味覚障害とは
味覚障害とは、味を感じる能力が低下したり、異常な味を感じたり、全く味がしなくなったりする状態です。味覚は、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味という基本味を感じる感覚であり、食事の楽しみや栄養摂取、有害物の回避に重要な役割を果たします。味覚障害が起こると、食欲低下、栄養不良、食生活の質の低下、うつ傾向などにつながることがあります。
ポイントは、味覚障害が単独で起こる場合もあれば、嗅覚障害、口腔疾患、薬剤、全身疾患、神経障害などに伴って起こる場合もあることです。また、完全に味がしなくなる「味覚消失」、味の感じ方が弱くなる「味覚減退」、味が変わって感じる「異味症」、何も食べていないのに味を感じる「自発性異常味覚」など、さまざまな症状パターンがあります。
つまり味覚障害は、原因も症状も多様な感覚障害であり、生活の質を大きく左右する問題として理解することが大切です。
どこでみるのか
味覚障害は、耳鼻咽喉科、口腔外科、歯科、神経内科、内科、リハビリテーション科などでよくみます。特に、脳卒中後、頭部外傷後、薬剤使用中、亜鉛欠乏、口腔乾燥、感染症後などで問題になります。
患者さんの訴えとしては、「食事の味がしない」「何を食べても同じ味に感じる」「口の中が苦い」「常に金属味がする」「食欲がわかない」「料理の味付けがわからない」といった形が多くみられます。リハビリの現場では、脳卒中や頭頸部がん治療後、薬剤多剤併用、栄養状態不良の患者さんに合併することがあります。
何をみているのか
味覚障害でみているのは、どの味が感じにくいか、どの部位の障害か、味覚だけでなく嗅覚や唾液分泌は保たれているか、全身状態や薬剤、栄養状態、口腔衛生です。
味覚は、舌の味蕾、顔面神経鼓索枝、舌咽神経、脳幹の孤束核、大脳皮質味覚野を経て認識されます。そのため、口腔、末梢神経、中枢神経のどこが障害されても味覚障害が起こります。また、嗅覚と味覚は密接に関係しているため、嗅覚障害によって「味がしない」と感じることも多くあります。
つまり、味覚障害では「どこに原因があるのか」「嗅覚は保たれているか」「他の症状はあるか」を組み合わせて、障害の原因と部位を推定することが重要になります。
臨床でどうみるか
臨床ではまず、いつから味がしなくなったか、どの味が感じにくいか、食事の内容、薬剤の使用状況、口腔内の状態、嗅覚の有無、全身疾患、亜鉛の摂取状況などを確認します。そのうえで、舌の状態、唾液分泌、口腔乾燥、歯周病、義歯の適合、味覚テスト、嗅覚テストを行います。
味覚の評価には、濾紙ディスク法、電気味覚検査、全口腔法などがあり、甘味、酸味、塩味、苦味の閾値を測定します。必要に応じて、血液検査で亜鉛、鉄、ビタミンB12などの栄養状態、腎機能、肝機能、糖尿病の有無を確認します。
脳卒中や頭部外傷後の味覚障害では、脳画像評価や神経学的所見も重要です。つまり臨床では、問診、口腔内評価、味覚・嗅覚検査、血液検査、画像検査を組み合わせて評価することが基本です。
評価で何をみるか
- 味がしない、弱い、変な味がするなどの訴え
- いつから、どの味が、どの部位で感じにくいか
- 嗅覚障害の有無
- 口腔乾燥、唾液分泌低下の有無
- 舌の状態、舌苔、口内炎、カンジダ感染の有無
- 歯周病、義歯不適合、口腔衛生状態
- 使用中の薬剤の種類と期間
- 亜鉛、鉄、ビタミンB12などの栄養状態
- 糖尿病、腎疾患、肝疾患、甲状腺疾患の有無
- 脳卒中、頭部外傷、頭頸部手術の既往
- 味覚テスト、電気味覚検査の結果
- 食欲、食事摂取量、体重変化
- 生活の質、精神状態への影響
臨床でよく出る問題
- 食事の味がしない、薄く感じる
- 何を食べても同じ味に感じる
- 常に苦味や金属味がする
- 食欲が低下し、食事摂取量が減る
- 料理の味付けがわからず、濃くしすぎる
- 食事の楽しみが失われる
- 体重減少、栄養不良が進行する
- うつ傾向や意欲低下が起こる
味覚障害では、感覚そのものの問題だけでなく、食事摂取量の低下、栄養状態の悪化、生活の質の低下、社会参加の減少が二次的に起こることがあります。そのため、症状だけでなく、実際の食事状況や心理状態も確認することが大切です。
起こりやすい要因
味覚障害は、口腔疾患、薬剤、栄養欠乏、感染症、神経障害、加齢など多様な要因で起こります。代表的な要因は次の通りです。
- 亜鉛欠乏(もっとも頻度が高い)
- 薬剤性(抗菌薬、降圧薬、抗うつ薬、抗がん剤など)
- 口腔乾燥、唾液分泌低下
- 口腔内疾患(歯周病、義歯不適合、カンジダ感染)
- 嗅覚障害に伴う風味障害
- 脳卒中、脳腫瘍、頭部外傷
- 顔面神経麻痺、舌咽神経障害
- 糖尿病、腎不全、肝疾患
- 甲状腺機能低下症
- ビタミンB12欠乏、鉄欠乏
- 頭頸部がん治療(放射線、化学療法、手術)
- 加齢による味蕾数の減少
特に高齢者では、複数の要因が重なって味覚障害が起こることが多く、薬剤と亜鉛欠乏の組み合わせがよくみられます。
注意したい症状
- 急に味覚が完全に消失した
- 味覚障害に加えて、嗅覚障害、聴覚障害が出現した
- 片側だけの味覚障害がある
- 構音障害、嚥下障害、顔面麻痺を伴う
- 体重が急速に減少している
- 意識障害や認知機能低下を伴う
- 強い口腔内痛や出血を伴う
- 発熱、感染症状が続いている
このような場合は、単なる加齢や軽度の亜鉛欠乏ではなく、脳卒中、脳腫瘍、重症感染症、悪性腫瘍、重度栄養不良、薬物中毒などを考える必要があります。特に急性発症や神経症状を伴う場合は注意が必要です。
対応の基本
対応の基本は、まず原因を特定することです。亜鉛欠乏性、薬剤性、口腔疾患性など、原因によって対応が異なります。
- 原因疾患や薬剤を評価する
- 亜鉛欠乏があれば亜鉛補充療法を行う
- 薬剤性が疑われる場合は薬剤の変更や中止を検討する
- 口腔ケアを徹底し、歯周病や義歯を調整する
- 唾液分泌を促進する対策をとる
- 口腔乾燥には人工唾液や保湿剤を使用する
- 食事の工夫(香り、温度、食感の活用)を行う
- 栄養状態を改善し、ビタミン・ミネラルを補う
- 嗅覚障害が合併している場合は嗅覚訓練を行う
- 心理的支援やカウンセリングを行う
リハビリでは、味覚そのものの回復だけでなく、食事の工夫、栄養摂取の維持、食事環境の調整、心理的サポートが大切です。脳卒中後の味覚障害では、嗅覚や食事環境を工夫することで、風味を補うことができます。
リハビリの視点
リハビリでは、味覚障害が患者さんの食事摂取、栄養状態、生活の質にどう影響しているかを包括的にみることが大切です。特に脳卒中後、頭頸部がん治療後、多剤併用中の高齢者では、味覚障害が低栄養やサルコペニアを進行させることがあります。
食事指導では、味覚が低下していても香りや食感、温度、視覚的要素を活用することで食欲を引き出すことができます。また、亜鉛を多く含む食材(牡蠣、レバー、牛肉、大豆製品など)を意識的に取り入れること、口腔ケアを徹底すること、薬剤の見直しを医師に相談することも重要です。
味覚障害は目に見えない障害であり、周囲から理解されにくいため、心理的な孤立が起こりやすいことも認識しておくべきです。つまり、味覚障害は単なる感覚の問題ではなく、栄養、身体機能、精神心理、社会参加を含めた全体像でとらえる必要があるのです。
ひとことで言うと
味覚障害とは、味を感じる能力が低下、消失、または異常に感じる状態であり、食欲低下、栄養不良、生活の質の低下につながる感覚障害です。
関連用語
- 亜鉛欠乏
- 薬剤性味覚障害
- 嗅覚障害
- 唾液分泌低下
- 味蕾
- 舌咽神経
- 顔面神経
- 口腔乾燥
参考文献
- 日本医科大学付属病院 みんなの医療ガイド:味覚障害
- サワイ健康推進課:味が分からない!?突然起こる味覚障害とは
- NCBI / PMC:The Effectiveness of Zinc Supplementation in Taste Disorder
- PubMed:Drug-induced taste disorders
- 脳梗塞後の味覚障害、リハビリで改善の見込みは?
- 脳卒中後の味覚障害と向き合う
関連記事
- 亜鉛欠乏症の評価とリハビリ
- 嗅覚障害とリハビリテーション
- 脳卒中後の感覚障害とその対応
- 薬剤性味覚障害の見分け方と対策
- 口腔ケアと栄養管理の関係
- 味覚と食欲の神経学的メカニズム
用語集へ戻る
「み」用語集へ戻る