ミエローマ(多発性骨髄腫)とは
ミエローマ(多発性骨髄腫)とは、骨髄で抗体を産生する形質細胞ががん化し、異常に増殖する血液がんです。正式には多発性骨髄腫(Multiple Myeloma)と呼ばれ、骨髄中で腫瘍化した形質細胞(骨髄腫細胞)が増殖することで、正常な血液細胞の産生が妨げられ、骨の破壊、貧血、腎機能障害、免疫機能低下などの多彩な症状を引き起こします。
ポイントは、ミエローマが骨に特徴的な病変を引き起こすことです。骨髄腫細胞は骨を溶かす細胞(破骨細胞)を刺激し、骨を作る細胞(骨芽細胞)の働きを抑制するため、溶骨性病変と呼ばれる骨の破壊が起こります。これにより、骨痛、病的骨折、脊髄圧迫などが生じ、日常生活や運動機能に大きな影響を与えます。
つまりミエローマは、血液の異常だけでなく、骨病変による疼痛、骨折、運動機能障害が前面に出る疾患であり、リハビリテーションの場面でも重要な疾患です。
どこでみるのか
ミエローマは、血液内科、腫瘍内科、整形外科、リハビリテーション科、緩和ケア科などでよくみます。特に、60代以上の高齢者に多く、骨痛、病的骨折、貧血、腎機能障害、感染症などで問題になります。
患者さんの訴えとしては、「腰や背中が痛い」「骨が折れやすくなった」「疲れやすい」「息切れがする」「感染症を繰り返す」「急に背が縮んだ」といった形が多くみられます。リハビリの現場では、脊椎圧迫骨折や四肢の病的骨折後の患者さん、化学療法中の体力低下、疼痛管理、移動能力の低下などで関わることがあります。骨病変があるため、リハビリ中の骨折リスクに十分な注意が必要です。
何をみているのか
ミエローマでみているのは、骨病変の部位と程度、骨折リスク、疼痛の程度、貧血の程度、腎機能、感染症のリスク、運動機能、日常生活動作への影響です。
ミエローマの主な臓器障害は、CRAB症状と呼ばれます。C(Calcium)は高カルシウム血症、R(Renal)は腎機能障害、A(Anemia)は貧血、B(Bone)は骨病変を意味します。骨病変は単純X線検査で「打ち抜き像」と呼ばれる特徴的な溶骨性病変として現れます。脊椎では圧迫骨折が多く、頭蓋骨、肋骨、骨盤、四肢の長管骨にも病変が起こります。
つまり、ミエローマでは「どこにどの程度の骨病変があるか」「骨折リスクはどの程度か」「疼痛はコントロールされているか」「貧血や腎機能はどうか」「運動はどこまで可能か」を組み合わせて、全身状態と運動機能の安全な維持を評価することが重要になります。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、骨痛の部位と程度、骨折の既往、疲労感、感染症の頻度、腎機能、既往歴を確認します。そのうえで、血液検査(骨髄腫タンパク質、カルシウム、腎機能、貧血の程度)、骨髄検査(形質細胞の割合)、単純X線検査、CT、MRI、PET-CTなどで骨病変の評価を行います。
骨病変の評価では、脊椎圧迫骨折の有無、四肢の溶骨性病変、脊髄圧迫の危険性、病的骨折のリスクを確認します。脊髄圧迫が疑われる場合は、下肢の麻痺やしびれ、排尿・排便障害の有無を確認し、緊急対応が必要かを判断します。また、疼痛の評価にはペインスケールを用い、鎮痛薬の効果と副作用を確認します。
全身状態の評価では、貧血による息切れや易疲労感、腎機能障害による浮腫や尿量低下、高カルシウム血症による口渇や意識障害、感染症のリスクなどを確認します。
つまり臨床では、問診、血液検査、画像検査、骨病変の評価、全身状態の評価を組み合わせて、治療方針とリハビリの適応を判断することが基本です。
評価で何をみるか
評価では、骨病変の部位と範囲、脊椎圧迫骨折の有無、四肢の溶骨性病変、骨折リスクの高い部位を確認します。疼痛の程度と部位、鎮痛薬の使用状況、疼痛が日常生活動作に与える影響も評価します。
血液検査では、貧血の程度(ヘモグロビン値)、腎機能(クレアチニン、eGFR)、カルシウム値、骨髄腫タンパク質(Mタンパク)、免疫グロブリンの値を確認します。骨髄検査では形質細胞の割合が10%以上であることがミエローマの診断基準の一つとなります。
運動機能の評価では、疼痛による活動制限、筋力低下、易疲労性、歩行能力、バランス能力、日常生活動作の自立度を確認します。また、化学療法中の患者さんでは、末梢神経障害(手足のしびれ)、倦怠感、食欲低下、免疫力低下なども評価します。
心理社会的評価では、病状の理解、治療への意欲、不安やうつ傾向、家族のサポート、社会参加の状況なども確認します。
臨床でよく出る問題
臨床でよく出る問題としては、腰痛や背部痛などの持続的な骨痛、脊椎圧迫骨折による急激な疼痛と活動制限、四肢の病的骨折、脊髄圧迫による下肢の麻痺や排尿障害があります。骨がもろくなっているため、軽微な外力や日常動作でも骨折を起こすことがあります。
貧血による易疲労感、息切れ、動悸により、活動耐性が低下し、日常生活動作が制限されます。腎機能障害が進行すると、浮腫、食欲低下、全身倦怠感が増強します。高カルシウム血症では、口渇、吐き気、便秘、意識障害が起こり、緊急治療が必要になることがあります。
化学療法の副作用として、末梢神経障害(手足のしびれ)、口内炎、脱毛、悪心・嘔吐、骨髄抑制による感染症のリスク増加などが起こります。感染症を繰り返すと、入院期間が延長し、リハビリの中断を余儀なくされることがあります。
ミエローマでは、骨病変による疼痛と骨折リスク、貧血による活動制限、化学療法の副作用、感染症のリスクが問題になります。そのため、症状だけでなく、安全なリハビリの実施と生活の質の維持が大切です。
起こりやすい要因
ミエローマの明確な原因は不明ですが、60代以上の高齢者に多く、男性にやや多い傾向があります。発症に関与する要因としては、加齢、遺伝的素因、免疫機能の低下、慢性的な抗原刺激などが考えられています。
リスク因子としては、MGUS(意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症)と呼ばれる前駆状態があり、MGUSの患者さんの一部がミエローマに進行します。また、家族歴がある場合、放射線や化学物質への曝露、肥満なども関連が指摘されています。
骨病変や骨折のリスクを高める要因としては、高齢、骨粗鬆症の合併、長期の臥床、ステロイド薬の使用、ビタミンD欠乏、カルシウム代謝異常などがあります。化学療法中は骨髄抑制により感染症のリスクが高まります。
注意したい症状
注意したい症状としては、急激な背部痛や腰痛の出現、下肢の麻痺やしびれの進行、排尿・排便障害の出現、意識障害や混乱(高カルシウム血症)、発熱や感染症状の出現、急激な貧血の進行、腎機能の急激な悪化などがあります。
脊髄圧迫が疑われる場合は、緊急でMRI検査を行い、放射線治療やステロイド治療、外科的減圧術を検討する必要があります。高カルシウム血症による意識障害や脱水は、緊急の補液治療やビスホスホネート投与が必要です。
急激な骨痛の増強や四肢の変形、腫脹は、新たな骨折や骨病変の進行を示唆するため、画像検査と整形外科的評価が必要です。発熱や感染症状は、免疫力低下や骨髄抑制による重症感染症の可能性があり、早期の抗菌薬治療が必要です。
このような場合は、緊急対応が必要な状態であり、速やかに専門医に相談することが重要です。
対応の基本
対応の基本は、まず化学療法によって骨髄腫細胞を減らし、臓器障害の進行を抑えることです。同時に、骨病変、貧血、腎機能障害、感染症などに対する支持療法を行います。
化学療法では、プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブなど)、免疫調節薬(レナリドミドなど)、ステロイド薬、抗CD38抗体(ダラツムマブなど)などを組み合わせた多剤併用療法が行われます。若年で全身状態が良好な患者さんには、大量化学療法と自家造血幹細胞移植が検討されます。
骨病変に対しては、ビスホスホネート(ゾレドロン酸など)やデノスマブなどの骨吸収抑制薬を投与し、骨の破壊を抑制します。疼痛に対しては、鎮痛薬(NSAIDs、オピオイドなど)、放射線治療、コルセット装着、脊椎形成術(骨セメント注入)などを行います。脊髄圧迫に対しては、緊急放射線治療や外科的減圧術を行います。
貧血に対しては、輸血やエリスロポエチン製剤の投与、腎機能障害に対しては補液や透析療法、高カルシウム血症に対しては補液とビスホスホネート投与、感染症に対しては抗菌薬や抗ウイルス薬の投与を行います。
リハビリテーションでは、骨折リスクを考慮しながら、適切な運動負荷で筋力維持、歩行能力維持、日常生活動作の自立を支援します。疼痛管理と並行して、可能な範囲での活動を促し、廃用症候群を予防することが重要です。
リハビリの視点
リハビリでは、ミエローマの患者さんの骨病変、貧血、化学療法の副作用、疼痛、全身状態が運動機能と日常生活動作にどう影響しているかを包括的にみることが大切です。特に骨病変がある場合、運動や荷重によって骨折を起こすリスクがあるため、画像所見を確認し、整形外科医と連携しながら安全な運動負荷を設定する必要があります。
運動療法では、高負荷の運動や転倒リスクの高い運動は避け、関節可動域運動、軽度の筋力強化、バランス訓練、歩行訓練を慎重に行います。脊椎圧迫骨折がある場合は、コルセット装着のもとで体幹の安定性を保ちながら、起居動作や歩行の練習を行います。貧血がある場合は、易疲労性を考慮し、休憩を取りながら段階的に活動量を増やします。
疼痛管理は、リハビリの効果を左右する重要な要素です。適切な鎮痛薬の使用、体位の工夫、温熱療法、リラクゼーション技法などを組み合わせて、疼痛をコントロールしながらリハビリを進めます。
化学療法中は、免疫力が低下しているため、感染予防に配慮し、手洗いや環境整備を徹底します。また、末梢神経障害による手足のしびれがある場合は、転倒予防や安全な動作の指導が重要です。
ミエローマは長期にわたる治療が必要な疾患であり、患者さんの心理的サポートや生活の質の維持も重要です。つまり、骨折リスクと全身状態を考慮しながら、安全に運動機能と日常生活動作を維持し、生活の質を支えることが、ミエローマのリハビリテーションに不可欠なのです。
ひとことで言うと
ミエローマ(多発性骨髄腫)とは、骨髄中の形質細胞ががん化して増殖する血液がんであり、骨の破壊、貧血、腎機能障害、感染症などを引き起こし、特に骨病変による疼痛と骨折が運動機能と生活の質に大きく影響する疾患です。
関連用語
- 溶骨性病変
- 形質細胞
- 脊椎圧迫骨折
- 病的骨折
- ビスホスホネート
- CRAB症状
- MGUS
- 骨髄腫タンパク質
参考文献
- 国立がん研究センター:多発性骨髄腫の治療について
- がん情報サービス:多発性骨髄腫
- 順天堂大学病院 血液内科:多発性骨髄腫
- 日本血液学会:造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版
- NCBI / PMC:Physical therapy for multiple myeloma patients with severely hindered mobility
- International Myeloma Foundation:Lytic Lesions & Bone Disease in Multiple Myeloma
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