門脈とは
門脈とは、消化管や脾臓からの静脈血を肝臓へ運ぶ特殊な静脈系であり、通常の静脈とは異なり、毛細血管から始まり再び毛細血管(肝類洞)に注ぐ二重毛細血管系を形成します。門脈は上腸間膜静脈と脾静脈が合流して形成され、肝門部で左枝と右枝に分かれて肝臓内に入ります。門脈を通じて、消化管で吸収された栄養素、腸管から吸収された薬物、脾臓で処理された血液成分などが肝臓に運ばれ、肝臓で代謝・解毒・貯蔵されます。門脈系には弁が存在しないため、肝臓での血流抵抗が増加すると容易に門脈圧が上昇し、門脈圧亢進症を引き起こします。正常な門脈圧は510mmHgですが、12mmHg以上になると門脈圧亢進症と診断され、食道静脈瘤、腹水、脾腫などの重篤な合併症が出現します。門脈血流量は約1,0001,200mL/分であり、肝臓への血流の約7080%を占め、残りの2030%は肝動脈から供給されます。
どこでみるのか
門脈の評価と治療は、主に消化器内科、肝臓内科、消化器外科で行われます。肝硬変、肝炎、肝癌、門脈血栓症、Budd-Chiari症候群(肝静脈閉塞症)、特発性門脈圧亢進症などの疾患において、門脈血流と門脈圧の評価が重要です。画像診断として、腹部超音波検査、ドップラー超音波検査、腹部CT検査、腹部MRI検査、血管造影検査が用いられます。門脈圧測定は、肝静脈カテーテル検査により肝静脈楔入圧(HVPG)を測定することで間接的に評価されます。食道静脈瘤の評価には上部消化管内視鏡検査が必須です。門脈圧亢進症の合併症管理として、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)や硬化療法(EIS)、バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)、経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)などの治療が行われます。リハビリテーション部門では、肝硬変患者の栄養管理、筋力維持、肝性脳症予防のための運動療法が実施されます。
何をみているのか
門脈の評価では、血管の形態、血流速度と方向、血栓の有無、側副血行路の発達、門脈圧の程度、肝臓の形態と機能を総合的に観察します。正常な門脈は、肝臓に向かう肝門脈性血流(hepatopetal flow)を示し、血流速度は15~20cm/秒程度です。門脈圧亢進症では、血流速度の低下、血流の停滞、逆流(肝離脱性血流: hepatofugal flow)が観察されます。側副血行路として、食道静脈瘤、胃静脈瘤、臍傍静脈の拡張(Cruveilhier-Baumgarten症候群でメデューサの頭として視診可能)、脾腎シャント、直腸静脈瘤などが発達します。門脈血栓症では、門脈内に血栓が確認され、急性期には腹痛や発熱が生じ、慢性期には側副血行路の発達により症状が軽減することがあります。肝臓の形態評価では、肝硬変に伴う肝萎縮、表面の凹凸不整、脾腫、腹水の有無を観察します。
臨床でどうみるか
臨床現場での門脈評価は、まず詳細な問診から始まります。肝疾患の既往(慢性肝炎、肝硬変、肝癌)、アルコール摂取歴、ウイルス性肝炎の有無(B型、C型)、薬剤性肝障害のリスク、腹部手術歴、血栓症のリスク因子(血液凝固異常、悪性腫瘍、炎症性腸疾患)を聴取します。症状として、腹部膨満感、腹水、下肢浮腫、黄疸、食道静脈瘤破裂による吐血・下血、肝性脳症による意識障害や異常行動などを確認します。
身体診察では、視診により黄疸、腹部膨隆、臍周囲の静脈怒張(メデューサの頭)、手掌紅斑、くも状血管腫を観察します。触診により肝臓の大きさと硬さ、脾腫の有無、腹水の有無(波動、shifting dullness)を評価します。打診により腹水の範囲を推定し、聴診により腸蠕動音や血管雑音を確認します。
血液検査では、肝機能(AST、ALT、ALP、γ-GTP、総ビリルビン、直接ビリルビン、アルブミン、総蛋白、コリンエステラーゼ、PT、PT-INR)、腎機能(BUN、クレアチニン、電解質)、血算(血小板数の低下は脾腫と関連)、アンモニア値(肝性脳症の指標)、腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)を評価します。
画像検査として、腹部超音波検査では門脈径(正常は13mm以下、15mm以上で拡張と判断)、血流速度と方向をドップラー法で評価し、脾腫、腹水、肝表面の性状を観察します。腹部CT検査では、門脈の形態、血栓の有無、側副血行路、肝臓の形態、脾臓の大きさ、腹水量を詳細に評価します。造影CTでは門脈相での血流動態を確認します。腹部MRI検査では、MRAにより門脈系の三次元的評価が可能です。
上部消化管内視鏡検査により、食道静脈瘤の有無と程度(F1~F3)、色調(白色、青色)、発赤所見(red color sign)を評価し、破裂リスクを判定します。
評価で何をみるか
門脈および門脈圧亢進症の臨床評価では以下の項目を系統的に確認します。
臨床症状として、腹部膨満感や腹水の有無と程度、下肢浮腫の程度、黄疸の有無、食道静脈瘤破裂による吐血や下血の既往、肝性脳症の症状(意識障害、羽ばたき振戦、異常行動、睡眠覚醒リズムの逆転)、全身倦怠感や易疲労性を詳細に評価します。
身体所見として、黄疸の程度、手掌紅斑やくも状血管腫の有無、腹部膨隆と腹水の量、臍周囲静脈の怒張、肝臓の触知(大きさ、硬さ、表面性状)、脾腫の程度、下腿浮腫の有無と程度を観察します。
血液検査所見として、肝機能障害の程度(AST、ALT、ALP、γ-GTP、ビリルビン)、肝合成能の低下(アルブミン、コリンエステラーゼ、PT-INR)、血小板数の低下(脾機能亢進症)、腎機能(BUN、クレアチニン、電解質)、血清アンモニア値を評価します。
Child-Pugh分類により肝硬変の重症度を評価します。これは、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、PT-INR、腹水の程度、肝性脳症の程度の5項目を点数化し、合計点でクラスA(56点)、クラスB(79点)、クラスC(10~15点)に分類します。
MELD(Model for End-stage Liver Disease)スコアにより、肝移植の適応や予後を評価します。これは、血清ビリルビン、血清クレアチニン、PT-INRから算出されます。
画像検査所見として、腹部超音波検査での門脈径(正常13mm以下)、血流速度(正常15~20cm/秒)、血流方向(肝門脈性か肝離脱性か)、脾静脈径、脾腫の程度、腹水量を測定します。腹部CT/MRIでは、門脈血栓の有無、側副血行路(食道静脈瘤、胃静脈瘤、脾腎シャント、傍臍静脈)の発達程度、肝臓の形態(萎縮、表面凹凸)、脾臓の大きさ、腹水量を評価します。
上部消化管内視鏡検査により、食道静脈瘤の形態分類(F0~F3)、色調分類(白色、青色)、red color sign(破裂リスクの高い発赤所見)、胃静脈瘤の有無を評価します。
肝静脈カテーテル検査により、肝静脈楔入圧(HVPG)を測定し、門脈圧を間接的に評価します。HVPG 10mmHg以上で門脈圧亢進症と診断されます。
栄養評価として、体重、BMI、体組成(筋肉量、体脂肪量)、握力、膝伸展筋力、歩行速度などによりサルコペニアの有無を評価します。肝硬変患者ではサルコペニアの合併率が高く、予後不良因子です。
ADL評価として、Barthel IndexやFIMにより日常生活動作の自立度、疲労度、活動耐性を評価します。
臨床でよく出る問題
門脈に関連して臨床現場でよく遭遇する問題として、まず門脈圧亢進症による合併症が最も重要です。食道静脈瘤破裂は、突然の大量吐血・下血を引き起こし、出血性ショックに至る生命に関わる緊急事態です。破裂リスクは静脈瘤の大きさ、色調(青色)、red color signの有無により評価されます。
腹水は門脈圧亢進と低アルブミン血症により生じ、腹部膨満感、呼吸困難、下肢浮腫を引き起こし、患者のQOLを著しく低下させます。大量腹水は横隔膜を挙上し、呼吸機能を制限します。
肝性脳症は、肝機能低下と門脈大循環シャントにより腸管で産生されたアンモニアが肝臓で処理されず脳に到達し、意識障害や異常行動を引き起こします。軽度では睡眠覚醒リズムの逆転や軽い性格変化から始まり、重症化すると昏睡に至ります。
脾腫と脾機能亢進症により、血小板減少、白血球減少、貧血が生じ、易出血性や易感染性のリスクが高まります。
門脈血栓症は、肝硬変、肝癌、血液凝固異常、炎症性腸疾患、腹部手術後などで発症し、急性期には激しい腹痛、発熱、悪心・嘔吐を呈します。慢性化すると側副血行路が発達し、門脈圧亢進症の症状が出現します。
肝腎症候群は、進行した肝硬変患者に生じる機能的腎不全であり、腎臓自体に器質的病変がないにもかかわらず、腎血流量の低下により急速に腎機能が悪化します。予後は極めて不良です。
サルコペニアと筋力低下は、肝硬変患者において高頻度に合併し、栄養障害、蛋白合成能の低下、慢性炎症、活動性の低下により進行します。サルコペニアは転倒リスク、感染リスク、予後不良と関連します。
肝性骨症(hepatic osteodystrophy)として、骨粗鬆症や骨軟化症が生じ、骨折リスクが増大します。
起こりやすい要因
門脈圧亢進症が起こりやすい主な要因として、肝硬変が最も重要です。肝硬変は、慢性肝炎(B型、C型肝炎ウイルス)、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)、自己免疫性肝疾患(原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性肝炎)、代謝性肝疾患(ヘモクロマトーシス、ウィルソン病)などにより進行します。肝硬変では肝組織の線維化により肝内血管抵抗が増加し、門脈圧が上昇します。
肝癌や転移性肝腫瘍は、腫瘍による門脈の圧迫や浸潤、腫瘍塞栓により門脈血流を障害します。
門脈血栓症の要因として、血液凝固異常(プロテインC欠損症、プロテインS欠損症、アンチトロンビン欠損症)、骨髄増殖性疾患、悪性腫瘍、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、腹部感染症、腹部外傷、腹部手術後、経口避妊薬使用などが挙げられます。
Budd-Chiari症候群(肝静脈閉塞症)は、肝静脈や下大静脈の閉塞により肝臓からの血液流出が障害され、二次的に門脈圧が上昇します。
特発性門脈圧亢進症(日本住血吸虫症後遺症、原因不明の門脈線維症)も存在します。
肝外門脈閉塞症は、臍帯感染、腹腔内感染、外傷などにより小児期に門脈本幹が閉塞し、側副血行路(海綿状血管腫様変化)が発達する病態です。
注意したい症状
門脈疾患を示唆する症状として、まず突然の大量吐血や下血は食道静脈瘤破裂を強く疑い、直ちに救急対応が必要です。吐血はコーヒー残渣様または鮮血であり、下血は黒色便(タール便)として現れます。出血性ショック(血圧低下、頻脈、冷汗、意識障害)を伴うことがあります。
腹部膨満感が徐々に増悪し、腹囲が増大する場合は腹水の貯留を示唆します。呼吸困難や下肢浮腫を伴うこともあります。
意識障害や異常行動、見当識障害、羽ばたき振戦(asterixis)は肝性脳症の徴候です。初期には睡眠覚醒リズムの逆転(昼間の傾眠、夜間の不眠)や軽い性格変化(怒りっぽい、無関心)から始まります。
黄疸(眼球結膜や皮膚の黄染)は、肝機能低下によるビリルビン代謝障害を反映します。濃縮尿(紅茶様)や灰白色便を伴うこともあります。
全身倦怠感、易疲労性、食欲不振、体重減少は慢性肝疾患の非特異的症状です。
下肢の浮腫や腹部の血管怒張(メデューサの頭)も門脈圧亢進症の徴候です。
急激な腹痛、発熱、悪心・嘔吐は急性門脈血栓症を疑います。
対応の基本
門脈疾患への対応は、原因疾患の治療と合併症管理が両輪となります。肝硬変の原因に対しては、ウイルス性肝炎では抗ウイルス薬(核酸アナログ製剤、直接作用型抗ウイルス薬)、アルコール性では断酒、NAFLDでは減量と運動療法、自己免疫性肝疾患ではステロイドや免疫抑制薬による治療を行います。
食道静脈瘤に対しては、予防的治療として非選択的βブロッカー(プロプラノロール、カルベジロール)により門脈圧を低下させます。破裂リスクが高い静脈瘤には、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)や内視鏡的硬化療法(EIS)を予防的に実施します。破裂時には緊急内視鏡的止血術を行い、Sengstaken-Blakemoreチューブによる一時的圧迫止血、バソプレシン製剤による門脈圧低下も併用します。
腹水に対しては、塩分制限(5~7g/日)と水分制限、利尿薬(スピロノラクトン、フロセミド)投与を行います。難治性腹水には腹腔穿刺による腹水排液と同時にアルブミン補充を行います。腹水濾過濃縮再静注法(CART)も選択肢です。
肝性脳症に対しては、蛋白摂取制限、分岐鎖アミノ酸製剤投与、ラクツロースや難吸収性抗菌薬(リファキシミン)による腸管内アンモニア産生抑制を行います。誘因(便秘、感染、消化管出血、電解質異常、鎮静薬使用)の除去も重要です。
門脈血栓症に対しては、急性期には抗凝固療法(ヘパリン、ワルファリン、直接経口抗凝固薬)を行います。慢性化した場合は側副血行路の管理と門脈圧亢進症への対応が中心となります。
難治性門脈圧亢進症に対しては、経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)により門脈圧を低下させます。ただし、肝性脳症のリスクが増大します。
肝移植は、進行した肝硬変(Child-Pugh C、MELD高値)、難治性合併症、肝癌の適応基準を満たす場合に検討されます。
リハビリの視点
リハビリテーション専門職にとって、門脈疾患、特に肝硬変患者への介入は、サルコペニアと栄養障害の改善、肝性脳症の予防、ADLとQOLの維持が中心となります。肝硬変患者では、肝機能低下による蛋白合成能の減少、門脈圧亢進症による消化吸収障害、食欲不振、活動性の低下により、高率にサルコペニアを合併します。サルコペニアは予後不良因子であり、感染症、肝性脳症、転倒のリスクを高めます。
運動療法は、肝硬変患者においても安全かつ有効であることが示されています。有酸素運動(ウォーキング、自転車エルゴメーター)とレジスタンストレーニング(軽中等度負荷)を組み合わせ、週35回、1回20~30分程度から開始し、患者の疲労度や肝機能に応じて段階的に増加させます。ただし、食道静脈瘤破裂リスクが高い患者や腹水が大量の患者では、運動強度を慎重に調整します。血圧上昇や腹圧上昇を避けるため、息こらえを伴う高強度トレーニングは避けます。
栄養管理は極めて重要であり、肝硬変患者では糖質制限と蛋白質制限の従来の概念から、現在では十分なエネルギー摂取(2535kcal/kg/日)と適切な蛋白摂取(1.01.5g/kg/日)が推奨されています。特に分岐鎖アミノ酸(BCAA)の補充は筋肉量維持と肝性脳症予防に有効です。夜間の長時間絶食を避けるため、就寝前の軽食(late evening snack: LES)が推奨されます。栄養士と連携し、個別の栄養プランを立案します。
ADL訓練では、疲労を考慮しながら、基本動作(起居、移乗、歩行)の維持・改善を図ります。腹水が大量の患者では呼吸困難や動作制限が生じるため、腹水コントロール後に訓練を進めます。肝性脳症のリスクがある患者では、認知機能を観察しながら、安全な環境で訓練を行います。
転倒予防は重要な課題であり、サルコペニア、肝性脳症、低栄養、薬剤(利尿薬による電解質異常、鎮静薬)により転倒リスクが高まります。バランス訓練、筋力強化、環境調整(手すり設置、段差解消、照明確保)により転倒を予防します。
呼吸訓練は、腹水による横隔膜挙上や胸水により呼吸機能が制限される患者に対して、深呼吸訓練、呼吸筋トレーニングを行い、無気肺や肺炎の予防を図ります。
患者教育として、適切な栄養摂取、規則的な運動習慣、便秘の予防(肝性脳症予防)、感染予防、アルコール禁酒の重要性を説明します。肝性脳症の初期症状(睡眠障害、性格変化)を家族にも理解してもらい、早期発見・早期対応を促します。
多職種連携として、医師、看護師、薬剤師、栄養士と情報共有し、包括的な肝疾患管理を提供します。肝移植が適応となる患者では、移植前のコンディショニング(筋力維持、栄養改善)と移植後のリハビリテーションも重要な役割です。
ひとことで言うと
門脈は消化管からの栄養豊富な血液を肝臓へ運ぶ特殊な静脈系であり、その圧上昇は食道静脈瘤破裂や肝性脳症などの重篤な合併症を引き起こします。リハビリテーションでは、運動療法と栄養管理によりサルコペニアを予防し、患者のQOLと予後を改善します。
関連用語
門脈圧亢進症
食道静脈瘤
肝硬変
腹水
肝性脳症
脾腫
門脈血栓症
側副血行路
Child-Pugh分類
サルコペニア
参考文献
- 日本肝臓学会 - 肝硬変診療ガイドライン
- 日本門脈圧亢進症学会 - 門脈圧亢進症の診療指針
- 日本消化器病学会 - 肝硬変診療ガイドライン
- 日本静脈経腸栄養学会 - 肝疾患の栄養管理ガイドライン
- 日本サルコペニア・フレイル学会 - サルコペニア診療ガイドライン
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