解離性大動脈瘤とは
解離性大動脈瘤とは、大動脈の内側に裂け目ができ、そこへ血液が入り込んで血管の壁の層がはがれるように広がる、きわめて危険な状態です。現在の医療現場では、より一般的に大動脈解離という表現が使われます。
「大動脈瘤」という言葉が入っていますが、いつも先に大きな瘤があるとは限りません。実際には、血管壁の解離そのものが問題で、血流の通り道が本来の内腔とは別に偽腔としてでき、重要臓器への血流低下、大動脈破裂、心タンポナーデ、大動脈弁逆流などにつながることがあります。つまり、胸や背中の激痛で始まり、短時間で命に関わりうる緊急疾患です。
どこでみるのか
救急外来、循環器内科、心臓血管外科、集中治療、救急搬送の現場でみます。リハビリや一般外来で日常的に遭遇する頻度は高くありませんが、「急な胸背部痛」「突然の血圧変化」「原因不明の失神」「神経症状を伴う強い痛み」の背景に隠れていることがあるため、見逃してはいけない疾患として知っておく必要があります。
典型的には、突然発症する胸痛や背部痛で受診しますが、腹痛、下肢虚血、脳虚血、腎機能悪化、失神など、症状の出方はさまざまです。整形外科的な背部痛、消化器症状、脳卒中様症状に見えることもあり、非典型例ほど見落としやすいのが臨床上の難しさです。
何をみているのか
解離性大動脈瘤でみているのは、「痛みが強いか」だけではありません。大動脈壁の裂け目がどこにあり、どの範囲まで広がり、どの臓器への血流を妨げているかをみています。上行大動脈に及ぶかどうかは特に重要で、一般にStanford A型は緊急手術の対象になりやすく、Stanford B型はまず血圧・心拍管理を中心に考えることが多い、という整理が基本です。
また、痛みだけでなく、血圧左右差、脈の触れ方、意識状態、心雑音、神経症状、腎虚血や腸管虚血の徴候などを通して、解離が全身にどんな影響を出しているかを評価します。つまり、局所の血管病変というより、全身循環を一気に崩しうる病態としてみる視点が大切です。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、突然の激痛という時間経過を重視します。「今までにない痛み」「胸から背中へ抜けるような痛み」「引き裂かれるような痛み」と表現されることがありますが、必ずしも典型的とは限りません。高齢者や意識障害を伴う例では、はっきり訴えられないこともあります。
そのため、胸痛を見たら心筋梗塞だけでなく大動脈解離も同時に考える、背部痛を見たら筋骨格系だけで片づけない、神経症状を見たら脳卒中だけでなく大動脈病変の可能性も残す、という姿勢が重要です。理学所見では、上肢左右の血圧差、脈拍左右差、新規の大動脈弁逆流雑音、ショック所見、下肢虚血所見などが手がかりになります。
評価で何をみるか
- 発症時刻が明確な突然の胸痛・背部痛・腹痛の有無
- 痛みの性質(急激、最強、移動する、裂けるような感じなど)
- 血圧の高さ、左右差、ショックの有無
- 橈骨動脈・大腿動脈などの脈拍左右差や触知低下
- 失神、麻痺、しびれ、意識障害などの神経症状
- 冷汗、顔面蒼白、呼吸苦、尿量低下など循環不全の徴候
- 心雑音や大動脈弁逆流を疑う所見
- 心電図や胸部X線だけで説明しきれない強い症状の有無
- 造影CT、経食道心エコー、MRIなどでの画像評価
- Stanford分類やDeBakey分類での病型整理
臨床でよく出る問題
- 胸痛として来院し、急性冠症候群との鑑別が必要になる
- 背部痛や腰痛として始まり、筋骨格系疼痛と紛らわしい
- 脳虚血や失神が前面に出て、神経疾患と誤認される
- 腎・腸管・下肢の虚血により多臓器障害へ進む
- 破裂や心タンポナーデで急速に循環が悪化する
- 一見落ち着いて見えても、突然不安定化することがある
- 初期対応が遅れると予後に大きく影響する
特に問題なのは、「痛みは強いが初期検査が決め手に欠ける」ことがある点です。心電図異常が乏しい、胸部X線が典型的でない、神経症状が混ざるなど、見た目が一定しないため、疑う力そのものが診断の入口になります。
起こりやすい要因
解離性大動脈瘤は、大動脈壁に長年ストレスがかかっているところへ、急な血圧負荷などが重なって起こりやすくなります。代表的な要因は次の通りです。
- 高血圧
- 加齢
- 大動脈瘤や大動脈拡張の既往
- Marfan症候群などの結合組織疾患
- 二尖性大動脈弁など先天的な大動脈関連異常
- 家族歴
- 喫煙
- 妊娠・周産期
- 外傷
- 心臓・大動脈手術後やカテーテル関連の血管損傷
なかでも高血圧は最も重要な背景因子の一つです。急な血圧上昇は、大動脈壁にかかる力を増やし、解離の発症や進展に関与します。
注意したい症状
- 突然始まる激しい胸痛、背部痛、腹痛
- 痛みが胸から背中、腹部、下肢へ移る感じ
- 失神、意識障害
- 片麻痺、しびれ、構音障害など脳虚血を示す症状
- 冷汗、顔面蒼白、血圧低下、ショック
- 呼吸苦や急な心不全症状
- 脚が冷たい、脈が触れにくい、急な下肢痛
- 尿が出にくい、強い腹痛、腸管虚血を疑う症状
これらはすべて緊急対応が必要なサインです。特に「急に始まった強い胸背部痛」に神経症状や循環不全が重なっている場合は、大動脈解離を強く疑うべきです。
対応の基本
対応の基本は、まず救急疾患として扱うことです。疑った時点で安静、モニタリング、循環器・救急・心臓血管外科への連携を急ぎ、画像で確認します。Stanford A型は緊急手術が必要になることが多く、Stanford B型でも合併症の有無によって血管内治療や手術が必要になることがあります。
- 救急搬送・救急対応を前提に動く
- 血圧と心拍数を厳密に管理する
- 疼痛をしっかり抑える
- 造影CTなどで速やかに確定診断へつなぐ
- Stanford A型では心臓血管外科へ緊急コンサルトする
- Stanford B型でも虚血・破裂・難治性疼痛など合併症を見逃さない
- 慢性期は血圧管理、画像フォロー、再発予防教育を続ける
リハビリや慢性期の視点では、術後・保存治療後ともに、血圧管理、活動量の調整、再発徴候の教育が大切です。ただし急性期の痛みや循環不全を伴う場面では、運動や徒手介入の前に、まず命に関わる病態を除外することが最優先です。
ひとことで言うと
解離性大動脈瘤は、現在では大動脈解離と呼ばれることが多く、大動脈の壁が裂けて血液が入り込み、胸背部痛や循環不全を起こす命に関わる緊急疾患です。
関連用語
参考文献・出典
- NCBI Bookshelf: Aortic Dissection
- Merck Manual Professional Edition: Aortic Dissection
- Mayo Clinic: Aortic dissection - Symptoms & causes
- Mayo Clinic: Aortic dissection - Diagnosis & treatment
- NHLBI, NIH: Aortic dissections: Are you at risk? Here's what to know.
- BMJ: The diagnosis and management of aortic dissection
- The Lancet: Acute aortic dissection
- Circulation Journal: Guidelines for Diagnosis and Treatment of Aortic Aneurysm and Aortic Dissection (JCS 2011)–Digest Version–