肺炎の評価では、感染所見だけでなく、呼吸機能、嚥下機能、姿勢、活動量、介助状況をあわせてみる必要があります。
臨床でよく出る問題
- 痰が多いのに自力で出せない
- 臥床が続いて背側肺の換気が悪くなる
- 離床するとすぐに息切れする
- 微小誤嚥を繰り返して肺炎を再発する
- 無気肺を合併して酸素化が悪くなる
- 食事中や食後にむせる
- 口腔内の汚染が強く、感染リスクが高い
- 咳反射が弱く分泌物が残る
- 肺炎の改善後も活動量が戻らず再発しやすい
特に高齢者では、一度肺炎を起こすとさらに動けなくなり、呼吸が浅くなり、食事量が落ち、再び肺炎を起こしやすくなるという悪循環に入りやすいのが問題です。
起こりやすい要因
- 長期臥床
- 活動量低下
- 浅い呼吸
- 咳嗽力の低下
- 嚥下障害
- 誤嚥や不顕性誤嚥
- 口腔ケア不良
- 神経疾患
- 鎮静薬や意識レベル低下
- 低栄養、脱水、全身衰弱
- 胸腹部術後
- 無気肺や分泌物閉塞
沈下性肺炎は、ひとつの原因だけで起こることは少なく、換気低下、排痰低下、誤嚥、感染、廃用が重なって発症することが多い病態です。そのため、原因を一つだけに絞るよりも、複数の要因を整理して介入する視点が大切です。
注意したい症状
- 発熱や微熱が続く
- 咳や痰が増える
- 痰がからんでゴロゴロする
- 息切れや呼吸数増加がある
- SpO2が低下する
- 食事中や食後にむせる
- なんとなく元気がない、反応が鈍い
- 食欲低下や水分摂取低下がある
- 夜間や臥位で呼吸状態が悪くなる
- 離床すると急に呼吸苦が目立つ
高齢者では、典型的な肺炎症状が目立たず、全身状態の低下だけで始まることがあります。呼吸器症状が軽く見えても、背景に誤嚥や無気肺が隠れていることがあるため注意が必要です。
対応の基本
対応の基本は、まず感染への治療を行いながら、同時に肺炎を起こした背景を修正することです。抗菌薬が必要な場合は適切に使用しつつ、酸素化の確認、吸引、排痰介助、体位調整、十分な水分管理、口腔ケア、嚥下評価を進めます。
また、ただ寝かせて安静にするだけでは改善しにくく、可能な範囲で早期離床を進めることが重要です。背側肺の換気を改善するための体位変換、座位保持、深呼吸の促通、咳嗽介助などを組み合わせて、分泌物がたまりにくい状態をつくります。
さらに、誤嚥リスクがある場合は、食事姿勢、食形態、摂取ペース、とろみの要否、食後の体位保持などを見直します。沈下性肺炎は再発しやすいため、「治す」だけでなく「再発を防ぐ」視点が不可欠です。
リハビリの視点
リハビリの視点では、沈下性肺炎は単なる感染症ではなく、呼吸、姿勢、活動、嚥下、廃用がつながった機能障害として捉えます。つまり、抗菌薬だけでは不十分で、呼吸理学療法や離床、ADLの再構築まで含めて対応する必要があります。
- 体位変換による換気分布の改善
- 早期離床と活動量の回復
- 深呼吸や胸郭運動の促通
- 咳嗽介助と排痰支援
- 嚥下評価と食事場面の調整
- 口腔ケアの習慣化
- 再発予防のための生活指導
重要なのは、肺炎が落ち着いたあとに再び寝たきりへ戻さないことです。活動量の低下は再発の大きな要因になるため、呼吸状態をみながら安全に動く量を増やし、呼吸と生活機能を一緒に立て直していくことが大切です。
ひとことで言うと
沈下性肺炎とは、長期臥床や排痰低下、誤嚥などを背景に、肺の下側や背側に分泌物と感染が生じて起こりやすくなる肺炎です。
関連用語
- 誤嚥性肺炎
- 不顕性誤嚥
- 無気肺
- 排痰障害
- 呼吸理学療法
- 体位ドレナージ
- 口腔ケア
- 嚥下障害
- 廃用症候群
- 早期離床
参考文献
- 日本呼吸器学会:誤嚥性肺炎
- StatPearls: Aspiration Pneumonia
- MSDマニュアル家庭版:無気肺
- Comprehensive Approaches to Aspiration Pneumonia and Dysphagia in the Elderly on the Disease Time-Axis
- Severe aspiration pneumonia in the elderly
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