脊椎圧迫骨折とは
脊椎圧迫骨折(vertebral compression fracture)とは、屈曲方向の外力で椎体が圧潰・短縮する骨折です。骨粗鬆症に起因する脆弱性骨折の中で最も頻度が高く、骨粗鬆症性椎体骨折(OVF:osteoporotic vertebral fracture)とも呼ばれます。尻もち・くしゃみなど軽微な外力で発生し、約1/3は誘因なく生じる「いつのまにか骨折」です。好発部位は胸腰椎移行部で、椎体骨折が多発すると後弯変形・身長低下・神経障害など脊柱全体の変形と機能低下をきたします。
どこでみるのか
整形外科・リハビリテーション科・回復期病棟で高頻度に遭遇します。患者訴えは「尻もちをしてから腰が激痛」「寝返りや起き上がりで痛い」「立つと痛いが寝ると楽になる」が典型です。高齢女性に多く、疼痛が軽度で受診が遅れる症例や、無症状のまま過去骨折として発見される症例もあります。リハビリテーション場面では、急性期の床上リハビリテーション、装具下での離床訓練、慢性期の後弯変形と腰痛の管理、再骨折予防まで幅広く関わる主要な疾患です。
何をみているのか
着眼点は、①疼痛の性状(起居動作で増悪・臥床で消失するか)、②受傷時期と骨折の新旧、③骨折型(椎体後壁損傷の有無=安定型か不安定型か)、④局所圧痛の部位、⑤後弯変形・身長低下・多発骨折の有無、⑥神経症状(下肢のしびれ・脱力)、⑦骨粗鬆症の重症度と治療状況です。椎体後壁が損傷している場合は遅発性に神経障害が発生する可能性があり、骨折型の判別が治療方針を分けます。疼痛が寝返り・起き上がりなど軸圧動作で増悪する点も、椎体骨折らしい疼痛の特徴です。
臨床でどうみるか
単純X線側面像で椎体高減少・椎体終板の陥凹・楔状変形を確認し、椎体骨折評価基準に沿って判定します。新鮮骨折は単純X線では判別しにくいため、MRIで評価します。MRIでは新鮮骨折がSTIR・T2強調画像で高信号、T1強調で低信号を示し、脂肪転換(T1高信号)のある椎体は陳旧性と判別できます。治療は保存療法が基本で、安静・体幹装具・鎮痛薬・骨粗鬆症治療薬を組みます。椎体後壁損傷例には経皮的椎体形成術や手術を検討し、骨癒合が得られない遷延治癒・偽関節例でも手術の適応を判断します。
評価で何をみるか
脊椎圧迫骨折の評価では、骨折状態と全身機能の両面を見ます。
- 疼痛の性状 - 起居動作増悪・臥床消失の確認
- 骨折の新旧 - MRIでの新鮮骨折の判別
- 骨折型の判別 - 椎体後壁損傷の有無と不安定性
- 局所所見 - 圧痛部位・後弯・身長低下
- 神経症状 - 下肢のしびれ・脱力・膀胱直腸障害
- 骨粗鬆症の評価 - 骨密度・治療状況・血中ビタミンD
- 身体機能 - 座位保持・移動能力・ADL
これらは相互に影響します。疼痛が強いほど離床が遅れ、廃用が筋力・骨量をさらに減らします。骨折型と神経症状で手術適応を判断し、骨粗鬆症の治療状況と身体機能で離床計画を設計することが、評価を治療に結びつける核心です。
臨床でよく出る問題
脊椎圧迫骨折の患者で生じやすい問題は以下の通りです。
- 疼痛による廃用の進行 - 臥床期間の延長と筋量減少
- 遷延治癒・偽関節 - 骨癒合不全による慢性疼痛
- 後弯変形の進行 - 多発骨折による円背化
- 隣接椎体骨折 - 椎体骨折後の隣接椎体への負荷増大
- 転倒の再発 - バランス低下と再骨折の悪循環
- ADL・QOLの低下 - 移動能力の制限
これらは悪循環を形成します。骨折が後弯変形を招き、変形が隣接椎体への負荷を増大させて再骨折を誘発し、疼痛と不活動が骨粗鬆症をさらに進行させます。疼痛管理と段階的な離床を並行させ、骨粗鬆症治療の継続を確保することが、悪循環を断ち切る核心です。
起こりやすい要因
脊椎圧迫骨折を起こしやすい背景には以下があります。
- 骨粗鬆症 - 女性ホルモン消退と加齢による骨強度低下
- 高齢・閉経後女性 - 骨量減少の主要なリスク群
- 過去の骨折歴 - 軽微な外力での骨折既往
- 転倒・尻もち・くしゃみ - 誘因となる動作
- 後弯変形・身長低下 - 椎体への前方荷重の偏り
- ビタミンD不足・低栄養 - 骨質と筋機能の低下
これらは重複して骨折リスクを高めます。骨粗鬆症は骨の強度低下により骨折の危険性が増加する疾患であり、椎体骨折の既往は新たな骨折の最大の危険因子です。骨の質・筋機能・転倒環境の三層を同時に評価し、骨折予防の計画を立てることが原因対応の鍵です。
注意したい症状
脊椎圧迫骨折の場面で見逃せないサインがあります。
- 下肢のしびれ・脱力・膀胱直腸障害 - 神経障害・遅発性麻痺の徴候
- 安静時痛・夜間痛の持続 - 悪性腫瘍・感染の除外
- 疼痛の遷延 - 偽関節・不安定性の確認
- 多発する新規背部痛 - 連鎖性椎体骨折
- 骨粗鬆症治療の中断 - 再骨折リスクの増大
これらは医師への報告・画像評価に直結します。特に椎体後壁損傷例では遅発性神経障害が発生し得るため、神経症状の出現は緊急評価の対象です。安静時痛・夜間痛は悪性腫瘍・感染性脊椎炎を示唆する所見であり、椎体骨折との鑑別を依頼することが安全確保の基本です。
対応の基本
脊椎圧迫骨折への対応は、骨折管理・離床・予防の三層で組みます。
- 急性期の安静と疼痛管理 - 骨折型に応じた床上リハビリテーション
- 装具の活用 - 体幹装具を用いた安定化と離床訓練
- 屈曲動作の回避 - 起居動作での軸圧・前屈負荷の制御
- 骨粗鬆症治療の継続 - 薬物療法・栄養管理の確実な実施
- 段階的な運動療法 - 背筋トレーニング・バランス訓練
- 転倒予防 - 環境調整と下肢筋力の維持
治療の基本は保存療法で、受傷後1か月は骨折部が不安定なため屈曲を避けた活動管理が重要です。疼痛が和らいだ時点で体幹装具を装着し、立位・座位・歩行を段階的に進めます。骨癒合後も骨粗鬆症治療を継続して隣接椎体骨折を防ぎ、背筋と下肢の運動で転倒を予防することが対応の最も重要な原則です。
ひとことで言うと
脊椎圧迫骨折とは、軽微な外力で椎体が圧潰する骨粗鬆症の代表的な骨折で、起居動作で増悪する腰背部痛が特徴です。保存療法を基本に骨折型と神経症状で手術適応を判断し、骨粗鬆症治療の継続と転倒予防が対応の基本となります。
関連用語
- 骨粗鬆症
- 椎体骨折評価基準
- 椎体形成術
- 遷延治癒・偽関節
- 脊柱後弯
- 体幹装具
- 脆弱性骨折
参考文献・出典
- 「脊椎椎体骨折」(日本整形外科学会)
- 骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折(日本整形外傷学会)
- 骨粗鬆症性椎体骨折に対する積極的入院保存治療(国立病院機構東京医療センター)
- 椎体骨折評価基準(日本骨代謝学会)
- 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版(日本整形外科学会)
- 脊椎圧迫骨折は円背をもたらす(厚生労働省研究報告書)
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