無尿とは
無尿(Anuria)は、腎臓から尿がほとんど産生されず排泄されない状態を指し、一般に24時間の尿量が100mL未満と定義されます。正常な成人の1日尿量は約1000~2000mLであるため、無尿は極めて異常な状態であり、生命を脅かす医学的緊急事態です。無尿は単なる症状ではなく、重篤な腎機能障害、循環不全、尿路閉塞などの深刻な病態の表れであり、迅速な原因究明と治療介入が不可欠です。乏尿(24時間尿量400mL未満)と区別され、無尿はより重症で緊急性が高く、急性腎障害(AKI)の進行や末期腎不全、完全尿路閉塞などが背景にあることが多いです。リハビリテーション現場でも、重症患者の全身管理や離床の可否判断において尿量モニタリングは基本中の基本であり、無尿の認識と適切な対応が求められます。
どこでみるのか
無尿は主に救急外来、集中治療室(ICU)、腎臓内科、泌尿器科で管理されます。急性腎障害や急性腎不全の患者、重症外傷や大手術後の患者、敗血症や循環不全を伴う重症患者、尿路閉塞を疑う泌尿器科患者が対象となります。リハビリテーション科では、急性期病院でのベッドサイドリハビリや集中治療室での早期離床プログラムに関わる際に無尿患者と遭遇することがあり、理学療法士や作業療法士は尿量や水分出納のモニタリング結果を医療チームと共有しながら、離床可否や運動負荷の判断を慎重に行う必要があります。また、訪問看護や在宅医療の現場でも、終末期がん患者や慢性腎不全患者で無尿が生じることがあり、多職種連携による緊急対応が求められます。
何をみているのか
無尿の評価では、まず原因が腎前性、腎性、腎後性のいずれかを鑑別します。腎前性は腎臓への血流不足(脱水、ショック、心不全、大量出血など)、腎性は腎実質の障害(急性尿細管壊死、糸球体腎炎、間質性腎炎、薬剤性腎障害など)、腎後性は尿路閉塞(前立腺肥大、尿管結石、腫瘍による圧迫、膀胱機能障害など)によるものです。臨床では、尿量測定(時間尿、24時間尿量)、尿道カテーテルの閉塞や屈曲の確認、膀胱内の尿貯留の有無(エコー検査)、血液検査(BUN、クレアチニン、電解質、特にカリウム値)、尿検査(尿比重、尿中ナトリウム濃度、尿浸透圧)、画像検査(腎エコー、CT、MRI)を組み合わせて原因を特定します。また、体液量の評価(体重変化、浮腫の有無、中心静脈圧)、循環動態の評価(血圧、心拍数、ショック指標)、全身状態の評価(意識レベル、呼吸状態、電解質異常による不整脈の有無)も重要です。
臨床でどうみるか
無尿が疑われる場合、まず尿道カテーテルが留置されていれば、カテーテルの開通性を確認し、閉塞や屈曲がないかをチェックします。カテーテルが留置されていない場合は、膀胱エコーで膀胱内の尿貯留を確認し、尿閉(尿が膀胱に溜まっているが排出できない状態)と無尿(腎臓からの尿産生自体が極端に低下している状態)を鑑別します。次に、バイタルサイン(血圧、心拍数、体温、呼吸数、酸素飽和度)を測定し、ショックや循環不全の有無を評価します。血液検査では、腎機能(BUN、クレアチニン)、電解質(特にカリウム、ナトリウム、重炭酸イオン)、酸塩基平衡(動脈血ガス分析)を確認し、高カリウム血症や代謝性アシドーシスの有無を評価します。尿検査では、尿比重、尿中ナトリウム濃度、尿浸透圧、尿中クレアチニン濃度を測定し、腎前性と腎性の鑑別に役立てます。画像検査では、腎エコーで水腎症の有無を確認し、腎後性(尿路閉塞)の可能性を評価します。
評価で何をみるか
無尿の評価では以下の項目を系統的にチェックします。
- 尿量の正確な測定(時間尿、24時間尿量、尿道カテーテルの開通性確認)
- 膀胱内尿貯留の有無(膀胱エコー、導尿による残尿測定)
- バイタルサイン(血圧、心拍数、体温、呼吸数、酸素飽和度)
- 循環動態の評価(ショック指標、中心静脈圧、末梢循環の状態)
- 体液量の評価(体重変化、浮腫の有無、口渇、皮膚ツルゴールの低下)
- 血液検査(BUN、クレアチニン、電解質、特にカリウム値、血糖値、CRP)
- 尿検査(尿比重、尿中ナトリウム濃度、尿浸透圧、尿中クレアチニン、尿蛋白、尿潜血)
- 腎前性と腎性の鑑別指標(FENa: fractional excretion of sodium、FEUrea)
- 画像検査(腎エコー、腹部CT、腹部MRI)での水腎症や腎実質の異常の有無
- 心電図(高カリウム血症によるT波増高、QRS幅拡大、不整脈の有無)
- 動脈血ガス分析(代謝性アシドーシス、呼吸性代償の有無)
- 既往歴と現病歴(腎疾患、心疾患、糖尿病、薬剤使用歴、脱水のリスク)
- 随伴症状(悪心、嘔吐、呼吸困難、胸痛、意識障害、けいれん)
- 尿道カテーテル留置患者では、カテーテルの種類、留置期間、尿の性状
- 薬剤の影響(利尿薬、NSAIDs、造影剤、抗生物質、ACE阻害薬など)
臨床でよく出る問題
無尿に伴う臨床上の問題は以下の通りです。
- 体液貯留と浮腫の進行(肺水腫、心不全、全身浮腫)
- 高カリウム血症による致死的不整脈のリスク
- 代謝性アシドーシスの進行
- 尿毒症症状(悪心、嘔吐、意識障害、けいれん、出血傾向)
- 急速な体重増加(1日2kg以上の増加)
- 呼吸困難(肺水腫による)
- 循環動態の不安定化(血圧低下、頻脈、ショック)
- 電解質異常による全身状態の悪化
- 透析導入の必要性とタイミングの判断
- リハビリテーションや離床の延期・中止
- 栄養管理の困難さ(蛋白制限、水分制限)
- 感染リスクの増大(尿道カテーテル留置による尿路感染)
起こりやすい要因
無尿を引き起こす主な要因は以下の通りです。
- 腎前性要因:脱水(下痢、嘔吐、発熱、熱中症)、大量出血、熱傷、ショック(敗血症性、心原性、出血性)、心不全、心筋梗塞、不整脈、肝硬変による有効循環血漿量の低下
- 腎性要因:急性尿細管壊死(虚血性、薬剤性、造影剤腎症)、急性糸球体腎炎、間質性腎炎、急速進行性糸球体腎炎、血栓性微小血管症、横紋筋融解症、腎血管閉塞(腎動脈血栓症、腎静脈血栓症)
- 腎後性要因:前立腺肥大症、尿管結石(両側または片腎)、腫瘍による尿路圧迫、膀胱機能障害、尿道狭窄、尿道カテーテルの閉塞
- 薬剤性要因:NSAIDs、ACE阻害薬、ARB、アミノグリコシド系抗生物質、造影剤、シスプラチンなどの抗がん剤
- 外科手術後の合併症(大動脈手術、腹部大手術、心臓手術後の低灌流)
- 慢性腎不全の急性増悪
注意したい症状
以下の症状が見られた場合は、生命を脅かす緊急事態であり、速やかな治療介入が必要です。
- 意識障害、けいれん、昏睡(尿毒症性脳症、高カリウム血症、代謝性アシドーシスによる)
- 高度の呼吸困難、起坐呼吸、喘鳴(肺水腫、心不全による)
- 胸痛、動悸、不整脈(高カリウム血症、心筋虚血)
- 心電図異常(T波増高、QRS幅拡大、徐脈、心室細動)
- 血清カリウム値6.0mEq/L以上
- 血清重炭酸イオン15mEq/L以下の代謝性アシドーシス
- 1日2kg以上の急速な体重増加
- 乏尿・無尿が3日以上持続
- 出血傾向(消化管出血、皮下出血、鼻出血)
- 著明な全身浮腫、腹水、胸水
- 血圧の著しい低下、ショック状態
- 悪心・嘔吐の持続、食欲不振
対応の基本
無尊は医学的緊急事態であり、まず原因の特定と迅速な治療介入が最優先です。腎前性無尿の場合は、循環血液量の回復を目的に輸液療法を行い、必要に応じて昇圧薬や強心薬を使用します。腎性無尿の場合は、原因となる腎実質障害の治療(ステロイド療法、免疫抑制療法、原因薬剤の中止)を行い、腎保護のために腎毒性薬剤を避けます。腎後性無尿の場合は、尿路閉塞の解除が最優先であり、尿道カテーテル留置、膀胱瘻造設、尿管ステント留置、経皮的腎瘻造設、前立腺肥大症に対する手術的治療などを緊急で行います。透析導入の適応としては、高カリウム血症(≧6.0mEq/L)、重度の代謝性アシドーシス(HCO3≦15mEq/L)、肺水腫、尿毒症症状(脳症、出血傾向)、乏尿・無尿が3日以上持続する場合などが挙げられます。水分管理では、体液貯留を避けるために水分制限を厳格に行い、電解質管理では高カリウム血症に対してカリウム制限食、カリウム吸着薬(ケイキサレート)、緊急時にはグルコン酸カルシウム静注や重炭酸ナトリウム投与を行います。栄養管理では、蛋白制限(0.6~0.8g/kg/日)とカロリー確保のバランスを取り、尿毒症症状の進行を防ぎます。
リハビリの視点
リハビリテーション現場では、無尿患者は重症であり、離床やリハビリの可否判断が極めて重要です。無尿患者は体液貯留、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、循環不全などのリスクが高く、運動負荷によって不整脈や心停止、肺水腫の悪化を招く可能性があるため、医師の許可なく離床や運動療法を開始してはなりません。尿量、バイタルサイン、血液検査結果(特にカリウム値、クレアチニン値)、体重変化、浮腫の程度を毎日モニタリングし、医療チームと情報共有しながら慎重に介入計画を立てます。無尿が改善し尿量が回復してきたら、段階的にベッドサイドでの座位訓練、立位訓練、歩行訓練を開始しますが、運動中の血圧、心拍数、酸素飽和度、自覚症状(息切れ、胸痛、めまい)を厳重にモニタリングし、異常があれば直ちに中止します。透析導入後の患者では、透析による循環動態の変動や体液量の急激な変化に注意し、透析直後の離床は避け、透析翌日以降に体調を見ながら段階的にリハビリを再開します。また、長期臥床による廃用症候群(筋力低下、関節拘縮、褥瘡、深部静脈血栓症)の予防も重要であり、可能な範囲で関節可動域訓練、ポジショニング、呼吸理学療法を継続します。
ひとことで言うと
無尿は24時間尿量が100mL未満の状態で、生命を脅かす医学的緊急事態であり、迅速な原因究明と治療介入が不可欠です。
関連用語
- 乏尿
- 急性腎障害(AKI)
- 急性腎不全
- 高カリウム血症
- 代謝性アシドーシス
- 尿路閉塞
- 透析
- 腎前性・腎性・腎後性
- 尿毒症
- 水腎症
- 肺水腫
- 体液貯留
参考文献
- Cleveland Clinic: Anuria: Causes, Symptoms, Diagnosis & Treatment
- Apollo Hospitals: Anuria - Causes, Symptoms, Diagnosis, Treatment, and Prevention
- MSDマニュアル プロフェッショナル版: 乏尿
- MSDマニュアル プロフェッショナル版: 急性腎障害(AKI)
- NCBI PMC: Etiology and outcomes of anuria in acute kidney injury
- 日本腎臓学会: 急性腎不全診療ガイドライン
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