浮腫

浮腫とは

浮腫(edema) は、組織間隙に過剰な体液が貯留した状態です。毛細血管から組織間隙への水分の移動と、リンパ管による回収のバランスが崩れることで生じます。Starlingの法則により、毛細血管内の静水圧上昇、血漿膠質浸透圧低下、毛細血管透過性亢進、リンパ流のうっ滞のいずれかまたは複数が原因となります。全身性浮腫と局所性浮腫に大別され、全身性では心不全、腎不全、肝硬変、栄養障害が主な原因です。局所性では深部静脈血栓症、リンパ浮腫、炎症性浮腫が代表的です。圧痕性の有無、分布、随伴症状から原因を推定し、適切な治療介入を行います。

どこでみるのか

浮腫は循環器内科、腎臓内科、一般内科の外来・病棟、回復期リハビリテーション病棟、訪問診療・訪問看護の現場で頻繁に遭遇します。患者は「足がむくむ」「靴が履けない」「靴下の跡が消えない」「夕方になると足が腫れる」「指輪が抜けない」「顔がむくむ」「体重が増えた」といった訴えをします。心不全患者では「息が苦しい」、腎不全患者では「尿が出ない」、肝硬変患者では「お腹が張る」という訴えに浮腫が伴います。急性の片側下肢腫脹では「突然片方の足が腫れて痛い」と深部静脈血栓症を疑う訴えもあります。

何をみているのか

浮腫の評価では、浮腫の分布(全身性か局所性か)、圧痕性の有無、随伴症状、発症様式(急性か慢性か)、原因疾患を総合的に把握します。圧痕性浮腫は指で数秒間圧迫後に凹みが残り、心不全、腎不全、肝硬変、低栄養で典型的です。非圧痕性浮腫はリンパ浮腫、甲状腺機能低下症(粘液水腫)で認めます。全身性浮腫では心機能、腎機能、肝機能、栄養状態を評価し、局所性浮腫では血管(静脈・動脈)、リンパ系、局所炎症の評価を行います。体重測定、血液検査(アルブミン、BNP、腎機能)、画像検査(心エコー、下肢静脈エコー)が診断の鍵となります。

臨床でどうみるか

診察では、まず浮腫の分布を観察します。両側対称性下腿浮腫は全身性、片側性は局所性を示唆します。圧痕性の確認は脛骨前面を指で5〜10秒圧迫し、凹みの深さ(1+から4+)と消失時間を評価します。発症時期(急性<72時間、慢性>1週間)を聴取し、急性片側下肢腫脹では深部静脈血栓症を疑い緊急評価します。随伴症状として呼吸困難(心不全)、尿量減少(腎不全)、腹水・黄疸(肝硬変)、体重減少・筋力低下(低栄養)を確認します。身体所見では頸静脈怒張、肺野ラ音、III音聴取(心不全)、腹水・肝腫大(肝硬変)、皮膚の発赤・熱感(蜂窩織炎、DVT)、Stemmer徴候陽性(足趾基部の皮膚がつまめない、リンパ浮腫)を評価します。血液検査で血清アルブミン(❤️.5g/dL、特に<2.5g/dLで浮腫)、BNP・NT-proBNP(心不全)、Cr・BUN(腎不全)、AST・ALT・総ビリルビン(肝障害)、TSH・FT4(甲状腺機能)を測定します。心エコー検査で左室駆出率、拡張能、弁膜症を評価し、下肢静脈エコーでDVTの有無を確認します。

評価で何をみるか

浮腫の評価では原因特定と重症度判定のための指標を用います。

  • 圧痕の深さ - 1+(2mm未満、軽度)、2+(2〜4mm、中等度)、3+(4〜6mm、重度)、4+(>6mm、非常に重度)
  • 分布範囲 - 足背・足関節のみ、下腿全体、膝上まで、大腿・陰部、全身性(顔面・手指含む)
  • 血清アルブミン - ❤️.5g/dLで低アルブミン血症、<2.5g/dLで浮腫出現、<2.0g/dLで全身性浮腫
  • BNP/NT-proBNP - BNP>100 pg/mLで心不全疑い、>400 pg/mLで重症心不全
  • 推定糸球体濾過量(eGFR) - <60mL/分/1.73m²でCKD、<30mL/分/1.73m²で浮腫出現しやすい
  • 体重増加 - 2〜3日で2kg以上増加は体液貯留、心不全増悪のサイン
  • 下大静脈径 - 心エコーで≧21mmかつ呼吸性変動<50%は右房圧上昇、心不全・肝硬変で認める
  • 尿蛋白 - 3.5g/日以上でネフローゼ症候群、低アルブミン血症と全身性浮腫をきたす

これらの指標を組み合わせることで、浮腫の原因(心性、腎性、肝性、栄養性、静脈性、リンパ性)、重症度、治療方針が決定できます。急性発症の片側性浮腫ではWellsスコアでDVT確率を評価します。

臨床でよく出る問題

浮腫患者では原因疾患に関連した多様な問題が生じます。

  • ADL低下 - 下肢重量感、歩行困難、靴が履けない、階段昇降困難により活動制限
  • 皮膚トラブル - 皮膚の脆弱化、亀裂、湿疹、掻痒、蜂窩織炎のリスク増大
  • 褥瘡リスク増大 - 組織の脆弱性、血流障害により褥瘡発生・悪化が進行
  • 体重増加による心負荷 - 循環血液量増加で心不全増悪、呼吸困難出現
  • 利尿薬の副作用 - 電解質異常(低K、低Na)、腎機能悪化、起立性低血圧、頻尿による生活の質低下
  • 深部静脈血栓症・肺塞栓症 - 下肢浮腫に伴う静脈うっ滞で血栓形成、致死的肺塞栓のリスク
  • 社会的問題 - 外見変化による心理的苦痛、外出・就労困難、医療費負担(弾性ストッキング等)
  • 難治性浮腫 - 利尿薬抵抗性、多臓器不全合併で管理困難

これらの問題は相互に関連し悪循環を形成します。浮腫→活動低下→筋ポンプ作用低下→静脈還流障害→さらなる浮腫という流れを断ち切るため、原因治療と並行して圧迫療法、運動療法、スキンケアが重要です。

起こりやすい要因

浮腫の原因は全身性と局所性に大別され、それぞれに特有の要因があります。

  • 心不全 - 全身性浮腫の代表、心拍出量低下→腎血流低下→Na・水貯留、静脈圧上昇
  • 腎疾患 - ネフローゼ症候群(蛋白尿>3.5g/日、低アルブミン血症)、急性腎不全、慢性腎臓病
  • 肝硬変 - アルブミン合成低下、門脈圧亢進、腹水と下肢浮腫を合併
  • 低栄養 - 血清アルブミン<2.5g/dL、飢餓、吸収不良症候群、癌悪液質
  • 薬剤性 - Ca拮抗薬(特にアムロジピン)、NSAIDs、ステロイド、ピオグリタゾン
  • 深部静脈血栓症 - 局所性浮腫、長期臥床、手術後、悪性腫瘍、妊娠で高リスク
  • リンパ浮腫 - 一次性(先天性リンパ管形成異常)、二次性(癌手術後リンパ節郭清、放射線治療)
  • 甲状腺機能低下症 - 粘液水腫、非圧痕性、全身性
  • 静脈不全 - 慢性静脈不全、下肢静脈瘤、長時間立位作業
  • 妊娠 - 生理的浮腫、妊娠高血圧症候群では病的

複数の要因が重複することも多く、高齢者では心不全+腎機能低下+低栄養の組合せで難治性浮腫となりやすいです。

注意したい症状

浮腫では以下の症状出現時に緊急対応が必要です。

  • 急性片側下肢腫脹 - 48〜72時間以内の発症、疼痛・発赤伴う、DVT疑い、Dダイマー測定・下肢静脈エコー緊急実施
  • 呼吸困難の出現 - 肺塞栓症、急性心不全、胸水貯留の可能性、SpO2<90%は緊急対応
  • 発熱・局所熱感 - 蜂窩織炎、壊死性筋膜炎の可能性、抗菌薬投与、外科的デブリドマン検討
  • 急激な体重増加 - 2〜3日で3kg以上、心不全急性増悪、利尿薬調整または入院治療
  • 尿量著減 - <400mL/日、腎不全増悪、電解質異常・尿毒症のリスク
  • 意識障害 - 低Na血症(<120mEq/L)、肝性脳症、尿毒症性脳症を鑑別
  • 皮膚潰瘍・水疱形成 - 組織壊死、感染リスク、創傷管理と感染制御が必要
  • 陰部・陰嚢浮腫 - 全身性浮腫の重症化、腹水大量貯留、リンパ浮腫高度進行

これらの症状は生命に関わる合併症または重篤な基礎疾患を示唆します。特に急性片側下肢腫脹はDVTの可能性が高く、肺塞栓症予防のため迅速な診断と抗凝固療法開始が必要です。

対応の基本

浮腫への対応は原因治療と対症療法を組み合わせます。

  • 原因疾患の治療 - 心不全、腎不全、肝硬変の適切な管理が基本
  • 利尿薬 - ループ利尿薬(フロセミド、トラセミド)、SpO2低下時はアルドステロン拮抗薬併用
  • 塩分・水分制限 - 1日塩分6g未満、水分制限は重症心不全・腎不全で1〜1.5L
  • 弾性ストッキング - 圧迫圧20〜30mmHg、足首から膝下まで、静脈性浮腫・DVT予防に有効
  • リンパドレナージ - 用手的または機械的、リンパ浮腫で保険適応
  • 下肢挙上 - 心臓より高位に挙上、就寝時15〜20度、静脈還流促進
  • 運動療法 - 足関節運動(底背屈運動)、歩行、筋ポンプ作用活性化
  • スキンケア - 保湿、清潔保持、亀裂・感染予防
  • 栄養管理 - 高蛋白食(1.2〜1.5g/kg/日)、低アルブミン血症改善、ただし腎不全・肝性脳症では蛋白制限
  • 体重モニタリング - 毎朝同時刻に測定、2kg以上増加で医師報告

圧迫療法は静脈性・リンパ性浮腫で第一選択ですが、動脈閉塞性疾患(ABI<0.5)では禁忌です。利尿薬は適正使用が重要で、過剰投与は腎機能悪化、電解質異常を招きます。

ひとことで言うと

浮腫は組織間隙への体液過剰貯留で、心不全、腎不全、肝硬変、低栄養が主な全身性原因であり、原因治療と利尿薬、圧迫療法、生活指導を組み合わせて管理します。

関連用語

  • 圧痕性浮腫
  • リンパ浮腫
  • 深部静脈血栓症
  • 低アルブミン血症
  • ネフローゼ症候群
  • 心不全
  • 弾性ストッキング

参考文献・出典

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