低栄養

低栄養とは

低栄養(Malnutrition; Undernutrition) は、エネルギーおよび蛋白質を含む栄養素の摂取不足または吸収障害、代謝亢進により、体組成(特に除脂肪量・筋肉量)と身体機能が低下し、疾患の臨床転帰が悪化した状態です。2018年に発表されたGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準では、表現型基準(体重減少・低BMI・筋肉量減少)と病因基準(摂取量減少または吸収不良・疾患負荷または炎症)の組み合わせで診断します。入院患者の約30~50%、高齢入院患者の約50~70%、療養型病院では約60~80%が低栄養状態にあります。低栄養は入院期間を1.5~2倍延長させ、合併症発生率を2~3倍、死亡率を2~4倍に増加させます。適切な栄養介入により死亡率20~30%減少、入院期間10~20%短縮、医療費削減が期待できます。

どこでみるのか

急性期病院、回復期リハビリテーション病棟、療養型病院、老人保健施設、特別養護老人ホーム、在宅医療、外来(消化器科・呼吸器科・循環器科・腫瘍内科・緩和ケア科)など、あらゆる医療・介護現場で遭遇します。高齢者は「食べられない」「体重が減った」「力が入らない」、がん患者では「食欲がない」「すぐ満腹になる」、慢性疾患患者では「疲れやすい」「傷が治らない」と訴えます。誤嚥性肺炎・褥瘡・術後合併症などで入院した患者の多くが入院前から低栄養状態です。

何をみているのか

低栄養では、エネルギー・蛋白質を中心とする栄養素の需給バランス異常(摂取<消費)、体組成変化(筋肉量・脂肪量・体水分の減少)、血液生化学的指標(アルブミン・プレアルブミン・トランスフェリン・総リンパ球数)の低下、身体機能低下(筋力・ADL・免疫能)、そしてこれらが疾患の予後に与える影響を評価しています。炎症の有無により侵襲下低栄養(炎症性低栄養) と飢餓性低栄養(非炎症性低栄養) に分類され、病態と治療戦略が異なります。

臨床でどうみるか

評価は栄養スクリーニング→栄養アセスメント→栄養診断→栄養介入→モニタリングの流れで実施します。

栄養スクリーニング:入院時・入所時に全例実施。MNA-SF(Mini Nutritional Assessment-Short Form、0~14点、≤11点でリスク、≤7点で低栄養)、MUST(Malnutrition Universal Screening Tool、0点低リスク~≥2点高リスク)、SGA(Subjective Global Assessment、A正常~C重度低栄養)を使用。

栄養アセスメント:

  • 病歴聴取:体重変化(1か月>5%、6か月>10%)、食事摂取量変化(通常の50~75%未満が2週間以上)、消化器症状(悪心・嘔吐・下痢・便秘)、基礎疾患、薬剤歴
  • 身体計測:体重・身長・BMI(低体重<18.5、高齢者<20 kg/m²)、上腕周囲長(AC)、上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF)、下腿周囲長(CC、男性<34 cm、女性<33 cm)
  • 身体診察:皮下脂肪減少、筋肉量減少(側頭筋・鎖骨周囲・肩甲骨間・大腿四頭筋)、浮腫・腹水、褥瘡、創傷治癒状態、毛髪・皮膚・爪の変化
  • 血液検査:アルブミン(Alb、半減期約20日)≥3.5 g/dL正常、3.0~3.4軽度、2.5~2.9中等度、<2.5 g/dL重度低栄養。プレアルブミン(半減期2日、急性変化反映)≥18 mg/dL正常。総リンパ球数(TLC)≥1500/µL正常、<800/µL重度。CRP(>0.5 mg/dLで炎症性低栄養)
  • 体組成分析:生体電気インピーダンス法(BIA)で筋肉量・脂肪量・体水分量測定。四肢骨格筋量指数(SMI)男性<7.0 kg/m²、女性<5.7 kg/m²
  • 機能評価:握力(男性<28 kg、女性<18 kg)、歩行速度(<0.8 m/s)、ADL(Barthel Index、FIM)

GLIM基準による診断:表現型基準(①体重減少、②低BMI、③筋肉量減少のいずれか)+病因基準(④摂取量減少または吸収不良、⑤疾患負荷または炎症のいずれか)で低栄養と診断。重症度は軽度・中等度・重度に分類。

評価で何をみるか

低栄養の評価には多面的指標を用います。

  • 体重減少率 - 1週間>2%、1か月>5%、3か月>7.5%、6か月>10%で有意な低栄養
  • BMI - 低体重<18.5 kg/m²、高齢者(<70歳)<20 kg/m²、(≥70歳)<21.5 kg/m²で低栄養リスク
  • 血清アルブミン - ≥3.5 g/dL正常、3.0~3.4軽度、2.5~2.9中等度、<2.5 g/dL重度。ただし炎症・肝機能・腎機能・脱水の影響を受ける
  • プレアルブミン - ≥18 mg/dL正常、10~18軽度、5~10中等度、<5 mg/dL重度。急性期の栄養状態変化を反映
  • 総リンパ球数 - ≥1500/µL正常、1200~1500軽度、800~1200中等度、<800/µL重度免疫能低下
  • MNA-SF - 12~14点正常、8~11点低栄養リスク、0~7点低栄養
  • 握力 - 男性<28 kg、女性<18 kgでサルコペニア。低栄養で筋力30~50%低下
  • 歩行速度 - <0.8 m/sでサルコペニア。低栄養で20~40%低下
  • CRP - >0.5 mg/dLで炎症性低栄養。>10 mg/dLで高度炎症、異化亢進
  • 食事摂取率 - 通常の<75%が2週間以上継続で低栄養リスク

これらの指標を統合し、低栄養の有無・重症度・病態(炎症性/非炎症性)を判断します。

臨床でよく出る問題

低栄養に伴う臨床上の問題は多岐にわたります。

  • 感染症リスク増大 - 免疫能低下により感染症発生率が2~3倍、誤嚥性肺炎・尿路感染・術後感染が頻発
  • 褥瘡発生・治癒遅延 - 褥瘡発生率3~5倍、治癒期間2~3倍延長。Alb<3.0 g/dLで治癒困難
  • 創傷治癒不良 - 手術創感染率2~3倍、縫合不全・創離開のリスク増大
  • 筋力・ADL低下 - 筋肉量減少により筋力30~50%低下、ADL(Barthel Index、FIM)が20~40点低下
  • 転倒・骨折リスク増大 - 筋力・バランス低下により転倒リスク3~5倍、大腿骨近位部骨折リスク2~3倍
  • 認知機能低下 - ビタミンB群・葉酸欠乏により認知機能低下、せん妄発症率2~3倍
  • 入院長期化・医療費増大 - 入院期間1.5~2倍延長、医療費30~50%増加
  • 死亡率増加 - 低栄養患者の死亡率は栄養良好群の2~4倍

これらの問題は相互に関連し、負のスパイラルを形成するため、早期発見と積極的介入が重要です。

起こりやすい要因

低栄養を引き起こす要因は多面的です。

  • 摂取量不足 - 食欲不振(約50~60%)、嚥下障害(約30~40%)、口腔問題(歯牙欠損・義歯不適合・口内炎)、悪心・嘔吐、消化器疾患(胃切除後・炎症性腸疾患)、抑うつ(約30~40%)、認知症、孤食・独居
  • 消化吸収障害 - 慢性膵炎、小腸疾患(クローン病・吸収不良症候群)、下痢、薬剤性(PPI長期使用でビタミンB12・Mg吸収障害)
  • 代謝亢進・異化亢進 - 感染症・敗血症、手術侵襲、外傷・熱傷、がん悪液質(約50~80%)、甲状腺機能亢進症、慢性炎症(CRP持続高値)
  • 疾患特異的要因 - がん(食道・胃・膵臓で高頻度)、COPD(体重減少60~70%)、心不全(悪液質30~40%)、慢性腎臓病(透析患者30~50%)、肝硬変(50~70%)、神経筋疾患
  • 医原性要因 - 過度な食事制限(減塩・蛋白制限・糖質制限)、絶食期間延長、術後経口摂取遅延、不適切な輸液管理
  • 社会経済的要因 - 貧困、独居、食料入手困難、調理能力低下、介護力不足
  • 加齢 - 食欲低下、消化吸収能低下、基礎代謝低下、サルコペニア、フレイル

原因の多面的評価により個別化した栄養ケアプランを立案します。

注意したい症状

以下の症状は重度低栄養や緊急対応を要する合併症を示唆します。

  • 著明な体重減少 - 1か月>10%、3か月>15%。悪性腫瘍・甲状腺機能亢進症・糖尿病コントロール不良を疑う
  • 重度低アルブミン血症 - Alb<2.5 g/dL。全身浮腫・腹水・胸水、創傷治癒不良、感染リスク激増
  • リフィーディング症候群 - 重度低栄養例への急速な栄養投与開始後2~5日で低リン血症(<2.5 mg/dL)、低K(❤️.5 mEq/L)、低Mg(<1.5 mg/dL)。不整脈・心不全・呼吸不全・意識障害、致死率10~20%
  • ビタミン欠乏症 - ビタミンB1欠乏(Wernicke脳症:眼球運動障害・運動失調・意識障害、脚気心不全)、ビタミンC欠乏(壊血病:歯肉出血・皮下出血)、ビタミンD欠乏(<20 ng/mL、骨軟化症)、ビタミンB12欠乏(巨赤芽球性貧血・亜急性連合性脊髄変性症)
  • 電解質異常 - 低Na(<130 mEq/L)、低K(❤️.0 mEq/L)、低Mg(<1.2 mg/dL)。不整脈・筋力低下・意識障害
  • 重度感染症 - 敗血症、誤嚥性肺炎、尿路感染。WBC>12,000/µLまたは<4,000/µL、CRP>10 mg/dL
  • 褥瘡深達度増悪 - DESIGN-R分類でD3以上(皮下組織を超える)、ポケット形成

これらの警告症状を見逃さず、集中的栄養管理(NST介入)と原因疾患の治療が必要です。

対応の基本

低栄養の治療は原因除去と栄養療法の統合です。

  • 栄養必要量設定 - エネルギー:維持期20~25 kcal/kg/日、回復期25~35 kcal/kg/日、重症30~35 kcal/kg/日。蛋白質:維持期1.0~1.2 g/kg/日、回復期1.2~1.5 g/kg/日、重症1.5~2.0 g/kg/日(腎機能正常時)
  • 栄養投与ルート選択 - 経口摂取優先(消化管を使えれば使う原則)。不足分は経口栄養補助食品(ONS)で補充。経口困難例は経腸栄養(経鼻胃管・胃瘻・腸瘻)。消化管使用不能例のみ静脈栄養(中心静脈栄養TPN・末梢静脈栄養PPN)
  • 経口摂取増加策 - 嗜好重視、少量頻回食、食環境改善(共食・食事時間調整)、口腔ケア、嚥下調整食(学会分類2021コード0j~4)、食事介助
  • ONS(経口栄養補助食品) - 200~400 kcal/本、蛋白質10~20 g/本。食間または就寝前摂取。3か月で体重2~3 kg、Alb 0.3~0.5 g/dL上昇
  • 薬物療法 - 食欲促進薬(六君子湯・リクシセナチド)、消化酵素、制吐薬
  • ビタミン・微量元素補充 - マルチビタミン製剤、ビタミンB1(100~300 mg/日)、ビタミンD(1000~2000 IU/日)、亜鉛(40~80 mg/日)
  • リフィーディング症候群予防 - BMI<16またはNPO>10日間例は初期投与量10~20 kcal/kg/日に制限し、3~7日かけて漸増。リン(0.3~0.6 mmol/kg/日)・K・Mg・ビタミンB1(100~300 mg/日)を積極的補充。血清リン・K・Mg・血糖を連日モニタリング
  • 運動療法併用 - レジスタンストレーニング(週2~3回)で筋蛋白合成促進、筋肉量増加
  • 多職種協働 - 医師・管理栄養士・看護師・薬剤師・歯科衛生士・理学療法士による栄養サポートチーム(NST)介入

治療効果は1~2週ごとに評価し、体重・Alb・摂取量・握力・ADLをモニタリングします。適切な介入により、2~4週で体重1~2 kg、3か月でAlb 0.5~1.0 g/dL、握力2~5 kg改善します。

ひとことで言うと

低栄養はエネルギー・蛋白質摂取不足や代謝亢進により体組成と身体機能が低下した状態であり、入院患者の30~50%に認め、合併症・死亡率を2~4倍に増加させるため、入院時の栄養スクリーニングと個別化した栄養療法(経口摂取優先、ONS補充、リフィーディング症候群予防)が予後改善の鍵となります。

関連用語

  • サルコペニア
  • フレイル
  • 栄養アセスメント
  • アルブミン
  • 経口栄養補助食品
  • リフィーディング症候群
  • 栄養サポートチーム

参考文献・出典

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