慢性疼痛

慢性疼痛とは

慢性疼痛(Chronic Pain)とは、通常の組織治癒期間を超えて3ヶ月以上持続する、あるいは反復する痛みのことを指します。急性疼痛が組織損傷に対する警告信号として生理的な意義を持つのに対し、慢性疼痛はそれ自体が一つの疾患として捉えられます。単なる症状ではなく、神経系の可塑的変化・心理的要因・社会的要因が複雑に絡み合った多面的な病態であり、腰痛、頸部痛、関節痛、神経障害性疼痛、線維筋痛症など多様な病態を含み、患者のQOLを著しく低下させます。

どこでみるのか

慢性疼痛の評価では、痛みの部位だけでなく全身を観察することが重要です。脊柱のアライメント異常や筋緊張の亢進、圧痛点の分布を確認し、神経学的検査ではアロディニア・痛覚過敏といった感覚異常のほか、筋力低下や反射異常を評価します。また、姿勢・動作パターン・顔の表情・心理状態も重要な観察対象です。慢性疼痛患者では痛みをかばう異常な動作パターンが二次的な問題を生じやすく、睡眠障害・活動量の低下・社会的引きこもりなど、生活全般への影響も合わせて評価します。

何をみているのか

慢性疼痛では、痛みの強度・性質・時間的パターン・増悪および軽快因子を多角的に評価します。痛みの強度はVAS(Visual Analogue Scale)やNRS(Numerical Rating Scale)を用いて数値化し、「ズキズキ」「ジンジン」「電気が走るような」といった痛みの性質は病態推測の手がかりになります。心理的側面として不安・抑うつ・破局的思考・痛み関連恐怖を評価することも不可欠で、これらは痛みの慢性化と強い相関を示します。機能面では日常生活動作の制限、労働能力の低下、社会参加の程度を確認し、薬物使用状況・過去の治療歴・医療機関受診の頻度なども重要な評価項目となります。

臨床でどうみるか

問診では、痛みの発症時期・経過・これまでの治療内容を詳細に聴取します。痛みの日内変動、活動との関連、睡眠や社会生活への影響を確認し、外傷・手術・精神疾患の既往も重要な情報です。身体診察では疼痛部位の触診、可動域測定、筋力評価、神経学的検査を実施します。画像検査(X線・MRI)で構造的異常を確認しますが、画像所見と痛みの程度は必ずしも一致しない点を念頭に置く必要があります。心理評価にはHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)やPain Catastrophizing Scale(PCS)などの質問紙が有用であり、包括的疼痛評価ではBrief Pain Inventory(BPI)やMcGill Pain Questionnaireが活用されます。

評価で何をみるか

評価にあたっては、まず痛みの強度をVAS(0〜100mm)やNRS(0〜10点)、フェイススケールを用いて定量化します。次に痛みの性質をMcGill Pain QuestionnaireやNeuropathic Pain Symptom Inventoryで詳しく把握し、侵害受容性疼痛か神経障害性疼痛かの鑑別に役立てます。機能面の評価にはRoland-Morris Disability Questionnaire(腰痛)、Neck Disability Index(頸部痛)、Oswestry Disability Indexなど、部位に応じた指標を使用します。心理面ではHADSによる不安・抑うつの評価、PCSによる破局的思考の程度、Tampa Scale for Kinesiophobiaによる運動恐怖の把握が求められます。QOLの観点からはSF-36やEQ-5Dが広く用いられ、痛みが生活全体に与える影響を総合的に測定します。身体機能については筋力測定・可動域測定・歩行評価・バランステストで客観的データを収集し、睡眠についてはPittsburgh Sleep Quality Indexで質と量を確認します。中枢性感作の有無はCentral Sensitization Inventoryで評価し、さらに就労状況・家族関係・社会参加の程度といった社会的側面も欠かさず確認します。これらの評価を組み合わせることで、患者の全体像を多面的に把握することが可能になります。

臨床でよく出る問題

薬物療法の長期化と副作用が大きな問題です。オピオイドの長期使用は依存や耐性を生じ、NSAIDsは胃腸障害・腎障害のリスクを伴います。心理社会的側面では、抑うつ・不安・破局的思考が痛みを増強して悪循環を形成し、運動恐怖による活動性低下がさらに痛みを悪化させます。社会的には休職・退職による経済的困窮、家族関係の悪化、社会的孤立も生じます。加えて、不適切な検査や手術の繰り返しといった医原性の問題も看過できません。

起こりやすい要因

生物学的要因として末梢・中枢神経の感作、神経可塑性の変化、炎症の遷延が挙げられます。心理的要因では過去のトラウマ・ストレス・不安抑うつ傾向・破局的思考・完璧主義が関与し、社会的要因として職場ストレス・家庭問題・経済的困難・訴訟問題なども慢性化を促進します。遺伝的素因による痛み感受性の個人差も存在し、運動不足・肥満・喫煙・睡眠不足といったライフスタイル要因もリスクを高めます。

注意したい症状

進行性の神経症状・膀胱直腸障害・原因不明の体重減少・発熱・夜間痛の増悪・外傷歴などのレッドフラッグサインは、悪性腫瘍・感染症・馬尾症候群といった重篤な疾患を疑うサインであり、見逃さないことが重要です。自殺念慮・希死念慮の出現には緊急対応が必要であり、薬物依存の兆候(処方薬の過剰要求・複数医療機関受診)にも注意が必要です。痛みの性質が突然変化した場合には、新たな病態の出現を疑います。

対応の基本

慢性疼痛の治療には多角的アプローチが不可欠です。薬物療法では非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェン・NSAIDs)、神経障害性疼痛治療薬(プレガバリン・デュロキセチン)、抗うつ薬を病態に応じて使用し、オピオイドは慎重に適応を検討します。運動療法は中心的な治療であり、有酸素運動・筋力強化・ストレッチングを段階的に進め、痛みがあっても動くことの重要性を患者に教育します。認知行動療法で破局的思考や回避行動を修正し、痛みへの対処能力を高めることも重要です。ペインクリニック・心療内科・精神科との連携のもと、医師・理学療法士・心理士・看護師がチームで包括的な治療を提供する集学的疼痛管理プログラムが有効です。

リハビリの視点

リハビリテーションでは、痛みの完全除去ではなく機能回復と生活の質の向上を目標とします。段階的な運動負荷によって運動恐怖を克服し、ペーシング(活動量の調整)を通じて過活動・不活動の両極端を避けます。認知行動療法的アプローチで「痛み=損傷」という誤った認識を修正し、マインドフルネスやリラクセーション技法も積極的に活用します。職場復帰支援では段階的復職プログラムを立案し、家族教育によって適切なサポート体制を整えることも長期的な改善に寄与します。

ひとことで言うと

慢性疼痛は3ヶ月以上持続する痛みで、生物学的・心理的・社会的要因が複雑に絡み合った多面的な病態です。多角的な集学的治療アプローチによって、機能回復と生活の質の向上を目指すことが重要です。

関連用語

急性疼痛(Acute Pain)
神経障害性疼痛(Neuropathic Pain)
侵害受容性疼痛(Nociceptive Pain)
中枢性感作(Central Sensitization)
アロディニア(Allodynia)
痛覚過敏(Hyperalgesia)
破局的思考(Pain Catastrophizing)
運動恐怖(Kinesiophobia)
VAS(Visual Analogue Scale)
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy)
ペインクリニック(Pain Clinic)
線維筋痛症(Fibromyalgia)
複合性局所疼痛症候群(CRPS)
オピオイド(Opioid)
集学的疼痛管理(Multidisciplinary Pain Management)

参考文献

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